遊撃戦

 地球と瑠国の間で終戦協定が結ばれ、共同対処のための同盟が結ばれたとの報告が入る頃には「入谷」は敵艦一隻を沈め、航空隊は敵機十二機を撃墜して帰投していた。そして遥か彼方の交渉が行われていた宙域では、史上初となる地球連邦と瑠国の連合艦隊が結成された。新たな友好国となった地球連邦の宇宙艦隊はかつての軍事境界線を越え、瑠国の宇宙艦隊は地球連邦の艦隊と混ざりあった。


「警戒態勢の解除命令が出ました!地球連邦の第五統合任務部隊及び瑠国第十、十一、百十九、二百四艦隊、編成完了とのことです!」


「司令部より入電、第一別働隊はそのまま敵の出現報告が入り次第急行し、敵艦隊を捕捉撃滅せよとのことです!」


「よし、『入谷』はこれより遊撃戦を展開する。周辺に敵艦の機関反応はないが、いつ現れるともわからん。警戒を怠るな」


 私がそう命令した直後、電探手が急を告げる。


「敵の小艦隊らしき機関反応をキャッチしました!距離三万、気づかれている模様です!」


「機関分析完了、敵艦隊は大型艦三、小型艦十三で構成されている模様です!」


「格闘戦用意!砲戦甲板展開、急げ!」


 「入谷」は増速する。敵艦の中に斬り込み、攻撃をかけようというのだ。


「機関全速、高機動開始!敵艦隊まで距離百で攻撃しろ!」


 私はそう命じ、舵輪を握った。


「敵艦、増速!突っ込んできます!」


「これより『入谷』は錐揉み旋回、敵艦の間隙に侵入してこれを撃破する。『佐留波』、『神庭』及び第二〇三四駆逐隊はこれに先んじて敵艦隊に飽和雷撃をかけろ!本艦の突入直前に命中させるんだ!『入谷』も同じく飽和雷撃、敵艦隊を撹乱する!」


「了解!縦型発射管及び艦首、舷側発射管は全門発射!短魚雷ランチャーは十五秒後に発射する!長距離魚雷は無線誘導、敵艦を手動で狙え!」


「了解!」


 魚雷が次々に発射され、幾条もの航跡を引いて敵艦へと突っ込んでいく。短魚雷が発射された五秒後、観測手が叫んだ。


「接敵二十秒前!魚雷弾着、今!」


 敵艦隊の中に突っ込んだ魚雷が景気良く爆発すると、敵艦隊は猛烈な爆発に数隻を落伍させた。大型艦が一隻バラバラになり、他の艦も多かれ少なかれ損傷を負っている。


「接敵します!」


「全砲門、撃ち方はじめ!敵艦隊に向け全力斉射!敵艦隊の兵装と大型艦を優先して叩くんだ!」


「了解、撃ち方はじめ!」


 敵艦隊を至近距離で狙う主砲や副砲は、約二十パーセントの命中率でもって敵艦を穿った。何十発もの砲弾を食らった敵大型艦はバラバラに分解し、横に長い小型艦は縦に割れて宇宙の藻屑と化してゆく。ものの三分もしないうちに敵艦隊の残存艦は一隻もなくなり、「入谷」は一発の至近弾を受けただけで戦闘を終了した。副長は拍子抜けしたような顔で言う。


「呆気ないですな」


 私は副長に、諭すような口調を意識して指示した。


「敵艦隊への飽和攻撃が成功したからだ。気を抜くなよ」


「はい」


「サルベージ準備を開始する。敵艦の捕縛準備を開始せよ。第二〇三四駆逐隊、作業現場を保護するんだ」


「はい」


 「入谷」および「佐留波」「神庭」は索敵を再開し、敵艦隊を警戒し味方となった地球艦隊のいずれかが現れるのを期待しつつ地球連邦の領域に入る。地球連邦の小艦隊が前方に見えてきたのは、程なくしてからだった。

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