コーヒー一杯と緊急報告
「提督、このコーヒーは美味しいですね」
鹿波は角砂糖三個、ガムシロップ二カップ、ミルク三カップを投入して苦味を過剰に制圧したコーヒー飲料のような何かを飲みながら言う。私はマグカップに二杯目のブラックコーヒーを飲み干してから、鹿波の手元を見やった。
「そんなに苦かったか……?」
私の問いに、鹿波は首を振りながら返答する。
「いえ、単純に自分が甘党なだけです」
「そうか。そういえばこのコーヒーは特殊ブレンドでな、カフェインを多めに含むんだ」
私の言葉に、鹿波は顔をしかめた。
「へえ……健康に悪そうですね」
「いや、黎明期の宇宙軍コーヒーには覚醒剤に近い代物もブレンドされてたからそれに比べりゃあマシだ」
鹿波はしばらくぽかんとした表情を浮かべていたが、しばらくしてツッコミを入れた。
「黎明期ってもう四百年以上前じゃないですか」
「ああ、そうだな」
「そんなものと比べないでくださいよ。それで、スピーチってなにを言えばいいんですかね」
「鹿波、お前は官僚……だよな?」
「まあはい」
「じゃあ官僚式に格好いいことでも言うことだな」
「わかりました」
「そういえばスピーチと式典が終わったら私は恐らく配置換えになると思う。新しい配置先が決まったら、遊びにきてくれるか」
「はい、喜んで」
とそのとき、私の携帯電話に防衛総隊の釜村副司令官からの着信が入る。私は席を立った。
「すまない、電話を取ってくる」
私が着信を受けると、釜村副司令官は慌てた声で急を知らせる。
「利久村准将、すぐに特甲談話室に来てくれ。急ぎの用だ」
「わかりました」
私は鞄を持ち、鹿波に「終わったら出といてくれ」と言ってラウンジを出た。特甲談話室の前に着くと、釜村副司令官がそこに立っている。部屋に入ると、釜村副司令官は堰を切ったように話し始めた。
「緊急事態だ。地球戦線で同時多発的に正体不明の敵による攻撃があった。地球艦隊も同様の被害を受けているようで、現地の残存移動基地『ハ-〇二二三』は地球連邦の総旗艦『カラマリア』を含む残存艦の接触と地球連邦政府直々の講話準備協議を受けた。こちらの被害としては第九、第十二、第百二十、第二百三艦隊の主力艦がほぼ壊滅状態、さらに移動基地までもが失われたらしい。地球戦線とは通信が繋がっており、現在政府は講話を行う方向で調整に入っている。利久村くんの任務はただ二つ。新型の一等特殊戦闘艦『
「味方艦隊のやられた状況はどうなっていましたか」
「報告によると重力航法反応なしに突然出現した敵艦隊から一方的に攻撃を受け、こちらの攻撃は回避されたらしい。それ以外は詳細不明だ」
「なるほどわかりました。『入谷』の訓練状況はどうですか」
「実戦試験に合格し、機動戦訓練課程もきちんと修了している。点数は五百点中四百九十三点、紛れもない精鋭だ」
「わかりました。では、一等戦闘艦『入谷』の艦長職及び第一別働隊指揮官職を拝命致します」
「それではあと二十分で出航だ。第一九三日出丸の準備もそれまでには終わるらしい。幸運を」
「ありがとうございます」
私は特甲談話室を出ると、港湾エリアへ向かう。鹿波に「悪いがこれから長い任務に出る。式典の挨拶頑張れよ」と伝言を言付け、私は第一九三日出丸のタラップを駆け上がった。
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