対空戦

 第一九三日出丸には四機の敵機が接近してきた。おそらくレース用宇宙機の改造と思われる機影が対艦砲を撃ちつつ左右から接近してくる。


「機銃群は対空射撃、急げ!弾幕を張るんだ、早くしろ!発射管、防火隔壁を下ろせ!両舷近接防御迫撃砲、展開及び装填を完了し次第砲撃準備!」


 船長が命令し、船内に警報音が響き渡る。対空機銃は凄まじい勢いでエネルギーを吐き、敵機の対艦砲弾は船体をかすめた。


「機銃、命中!」


 銃座から報告が飛ぶ。敵機はジグザグに飛んで避けようとするが、銃座は完全に敵を捉えたようだった。右舷方向に爆発の光が見える。


「敵機一を撃墜!」


「続いて狙え!近接防御迫撃砲、装填急げ!」


 艦長の命令に、近接防御迫撃砲の装填手は叫んだ。


「装填完了!」


 操舵手は舵輪を細かい手付きで操り、回避行動を取ろうとする。私は鹿波に無線応答を命ずると、艦長の肩を叩いた。


「船を二、八、三に直進させてください」


「二、八、三……?」


「そうです。錐揉み機動をしながら二、八、三へ急速変針してください」


「わかった。操舵手、錐揉み機動で二、八、三に急速変針」


「了解!」


 船体がグイと向きを変え、左舷側から飛んできた敵機二機が無理矢理こちらを追おうとして向きを変える。機銃はこの機を逃さず、直進してくる敵機に猛烈な射撃を浴びせた。続けざまに爆発が光り、敵機が爆散する。


「新手の敵機各三機、上方および下方から急速接近!距離二百二十、二百……」


 レーダーを見ていた航法手が叫ぶ。艦長は手を掲げて命じた。


「錐揉み機動停止、船体進行軸角度+九十度で急制動!近接防御迫撃砲、発射準備!」


「こちら近接防御迫撃砲、準備よし!」


 打てば響く返事が迫撃砲の砲座から飛ぶ。レーダー手が百三十まで距離を読み上げ、船体が制動し終えたその直後だった。


「両舷、近接防御迫撃砲一斉射!」


 近接防御迫撃砲が斉射されると、新手の敵機はバラバラになって飛んでいく砲弾に破砕され宇宙の塵と消えた。残る一機の敵機はなおも追ってくるが、機銃の射撃が止むことはない。


「敵機、撃墜!」


 機銃手の声とともに爆発が船尾方向で光った。


「鹿波、戦況は」


 私が鹿波のもとへ戻ると、鹿波はメモを差し出した。メモには『戦況は上陸部隊優勢、全部隊本堂中央ブロックへの進入に成功』という文字列。


「わかった。準備でき次第突入させてくれ」


 私が言うと、鹿波はすぐに「突入準備は」と無線の向こうに問うた。そして応答を聞いた鹿波は命じた。


「利久村提督からの司令です。第一波の全部隊は突入及び検挙を開始せよ!」

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