敵空母

「第一戦闘艦群、現在敵艦隊と交戦中!」


 その報告の直後、第二戦闘艦群と揚陸艦群の索敵を担当する偵察巡航艦「酒匂さかわ」の超光速探信儀スーパーレーダーは何か大きな質量が五十光分の距離に出現したのを探知した。


「敵味方識別信号、不明!友軍ではありません!」


 「酒匂」の艦長が報告し、鹿波が驚愕の表情を浮かべる。


「これは……もしや」


「鹿波、どうした」


 私の質問に、鹿波は恐怖の色を浮かべながら答える。


「あれは恐らく血殺団の空母です」


「……空母?間違いはないのか!」


 私は聞き返した。空母、つまり母艦といえば未だに発見できていない、血殺団の秘密兵器ではないか。


「間違いありません、彼らの空母です。橙瑠第一諜報群の情報によれば……」


「どうして瑠国に伝わっていないんだ?」


「交易や連絡船団が三ヶ月間中断されていて連絡すらままならなかったので、恐らくそのせいかと……」


「まあいい、我々は奴に攻撃をかけるしかない。防空艦は艦隊外縁に展開、高機動戦闘艦群は突出して敵空母を叩け!敵攻撃機を迎撃しつつビーム砲による飽和攻撃をかけろ!」


「敵空母は射程外です!」


「ならば近づくまでだ!第二戦闘艦群、重力航法始動準備!四光分まで接近する!」


「衝突の危険が……」


「ならば三光分半だ!重力航法距離修正、四光分半まで敵艦に接近せよ!」


「はい!」


 全艦が直ちに重力航法を始動し、敵空母に肉薄すると猛烈な射撃を浴びせた。敵空母は応射するが、機銃程度では戦闘艦にかすり傷一つすらも与えられない。


「砲撃、やめ!」


 猛烈な砲撃で穴だらけになった血殺団空母は少しの間燃えていたが、やがて大爆発とともに宇宙の藻屑と消えた。そして揚陸艦群を襲いにきた血殺団の攻撃機は防空艦の餌食にされつつあった。第一九三日出丸も機銃と機関砲で対空弾幕を張る。見張員と機銃手、そして船長が阿吽の呼吸で繰り出す指揮は、まさに歴戦の勇士そのものだった。


「敵機三機接近!」


「機銃手、集中弾幕射撃だ」


「了解!」


 機銃手の見事な射撃で、敵機は続けざまに爆散していく。


「敵大型爆撃機、前方より接近!対艦砲で攻撃してくるようです!」


「艇首下げ、機関砲全力射撃!敵爆撃機を叩け!」


「揚陸艦『はくな』、被弾!防空カバーを要請しています!」


「『はくな』防空管制につなげ!防空艦『夏城なつしろ』、応答せよ!」


「こちら夏城」


「こちら利久村。敵機を『はくな』に近づけるな!『はくな』に接近する敵機を優先して落とせ!」


「了解!対空シフト変更します!」


「こちら『酒匂』、残存敵機二十を切りました!積極対空戦闘開始の許可を!」


「こちら利久村、積極対空戦闘への切り替えを許可する!」


 積極対空戦闘によって敵攻撃隊が全滅した頃、揚陸艦群は本堂まであと少しの距離まで近づいていた。

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