再出発

 第一九三日出丸を見たとき、私は少しほっとした。損傷も何もなく、ただそのスタイリッシュに細長く設計された速そうな船体が浮かんでいるだけでどこか嬉しさを感じる。


「第一九三日出丸は艦橋後部気密接舷弁エアロックに接舷されたし。司令部要員の乗船が完了し次第、旗艦任務を本艦より移譲する」


 伊九八の主席通信士が指示を出すと、第一九三日出丸は伊九八の艦橋後部に接舷した。


「書類や設備は甲板兵に運ばせます」


 副長がそう言い終わる前に、鹿波は書類が収められたケースと大型の指揮システム電算機の筐体きょうたいを背負って移動を始めた。瑠人の兵が四人がかりでようやく運んだものを一人で運ぶ姿は、鹿波が橙瑠であると再確認させてくれた。


「准将、お疲れさまです。橙瑠艦隊による乙号計画は受理されました」


 第一九三日出丸の船長がそう報告する。


「それはよかった。筐体を設置し次第再出発しましょう。鹿波、電算機の筐体を床に置いて電源を接続せよ」


「はい」


 鹿波が作業を終えると、私は橙瑠の艦隊に指示を出した。


「本連合艦隊は現時点をもって血殺団の根拠地、血盟友士本堂への急襲作戦を開始する!全艦艇は重力航法の目標座標を本堂手前一〇光分地点、二五〇・二三五・〇一二へとセットせよ、作戦内容は以下の通り。まず二手に分かれて砲撃を行い『血盟友士本堂』の防御に損傷を与え、然る後に戦闘艦の半数で血殺団艦隊を引き付ける。そして残りの半数と強襲艦艇群によって本堂に肉薄、内部に兵を突入させ樺原かばはら 常翔じょうしょう教祖以下教団幹部を確実に捕縛せよ。捕縛が不可能なら速やかに殺していい。上陸部隊の統合指揮官は私が務める!質問はあるか」


 質問はない。私はサッと手を挙げ、電算機のキーを叩いた。全艦艇に座標が共有される。


「それでは各艦、速度七五〇で重力航法を開始せよ!」


 私の指示で、全ての艦が重力航法を開始した。そして次の瞬間、連合艦隊は暗黒の中に再び姿を現す。艦隊は二手に分かれ、第一戦闘艦群が強力な戦闘宇宙ステーション『血盟友士本堂』の南方に、第二戦闘艦群がの北方につくと我々はステーションへ砲雷撃をかけた。


「ビーム三斉射、然る後に魚雷を本堂西方向及び東方向から命中するようにセット、発射!」


 ビームの第一斉射が着弾すると、たちまち血盟友士本堂からの猛烈な砲撃による迎撃が始まった。橙瑠艦隊は数隻の損害を出しながらも執拗に砲塔を狙って撃ちまくった。


「雷撃弾着、今!」


 その声と同時に、血盟友士本堂の表面で次々と爆発が起こる。


「血盟友士本堂から艦隊が出撃した模様!第一戦闘艦群の方向へ向かってきます!」


「第一戦闘艦群の狙撃艦はなるべく敵大型艦を狙え!一隻でも多く沈めるんだ!」


 私の指揮に応じて、橙瑠の艦隊は高精度の狙撃砲で本堂のゲートから出てくる敵大型艦に命中弾を与えていく。


「やったぞ!」


 橙瑠の狙撃艦の砲撃を三発受けた血殺団の重戦艦がゲート付近で爆発した。本堂への攻撃は成功しつつある中、敵艦隊は第一戦闘艦群の方向へと真っ直ぐに進み始めた。


「狙撃艦、下がれ!戦闘艦群は応射しつつ展開、敵艦隊を要塞の射程外までひきつけろ!」


「利久村提督、強襲部隊の準備が整いました」


 鹿波が報告する。


「第二戦闘艦群、北方砲台に追加で雷撃を加えろ!目標は強襲揚陸の障害になりそうな砲台全てだ!」


 魚雷が放たれ、炸裂した。私は強襲揚陸艦群に前進を命じ、第一九三日出丸にも前進を命じる。護衛艦隊も追従し、本堂攻略が始まった。

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