乱戦の行方

 敵大型戦艦の艦橋にエネルギー砲が命中し、艦橋に穴が開く。


「よし、魚雷を一斉射、しかる後に主砲を二斉射。外すなよ」


 艦長がそう言い、魚雷が敵大型戦艦の砲塔に命中する。敵大型戦艦は砲塔を炎上させつつ制御を失って取り舵を取ったまま速力を上げた。


「本艦は敵の内側から敵艦隊を攪乱、第六艦隊とともに敵艦隊を殲滅する!艦長、血殺団艦隊の攻撃力が高い艦を優先的に殲滅してください」


「了解。一番二番砲塔は正面の駆逐艦を、三番から五番は左舷方向の軽巡航艦及び駆逐艦を、六番から八番は右舷方向の重巡航艦を、九番十番は艦尾方向の襲撃艇を攻撃せよ!全ての近接武装システムは肉薄する魚雷艇迎撃に待機!副砲は速射にスイッチ、周辺の敵高機動艦に弾幕を張れ!機動戦再開!」


 伊九八は姿勢制御スラスターを再起動し、濃密な弾幕を張りながら敵艦の群れを縦断した。敵艦が態勢を崩すとすぐに橙瑠の艦が張り付いて猛烈な砲撃をかけ、一隻また一隻と沈めていく。そして先程撃破した大型戦艦が取舵のまま血殺団の巡航艦列に突っ込んでいった。巡航艦数隻が戦艦に衝突し大破すると、血殺団の艦隊運動はついに破綻する。


「こちら血殺団第十二巡航戦隊、瑠艦隊へ投降する。全火器の残弾はこれを投棄する。機関はすでに停止せり」


「こちら血殺団第五駆逐隊、瑠艦隊へ投降する。抵抗の意志はない。機関を停止する」


 血殺団の第十二巡航艦戦隊と第五駆逐隊が降伏し、橙瑠艦隊の臨検を待って停止する。艦橋の面々が少し安堵したのと同時に、警報が鳴り響いた。


「敵巡航艦二隻、突っ込んできます!」


「特攻か!?急変針用意、予備シールド展開準備!」


 観測手が言うのと、艦長が指示するのは同時だった。


「敵艦より高速重力波発生を確認!」


 観測手の言葉に、艦長は間髪入れず命令を出した。


「シールド展開、今すぐだ!」


 シールドが船体を覆うか覆わないかといった瞬間に、猛烈な衝撃が右舷側のシールドに走った。負荷計測器の針は振り切れ、シールドが消滅する。


「近接衝撃波砲を速射せよ!全乗員は主翼ブロック及び右舷側より退避!」


 艦長の命令が終わるか終わらないかのうちに、右側の主翼がひしゃげ、伊九八の船体が回転した。そして艦尾方向に敵艦だった金属塊が飛んでいく。損害報告が一向に始まらない中、橙瑠艦隊は敵艦隊を滅多打ちにしていった。


「損害を報告せよ、急げ!」


 艦長が怒鳴る。そして衝突から二分で損害が報告された。


「報告。損害は右舷側主翼と右舷主翼の推力機関及び六番から八番砲塔喪失、人員については下士官一名及び兵三〇名が行方不明です」


 そう言った甲板長に、艦長が悲しそうな顔で返す。


「船体は大破判定、機関は中破判定が妥当だな。行方不明者の捜索を急げ。帰港はできそうか」


「はい」


「橙瑠艦隊には悪いが、ここで我々は戦線離脱だな……提督、旗艦を移してください」


 艦長がそう言うと、甲板士官が連絡カプセルに書類などを積み込むよう指示した。


「どの艦に旗艦を移すのですか?」


 そう尋ねる鹿波に答えるように、私は言葉を発する。


「第一九三日出丸を呼び出してください。あの船に旗艦を移し、乙号計画へと作戦方針を転換します。すなわち、敵司令部突入作戦への参加を目指します」


「わかりました。荷物をまとめておいてくださいね」


 艦長はそう言うと、船内の無線が途絶えた区画へと船外活動服を着ながら歩いていった。第一九三日出丸はあと四分で到着するということで、伊九八は破損部分を応急的に塞ぐ作業にかかる。荷物をまとめてコンテナに梱包した頃、第一九三日出丸は到着した。

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