橙瑠の星へ

 温暖な気候の鞍旗山は、私にとっては初めての環境だった。第一種軍装を着ていると汗が噴き出してくる。そんな鞍旗山で私を出迎えたのは、橙瑠警察の羅道らどう公安委員長だった。


「瑠国宇宙軍の准将と聞いたが……」


「ええ、私が瑠国宇宙軍の利久村です。准将として、瑠国の大使として鞍旗山へ来ました」


「幼いように見えるのだが」


「一五です」


「そうか。艦隊アカデミーを卒業して一年くらいか?」


「はい」


「なるほど、瑠国も切迫しているのだな……こんな新任士官に階級をつけて大使にするとは」


「……」


「利久村の上げた戦果をご覧になりましたか?」


 羅丸が非難するような顔で公安委員長に訂正を求める。


「悪かった、訂正しよう。利久村大使は士官としては素晴らしい。しかし純粋に聞かせてほしい。喧嘩を売っているわけではないが、通常時に瑠国の大使をしている奈川ながわ須貝すがい大使はどうして来ないのだ?なぜ君でなければならない?」


「それは、私がだいだい協定で定められている戦時大使の基準を満たす唯一の瑠人であるからです」


「奈川大使は満たしていないのか……?」


「橙協定に定める戦時大使の基準は第一に瑠国政府の委任状を正式に交付されて得ていること、第二に橙瑠の居住者が七十パーセント以上の地域で五年以上生活した経験があること、第三に橙瑠の文化に造詣が深いこととなっており、奈川大使は手続きの都合上第一条件を満たしていません」


「なるほど、そうだったか……。では利久村准将、鞍旗山へようこそ。会談は統治府で正午からだ、二時間待ってくれ」


「わかりました。統治府までは何で行けばよろしいですか?」


「ああ、車を手配してある。他に同行している者は葉辛丸ホテルで待機してくれ。それからその寝ている子供は古桃瑠……か?」


「そうだと思われます。寝ているのではなく倒れています」


「わかった。医務室で精密検査と処置を受けさせる」


「ありがとうございます」


「それで……君がこれを送信した羅丸吏玖くんだな?」


 羅道公安委員長は羅丸に尋ねた。羅丸は「はい」と返答する。


「吏玖くん、久しぶりだな。私のことを覚えているか?」


「……?」


「まあ覚えてなくても無理はない、二歳の頃以来だからな。私は君の叔父だ」


「え」


「私の妹が羅丸宗氏の妻、君の母だからね。しかし長いこと会わない間に見違えたね」


 羅丸は困惑している。羅道公安委員長は更に続けた。


「どうだね、橙瑠自治政府で働かないか?外交官としてしかるべき教育を受けたら、きっと素晴らしい外交官として橙瑠や瑠国に降りかかる禍を躱す活躍ができると思うよ」


 羅丸は微笑んで羅道公安委員長を見た。


「それはまたの機会にお願いします。今は利久村の交渉の方が重要ですから」


「ああわかった。今が十時一五分だからそろそろ車を回す」


「ありがとうございます」


 私はやってきた車に乗ると、統治府へと続くシークレットロードに入る車を見送る羅丸と別れた。会談まであと一時間四十分、シークレットロードを通過する車は順調に加速していた。

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