第一九三日出丸にて
華輝第三中継基地に着いた私は、ゲートの検問員に声をかけた。
「利久村だ。司令部権限でこの二人を同行させる。ゲートを通過させてくれ。それから意識不明の子どもがいる。医務室が使えたらその子のスキャンも頼む」
「わかりました、医務室に連絡します。通過してください」
羅丸が運転する車がゲートを通過すると、医療要員が駆け寄ってきた。
「スキャナへ搬送します。担架に乗せますから手伝ってください」
「わかりました」
羅丸が立ち上がり、少女を担架に移そうとしたそのときだった。
「船との連絡を開始します」
その声を聞いた私はマイクに向かって話したが、応答がない。
「第一九三日出丸、応答してくれ」
そう叫んだとき、やっと通信がつながった。
「こちら第一九三日出丸、どうぞ」
「華輝第三中継基地に降着し、私と同乗者二名を回収されたい」
「了解。敵艦の追尾を振り切り次第向かいます」
私はその声に少し不安を感じながらも、第一九三日出丸が着陸してくるのを待った。
「お待たせしました」
十分ほどで第一九三日出丸は着陸し、私と羅丸、少女を乗せて飛び立った。
「敵艦の追尾は振り切りましたが、まだ近くにいると思われます。行き先は……?」
「橙瑠自治共和国首都、
「わかりました。では二日の航行になりますね」
私はそれを聞いて、「速いですね」とだけ言った。顔には驚きが張り付いていただろう。ここから鞍旗山まで行くなら、軍艦でも七日はかかるのである。船長は誇らしげに言った。
「この船が元々密輸船だったのはご存知ですね?」
「そういえば聞いたことがあります」
「その頃に使われていた密輸戦術は、亜光速では低巡航速度の船としてコストを抑え、超光速域では極めて速くし逃走や輸送の際の速度を速めるというものでした。ですからこの船は、軍艦以上の超光速域速力を誇ります。まあ格闘戦においてもそれなりのスペックは持っていますけどね」
「なるほど」
「ちなみにこの船は公称速力は瑠国宇宙軍四位ですが実測速力は瑠国宇宙軍一位だと思いますよ」
「へぇ……」
私は羅丸を通信室に連れて行くと、鞍旗山へ通信を打つように頼み、艦隊司令部からの委任状を手渡した。
「橙瑠自衛軍の協力を要請するために、瑠国政府及び瑠国宇宙軍は全権大使として利久村准将を送る。利久村准将は瑠国宇宙軍きっての名指揮官であり、現在発生している血殺団の乱において瑠国宇宙軍の小戦艦を操りすでに全軍第一位の戦功を上げている」
二日間といっても、船が光の速度を超えて移動するため船内で経過する時間はゼロである。船長がセットを済ませてグラビティドライブを起動すると、次の瞬間には第一九三日出丸は鞍旗山の
「申請していないが、着陸許可をくれ。瑠国宇宙軍の利久村准将だ」
私が宇宙港の管制官に言うと、管制官はしばしの沈黙の後すんなり着陸許可を出した。第一九三日出丸は葉辛丸宇宙港にすべるように着陸する。
「ヘルスチェック及び身分証明書の提示をお願いします。身分証明書が提示できない場合は政府機関の発行による理由書を提示してください」
入管の職員が船内に入ってくる。チェックが済み、少女の分の理由書を書き終えると鞍旗山への入星が認められた。
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