解説と提供
「それならつまり、橙瑠の宇宙艦隊は正面切っての砲撃戦ではなく相手との巴戦によってエンジンや装甲の薄い冷却器を狙い撃ちすれば十分勝てるということですね?」
鹿波は興奮気味に言う。私は首を縦に振った。
「すごい、橙瑠の艦隊でもあんなに強い船を沈められるんだ」
独り言のように鹿波が感嘆の声を漏らす。私はそっと解説を付け加えた。
「そうです。その気になれば瑠国艦隊以上の成果を上げることもできます」
鹿波は「なるほど」と言って少し考えていたが、私にさらなる質問をした。
「待ってください、そんなことを我々に教えて良いのですか?」
「どういうことですか?」
「あなたが考えられたこの戦術は、おそらく瑠国をさらに強くする機密情報になり得ます。そんなものを一介の自治区官僚に伝えるなんて気前が良すぎませんかね」
「ああ、すでに瑠国はこの戦術を取り入れるために艦隊の改造計画を構想していますし橙瑠艦隊はその実証部隊です。だからこれは言っても問題ないんです。すでに三年前に橙瑠と瑠国軍の間で協定も結ばれていることですから」
私が言うと、鹿波は納得した表情になった。
「なるほど、だから三年前から艦隊の更新が活発だったんですね」
「そうです」
一つの呼び出し音が部屋に響く。鹿波が受話器を取り、「はい防衛局の鹿波です」と応答する。
「まさか私が……ですか?」
受話器の向こうから「当然です!」という強い語調の声が漏れてくる。鹿波は「わかりました、速やかに向かいます。失礼しました」と言って受話器を置いた。
「参謀として『伊九八』に乗り込めとのことです。准将、よろしくお願いします」
鹿波がそう言ったとき、私は椅子から転げ落ちそうになった。20代後半くらいで戦闘経験も全くなさそうなこの青年官僚を戦場に引きずり出そうというのか。
「ちなみに鹿波さん、あなた戦闘経験は?敵を見たことは?」
「ありません。一応格闘技は少しやってますがその程度です」
「わかりました。派遣をやめるように軍事局長を説得します」
「いえ、行かせてください。私はこれまで後方で指揮を執ってきました。前線の戦いも知りたいのです」
「そうですか……遺書は書いておいてくださいね」
私が冗談や虚仮威しのつもりでそう言うと、鹿波はペンと紙を取り出して言った。
「五分ください」
彼は五分で遺書を書ききれる。つまり、決断は早いだろう。彼を連れて行くのも悪くないかもしれないと私は思い直し、彼をどのポジションにつけるかを思案した。迎えの車に乗る前に鹿波は遺書を書き上げ、デスクの上に置いて立つ。そして迎えの車に乗るとき、鹿波は私を真剣に見つめて言った。
「よろしく命を預かっていただけますようお願いします」
私は「わかりました」と言って車に乗り込んだ。鹿波は後続車に乗り、車は第二葉辛丸を目指した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます