新設司令部
第二葉新丸宇宙港への道のりには目立った妨害工作もなかった。だがスナイパーが確認され、橙瑠の護吏官が伏せるように指示する場面があった。結局誤認だったらしいが、用心するに越したことはない。
「着きました。
「わかりました。ありがとうございます」
私が桟橋に向かう通路に足を踏み入れると、瑠国の兵士たちが騒ぐ声が聞こえた。防音扉を開けると、その声は耳をつんざくばかりの轟音となって私を襲い、酒の匂いがそれに加わる。「伊九八」の艦内に入ると、そこは無法地帯と化していた。兵員室前の廊下には飲んだくれた兵士たちが輪をなしている。
「すみません、通行させてください」
私が大声を張り上げても、彼らは少しも気にすることなく騒ぎ続けた。私は業を煮やし、こう叫ぶ。
「甲板士官は……いや、艦長はどちらにいらっしゃいますか」
その声にもやはり反応はない。引き返そうとしたとき、兵士たちの輪から一人が立ち上がった。
「艦長は、俺だよ」
その男は士官服の上着を脱ぎ、下着一枚で不潔感の塊のような無精髭を撫でている。
「それで、何か?」
「この艦に橙条約に基づく連合艦隊の臨時指揮官として司令部命令により着任した准将の利久村です」
私がそう答えると、深海艦長は私に不服げな目を向けたあと、しゃがれた声を張り上げて命じた。
「酒保閉め!十分で片付け、清掃を済ませろ!総員、出撃に備えて兵器をメンテナンス!急げよ、今すぐだ!」
兵士たちは先ほどまでの混沌が嘘のように立ち上がり、だらしない格好のまま艦の方々に散っていく。真っ赤な顔をした主計兵が酒のボトルを片付け、甲板士官たちが床のゴミを拾い、雑巾で廊下を拭く。ものの五分もしないうちに、先ほどまで酒盛りがされていた無法地帯は清潔な姿を取り戻していた。
「しかし深海艦長、先ほどまでの軍規の乱れは……」
「ああ、あれは艦長命令だ。この艦は五分前までは休暇だった」
「……?」
「艦長権限で休暇を与えた。血殺団の乱への対処にも充てないのに四ヶ月も休暇がなければ船員も疲れる」
私は深海艦長に反射的に怒鳴った。
「こんな非常時に疲れるも糞もないでしょう!」
「そうか?それで、お前の階級は」
「准将です」
「じゃあ俺より一つ上なわけですか。すみませんでしたね。私は大佐ですから」
深海艦長はいきなり敬語に口調を変えると、私にうやうやしく頭を下げる。
「それでは、艦橋へ行かせて頂けますか?この艦は今から旗艦です」
私が問うと、深海艦長は私に通過パスを渡した。
「わかりました。そちらのエレベーターです」
私がエレベーターに乗って艦橋に向かうと、艦橋はもぬけの殻である。
「鹿波を呼ばないと」
私がそう思い直し鹿波に電話をかけると、鹿波はすぐに応答した。
「鹿波さん、『伊九八』へ乗艦してください」
「わかりました。しかし先ほどの騒音は」
「ああ、兵員が余暇を過ごしていただけだそうです。すでに片付けは済んでいます」
「そ、そうですか」
鹿波は困惑しながらも艦内に入って艦橋へたどり着いた。
「出撃は艦隊司令部からの命令によると明朝十時だそうです」
鹿波の言葉を深海艦長に伝えると、いつの間にか士官服を着込んでいた深海艦長はうなずいて「乗員に伝達……」とマイクに向かって叫び始めた。この艦は強いことには強いだろう、そう思う私の隣で鹿波が心配げに言う。
「大丈夫なんでしょうか」
私は「大丈夫さ、乗組員はみなメリハリのつく
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