遭遇戦
「そろそろ着きますか?」
私は瑠国宇宙軍小型艇戦隊が保有する今回の乗艦「第一九三日出丸」の艦橋で船長に尋ねた。船長は慣れた口調で答える。
「あと二十分もすれば
「そうですか。船長、船長歴は何年になります?」
「そろそろ五年です。一般兵からここまで上り詰めるのに二十年かかりました」
「となるとそろそろ定年ですか」
「ええ……まあ定年後も軍務を続けるつもりですがね。准将はいまおいくつですか?噂ではまだ十代前半とお聞きしましたが……」
「一五歳です」
「士官学校にはおいくつで……?」
「一四歳で士官学校を出ました」
「ということは三学年飛び級して一二歳で士官学校へ入って……」
「ええ。ちなみに船長のご経歴は?」
「私は一四歳で兵学校に入って一六歳で小型船艇隊に配置されました。三六歳ですが、未だに彼女がいない歴が年齢と同じです」
「交際相手がほしいならまずはその髭を剃った方がいいですね。それからもう少し年齢に合った石鹸を使い、肌のケアをしてください」
「肌はなんともならないですね。くらげをひっかぶってしまいましたから」
「もしや……」
「ええ、そのくらげです」
「失礼しました」
「なあに、一生傷といわれた時から覚悟はできてますよ」
「しかし船長、処理班にもいらっしゃったんですか?あかちゃくらげの原液なんて処理班にでもいないと滅多にお目にかかれないような……」
「子供の頃に」
「……?」
「私は樺星系に住んでいました。十歳の頃にはアフス帝国の特殊部隊が攻撃をかけてきていて、ガス爆弾の直下でそれを浴びてしまったんです」
「……」
「ああ、気にしなくていいですよ。アフスが悪いんですから」
「……すみませんでした」
私が顔を上げたとき、船内にブザーが鳴り響いた。
「接近警報か……どこの船かな?」
ディスプレイには「識別信号不明」の文字。船内の空気が張り詰める。そして、突然ミサイル接近の警報が鳴った。
「くっ」
船長は第一九三日出丸のスラスター出力を上げる。
「全員何かにつかまれ、回避機動を取る!銃手、機銃で迎撃だ」
「了解!」
銃手が機銃座から応答した。
「回避機動用意!操舵手、舵をしっかり握っていろッ!」
操舵手は舵輪を目一杯回し、機銃はミサイルを射貫いた。
「敵機察知、二時!」
「来るぞ!機銃、射撃開始!」
敵機が接近してきて、エネルギー弾を撃ち込んだ。至近弾に第一九三日出丸の船体が大きく揺れる。第一九三日出丸はエネルギーをすれすれで回避しながら逃げ回り、機銃はエネルギーを吐きまくる。
「コード確認……瑠国第三方面軍第一八八攻撃機中隊一四番機の寿八七午です!」
「……まさか誤認射撃か!?」
「いえ、あれは血殺団に鹵獲された機体のようです」
私が船長に伝えると、船長は聞き返した。
「どうしてわかるんです?」
「あの敵機のいた部隊はすでに艦砲射撃により壊滅し、要員は全員死亡を確認済みです。射撃して構いません、可能ならば撃墜してください」
「わかりました。しかし午型が鹵獲されるとなると大変なのでは」
「そんなことを言っている場合ではないでしょう?すでに本船はとりつかれている。シールドを展開しグラビティ・ドライブの連続使用で逃げるべきです」
「逃げるわけにはいきません。本船は逃げることもできませんしね」
「どういうことです?」
「せっかく巡り会った一階級特進のチャンスだ、捨てるわけにはいきませんよ」
「二階級特進にならないようにしてくださいよ」
「わかってますよ」
船長はそう言って、前を向き直った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます