一面一臂

「操舵手、合図をしたら私と操舵を代われ!敵機の後ろを取るぞ」


「嘘でしょう!?」


「本気だ。敵機は寿八七に重い対甲砲を搭載した午型、我々より一秒あたり一キロ速いだけ。おまけにこの船より小回りが効きにくいと来てる。今だ操舵手、舵を貸せ。今敵機が攻撃をかけにかかってる。回避行動を取り、離脱したらその後を追う。パワーブースター用意!」


「はい!」


「その戦術……」


「どうされました、利久村准将」


「なかなかの判断力が要求される空戦戦術ですね。攻撃艇の機動なら百点満点ですが……」


「黙っていてください。私の技倆とキャリアを舐められては困ります」


「はい」


 私は黙って前を向いた。船長は第一九三日出丸の舵を思い切り右に倒し、機銃を右舷側から突っ込んでくる敵機に向けた。敵機が撃ち始めようとした、まさにそのとき。船長が叫んだ。


「左舷側発射管、非曳光閃光弾を装填せよ。敵機のコックピット前とセンサーを狙い、セットが完了し次第迷わず斉射で撃て。発射炎が見えないように操艦する!」


「はい」


 閃光弾はポンポンと発射管から吐き出され、敵機のコックピット前に滑り込んだ。


「閃光弾、今爆発します!」


 観測手が叫ぶと、船長は機銃手に言った。


「機銃、全門射撃開始!」


「当たりませんよ?」


「いいんだ、至近弾で十分だ」


「はい」


 船長はそう言って、機銃手に近づいてくる敵機を狙わせた。閃光の向こうに弾が消えていく。


「敵機、直上を抜けます!」


「よし」


 船長は船体を反転させると、機銃手に命令した。


「よし、前方機関砲でよく狙え!他の機銃は自動でいい!」


「はい」


 しかし、機関砲の弾は離脱のために速度を上げる敵機の後方で炸裂するばかり。そう、この距離では当たらない。


「命中しないのか!」


「敵機に弾が届きません!」


「ええい、接近すればいいんだな?」


「はい」


 船長は離脱しつつある敵機の進行方向を第一九三日出丸の軸線上に捉え続け、なおも加速した。船体がギシギシとうなる。


「敵機、逃げていきます!」


「分かってる!エネルギー過給ユニット及びパワーブースターを焚くぞ!何かにつかまれ」


 背中を蹴られたような衝撃とともに船体が前進した。機関砲がエネルギーを撃ちまくると、前方の敵機はバラバラになった。


「よし、華韻第三中継基地に向かうぞ。敵局地攻撃機の撃墜を通報してくれ。血殺団の母艦や護衛艦がいるかもしれん」


 船長がそう副長に命ずると、副長は通信機に向かった。


「操舵手、舵を返すぞ」


 船長が操舵手に言うと、操舵手は目を輝かせて言った。


「すごすぎます船長……!」


「そうか?」


 私は船長に敬礼した。


「素晴らしい腕前です、船長。今の様子が報道されれば確実にモテますよ」


「ありがとう。誰か動画撮ってないか?」


「船体のカメラで撮ってますから、大丈夫です。おそらく乱が終われば報道陣に提供されます」


「そうですか、ありがとうございます」


「顔と実名入り報道になるかは知りませんが、船員はみな一階級特進ですね」


 私はそう言って、着陸しつつある第一九三日出丸の窓から華韻の中継基地を見た。

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