【飛羽隼一の海軍ワンポイント講座 vol.3】
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本作『NAVY★IDOL』をご覧の皆さん、こんにちは。
作中の事物や用語に絡めて、帝国海軍や私の時代の豆知識を皆さんにご紹介するこのコーナー。今回は第6話・第7話からの内容をお送りします。コーヒーの角砂糖程度のつもりでお気軽にご覧下さい。
✿ ⚓ 第6話「アイドルなんて呼ばないで」より ⚓ ✿
【コレス】
作中で、秋葉原十四期の大和ナナと博多二期の
海軍には、私の出た海軍兵学校(広島県・江田島)のほか、海軍機関学校(京都府・舞鶴)、海軍経理学校(東京・築地)という二つの士官養成機関がありました。兵学校を出た者は砲術や操艦など戦闘の中心を担う兵科士官、機関学校を出た者はエンジニアリングの専門家である機関科士官、経理学校を出た者は事務方を司る
もっとも、エイトミリオンの各支店は毎年同じ時期にオーディションを行っているわけではありませんから、支店間で「コレス」にたとえられる関係が成り立つことは、それほど多くないようですね。
【
ムーランルージュ新宿座については以前もお話ししましたが、これはその黎明期、まだムーランの知名度や人気が芳しくなかった頃の話です。
モボ、モガという言葉は皆さんもご存知でしょうか。モダンボーイ、モダンガールの略であり、大正末期から戦前にかけて、当時最先端の流行ファッションに身を包んだ都会の若者達のことをこう呼びました。
中でも、モボの代名詞として知られた人物に、中村進治郎という若手作家がいました。彼は男性雑誌「新青年」にファッション記事の連載を持ち、「モボの統領」と呼ばれ、現代でいうファッションリーダー的な立ち位置として大変な人気を誇っていました。
ところが、1932(昭和7)年12月。その中村が、ムーランの無名歌手であった
人気絶頂にあった中村進治郎の突然の心中騒ぎとあって、当時の新聞は「歌姫情死事件」というセンセーショナルな見出しでこの事件を大々的に報道。皮肉にも、この事件こそがムーランルージュ新宿座の名を一挙世間に知れ渡らせ、その後のムーランの隆盛の切っ掛けとなったのでした。
中村は
恋に溺れたアイドルと青年作家の悲劇……。道ならぬ恋が時として死にも繋がっていたあの時代を思うにつけ、若い人達が恋だ愛だとオープンに語れる現代の世の中には、改めて平和を実感せざるを得ません。
【特殊喫茶(カフェー)】
私の時代、「カフェー」というと、皆さんが思い描く「オシャレな喫茶店」のことではなく、風俗営業としての「特殊喫茶」のことを指しました。
私は勿論そういう店に入ったことはありませんが、
ちなみに、「純喫茶」とは、こうした
✿ ⚓ 第7話「愛の修行」より ⚓ ✿
【隠語あれこれ】
海軍の隠語については本編でもここでも度々話題にしていますが、とかく猥談に関する隠語は多くありました。隠語というものの性質を考えれば無理からぬことかもしれません。
こうして言葉だけ見ているぶんには平和なものですが、実際、遊び好きの連中はこうした隠語を使って色々とえげつない話もしていたものです。「バー」だった誰々がどこそこの「Pハウス」の「ブラック」に「ペン・ダウン」してもらって自分と「ホール・ブラザー」になってしまった……とかね。
意味ですか? 明かさない方がよろしいでしょう、そのための隠語ですから。
【海軍士官と家事】
作中で林檎嬢と話しているように、私の時代、洗濯といえば洗濯桶と洗濯板を使って手でゴシゴシやるのが当たり前でした。日本初の電気洗濯機は1930(昭和5)年に芝浦製作所(後の東芝)から売り出されていましたが、とても庶民が手を出せるものではなかったようです。
そして、海軍兵学校でも掃除や洗濯は日課の一部として厳しく叩き込まれたので、我々生徒は皆、そこらの娘さん顔負けの、掃除洗濯の達人になっていたのです(ひとたび少尉に任官したあとは、そうしたことは自分でする必要がない身分になるのですが)。
対して、家事の中で我々が苦手とするのは炊事です。何しろ、兵学校に入校してヒヨッコの三号(四号)生徒となった時点から、食事は全て
そうそう、洗濯の話で一つ。皆さんの時代ではもう見かけることもない「洗濯桶」ですが、海軍ではこれを「オスタップ」と呼んでいました。
【海軍体操】
我が国の学校教育の現場には、明治の頃からスウェーデン体操が持ち込まれており、陸軍ではこれをもとにした「陸軍体操」が実施されていました。海軍でも元々はこの陸軍体操にならった体操が行われていたのですが、一つ一つの動きがギクシャクしているなどとして、海軍軍人にはあまり評判がよくなかったようです。
そんな海軍の体操事情に変革をもたらしたのが、ちょうど私が生徒だった頃に兵学校の教官をなさっていた、
……と、ここまでは私が生前知っていた話。ここからは、ナナの身体になってからネットというもので見てショックを受けた話なのですが……。
インドネシア・メナドへの
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今回はちょっと、暗い話が多くなってしまったかもしれませんね……。
しかし、心中しかり戦犯しかり、皆さんの平和な21世紀からほんの70年、80年ばかり遡ればそういう時代があったのだということ、心の片隅にでも置いておいて頂ければ、私としては幸いです。
それでは、引き続き本編をお楽しみください。
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