第2話 衝撃!幻獣戦団の真実(2)
「――本来、
「五十年とか百年に一回、敵が発生するたびに戦士が集められて、一年ほどで敵を全滅させて解散。それがフツーらしいんだけどよ。今回は異常事態なんだってさ。倒しても倒しても敵の出現が収まらねーんだ」
「そ、そーですか……!」
「疾人どの。咲良どの、だいぶグロッキーな様子ですぞ」
「まあ、自分で運転するより怖ぇーよな」
「そ、そうなんですか……!?」
大丈夫だとわかってはいても、今にも身体が放り出されそうに感じてしまう。
疾人と大地だけではなく、イエローの
バイクの免許って何歳から取れるんだっけ、と咲良は馴染みのない常識を頭の中で探ってみる。自分もいつかは運転を覚えなければならないのだろうか。本当に自分で運転する方が怖くないのだろうか。
「とにかく、俺達はみんな異常事態の犠牲者なんだよ。ホラ、テレビのヒーロー物とかも一年で終わるだろ。それがフツーなんだよ。なんか、オッサンが言うには、現代文明の自然破壊のせいだとかってよ!」
「拙者達は人類全てのツケを払わされているのでござる」
「そーですか、もう、なんでもいいですっ!」
敵との戦いがどうこうより、今はとにかくこのバイクに乗っている時間が早く終わってほしかった。
◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆
やっとのことで辿り着いた戦場では、平和なカフェテリアを蹴散らして暴れる
逃げ惑う人々と敵群の間に滑り込むように、疾人と大地がバイクを急停止させる。ふらふらになりながら咲良はバイクから降り、痺れきった手でヘルメットを脱いだ。きっと髪がぺたんこになってしまっているだろうが、今はそんなことを気にしている余裕はなさそうだった。
「遅いわよ、みんな!」
個人武器のドリル剣で
「ジーリジリジリ! 来たな、アニマライザーども!」
ひと目見て公衆電話の
「あれ、オッサンは?」
自分と咲良のヘルメットをバイクのミラーに引っ掛けながら、疾人が戦場を見渡して言った。イエローがザコ退治を切り上げて三人のそばに合流してくるが、レッドの姿はまだどこにもなかった。
「ジリ? 一、二、三、四……四人しか居ないジリ。あとの一人はどうしたジリ!」
「だからそれは俺が今言ったんだよ」
炎のようにうねった黒髪が風に揺れる。おっさん臭い汗の
どうしてそんな格好を――と、咲良の脳裏に浮かんだ疑問に答えるように、彼が仲間達にちらりと振り向いて言う。
「すまん。バイトを抜けるのに手間取ってな」
「えぇ、レッドさんってバイトなんですか!?」
思わず声を上げてしまった咲良に、疾人と大地が何とも言えない顔を向けてきた。イエローが腰に手を当てて小さく笑う横で、当のおっさん――
「コンビニとビデオ屋を掛け持ちしているんだ。時間の融通が効きやすいからな」
「はぁ」
別に聞いてないし、と言いたくなるのを咲良はギリギリのところで抑え込んだ。
このおっさんがどんな生活をしていようとどうでもいいが、しかし、三十路にもなって定職に就いていないというのが、なんというか、いわゆる普通の大人じゃないことくらいは咲良にもわかる。
「もっとカタい仕事してるんだと思ってた……」
「カタい仕事なんかしてたら世界を守れない。行くぞ、皆!」
どこからともなく取り出した
「
焔達と声を合わせ、咲良もアニマフォンを天に向けて突き上げる。鳴り響くメロディは、天地の精霊へ呼びかける現代のシャーマンの
律儀に慌てた素振りを見せる
「ドラゴンブレイブ、レッドライザー!」
「グリフィンプライド、ブルーライザー!」
「タウラスタフネス、グリーンライザー!」
「ユニコーンワイズ、イエローライザー!」
「フェニックスハート、ピンクライザー!」
聖なる力に導かれるがまま咲良も名乗りを上げた。スーツに包みきれない
「
一際巨大な爆発を背負い、五人は敵に向かって見得を切った。咲良の全身にも力が
目の前には邪悪な怪人と戦闘員達の姿。戦うことはまだ怖い。だけど――
この前と比べると、少しはいけるような気もする。
「ドラゴンブレイカー!」
激しい叫びとともに、レッドが龍の大剣を構える。
「グリフィントンファー!」
「タウラスアックス!」
「ユニコーンセイバー!」
ブルーがトンファーを、グリーンが斧を、イエローがドリル剣を次々と構えていくのにならい、咲良も自分の個人武器の巨大な鉄扇を手元に出現させた。
「フェニックスファン!」
誰に教わるでもなく名前は意識に流れ込んできた。扇をファンと呼ぶことなんて咲良は知らないのに。
「ジリジリジリ! お前ら、まとめて断線にしてやるジリ!」
よくわからないことを言いながら、
「ツッキー! ツッキー!」
「っ!」
戦闘員の振り回す棍棒に思わず身を引いてしまう。だが、苦し紛れに振り抜いた鉄扇は確実に敵の身体を打ち砕いた。ゴミ袋とダンボールを組み合わせたような戦闘員の身体が、文字通り
やった、と思った次の瞬間、新たな敵の棍棒が別方向から咲良を狙っていた。ギリギリのところでそれを鉄扇で受け止め、咲良は一歩後ずさる。二体まとめて飛び掛かってくる敵を、横薙ぎの鉄扇でなんとか迎え撃つ。
「その調子だ! 戦えるようになったじゃないか、咲良!」
ドラゴンブレイカーで
「やだやだやだ、もう!」
鉄扇のフチで切っても切っても、次から次へと新しい戦闘員が向かってくる。全ての棍棒の打撃を防ぎ切ることはできず、強化スーツで吸収しきれない衝撃がリアルに咲良の心身を痛め付けてくる。
ゴーグル越しにちらりと周りを見やれば、ブルーも、グリーンも、イエローもそれぞれの武器を手に戦闘員との戦いに必死だった。手が空く瞬間などあるはずもない。怪人と戦っているレッドは言わずもがな――
「トアアァッ!」
――もとい、咲良に向かって棍棒を振り上げた数体の戦闘員を、その後ろからドラゴンブレイカーの一閃がまとめて斬り裂いていた。
「レッドさん――」
「貸してみろ、咲良!」
赤い影がひらりと跳躍して咲良のすぐ隣に降り立ち、鉄扇を持った咲良の腕を横からがしりと掴んできた。強化スーツ越しに伝わる力強い感触に、えっ、と咲良が驚いた瞬間。
「フェニックスファンは、こう使うんだ!」
ぎゅん、とレッドの手が咲良の腕を持ち上げ、巨大な扇に空気を含ませて振り下ろす。かっと身体が熱くなるのを咲良が感じたかと思うと、風の
「っ……!」
自分の身体を風のエネルギーが吹き抜けたかのような感覚。フェニックスファンから繰り出された強風に押し返され、戦闘員だけでなく
知らなかった。この武器に、というか自分に、こんな力があったなんて――。
「よし、今だ! 五つの力を一つに!」
いつの間にか戦闘員達を蹴散らしてそばに集まっていたブルー達が、各々の個人武器を次々とレッドのドラゴンブレイカーに合体させていく。今の攻撃の驚きをまだ隠せないまま、咲良も鉄扇をレッドに差し出した。五つの武器が一つに重なり、ドラゴンブレイカーを中核とする巨大な合体剣が完成する。
「
大きく剣を振りかぶるレッドの肩に、ブルー、グリーンが両手を添える。ブルーの肩にイエローが、そしてグリーンの肩に咲良が手を添えた。
「邪悪の魔物よ、無に還れ! エレメントカリバー・ビクトリーブレイク!」
五人のスーツから溢れる
「お掛けになった電話番号は……使われておりませェェん!!」
敵の意味不明な断末魔を大爆発が飲み込む。だが、これで終わりでないことは咲良も知っている。この地上に渦巻く邪悪な気が、
「ウゥゥ……ガアァァアッ!!」
撃破された怪人の身体を
「また出やがったでござる……!」
街を見下ろす敵の巨体を仰ぎ、グリーンが呟く。続いてレッドの暑苦しい声が咲良の意識に届いた。
「皆、
レッドら四人は一斉にアニマフォンを手にしていた。前回教えられた通りに、フェニックスの力を宿すエレメントクリスタルをアニマフォンの上部にセットし、咲良も四人と一緒にそれを突き上げた。
「召喚! 幻聖獣ライズドラゴン!」
「ライズグリフィン!」
「ライズタウラス!」
「ライズユニコーン!」
「ライズフェニックス!」
アニマフォンから発せられる召喚の
「ハッ!」
皆に続いて咲良も跳躍し、ライズフェニックスの頭部に吸い込まれた。先日の初陣でもそうしたように、光に包まれた
「い――」
行くよ、と咲良が言おうとするより先に、フェニックスは大きく翼をはためかせて仲間の聖獣達とともに敵に向かっていた。
レッドのドラゴンが天空から炎を吐きかけ、敵が怯んだところへブルーのグリフィンが飛び掛かって食らいつく。グリーンのタウラスの重量級の突撃が、イエローのユニコーンのすれ違いざまの
咲良のフェニックスも命じるまでもなく動いていた。ぐわりと翼から暴風を撃ち出して敵を転倒させたかと思うと、翼のフチの斬撃で追い打ちをかける。咲良は前回と同じく、ただ
「皆、合体だ!
レッドの声が空間を通じて響く。とりあえずこれは言わなければならないのだと思って、咲良はブルー達と声を揃えて「幻獣合体」の
五体の聖獣達が身体を重ね、天地を制する巨神へと組み上がってゆく。ドラゴンが胴体と巨大な翼に。タウラスが大地をうがつ両脚に。ユニコーンとグリフィンが空を引き裂く両腕に。
そして最後に、咲良のフェニックスが、ドラゴンの形作る胸部に被さり、巨神の頭部を形作る。
「降臨! ライズタイタン!」
気付けば咲良はレッド達と並んで
「酔わないでよ? 咲良」
「まあ、バイクの後ろよりは怖くねーだろ」
「操縦は拙者達に任せるでござる」
「行くぞ!」
四人が球体に手をかざし、
「ガアァァッ!」
復活と引き換えに理性を失った巨大な怪人が、受話器の腕を振り回して襲ってくる。自らのモチーフになぞらえた台詞を吐いていた先程までのコミカルな姿とは、まるで別人のように。
「ドラゴンテイルソード!」
真紅の龍の尾を大剣に変え、巨神の剣閃が敵の巨腕を受け流す。返す一撃で、真紅の刃が敵の巨体を袈裟懸けに捉える。
「グギャアァ!」
怒り狂った敵が最後の力を振り絞って突撃してくるが――
「タウラスキック!」
背中の翼でぐわりと宙に舞い上がったライズタイタンが、
そして、天地に満ちる自然の
「
必殺の斬撃を受けた敵の巨体が爆発四散し、振り向いたライズタイタンの背後で爆炎が天地を染め上げる。
やっとのことで戦いの緊張から解放され、咲良がへなへなと目の前の球体に身体を預けると、やれやれ、などと仲間達が口々に呟くのが聞こえた。
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