第13話 音楽室で巡り会う奇跡

 学校に着いてすぐみおんに湊さんのことを詳しく聞こうと思っていたのに、本を読んでいたらいつのまにかいつもの出る時間より10分遅くなっていた。

「音香〜いつもよりなんか遅くない?学校遅れるわよ〜」

 と下からのお母さんの声が響く。

 やばい!と私はお弁当が入った袋を手に持ち、リュックを片方だけ背負って靴のかかとを踏みつつ走りながらドアを開けた。



 学校にはなんとか門が閉まる5分前に着くことが出来たが、準備に時間が消え、朝のホームルームが始まってしまった。

 朝のホームルームが終わった瞬間私はすぐに雪ノ下先生のところへ駆け込む。

「ちょっと雑談大丈夫ですか?」

「なに?春木さん。」

「先生の年齢って27ですか?」

「なんで知っているのかしら?」と雪ノ下先生の表情が怖くなる。

 ヒェッ…と私は引き下がりそうになったが、話を無理やり続ける。

「先生ってピアニスト、湊 風羽さんの後輩ですよね?わたし湊さんのピアノ好きで。

 けど最近?はコンサートも開くことも、新曲を出すこともなくなってしまったので、是非雪ノ下先生に湊さんのことを聞きたいなぁ〜って今日は話をしに来たんですよー」

 と本題を私が話すと一気に先生の表情が変わる。

「長くなるから昼休みに別室でいいかしら?」

「はい。全然大丈夫です。」



 先生の反応的に湊さんのことは合っているようだった。



 昼休み。近くの学習室で1対1で話す。

 先生が適当なところから机を1つ。

 椅子を2つ出す。先生にお手を煩わせるわけにはいかなかったので、自分の椅子は自分で運んだ。

 椅子と机をセットし、先生がドアのカーテンを閉め、先生が席に座ると話が始まった。

「なんで春木さんは私が湊さんの後輩だと分かったの?」と先生は最初から確信をついた話を持ってくる。

「私が図書室に入り浸っていることは知っていると思うのですが、読むものが決まらなかったときに歴代の賞をとった作文が載っている文集を発見しまして、その時に雪ノ下先生の名前を見たので。」と嘘の説明をする。

「そうなのね。湊さんについてなら中川先生にも聞くといいわ。あとで私が中川先生に声をかけておくから放課後4階の方の音楽室に来てください。」

「分かりました。本題で、湊さんっていまどこにいるんですか?」

「湊さんはね亡くなったのよ。」

「知ってます。」

「え?なんで?」と雪ノ下先生は驚いた。


 そういう反応になることは想定内だったので、私は本から鏡を取り出す。

「信じてくれないと思うんですけど、4組の花宮さんは幽霊が見えるんです。私もこの鏡を通せば幽霊が見えるようになるんです。

 最近は体が慣れたのか、特定の幽霊なら声だけ聞こえるようになりました。まず、ここまでの話信じてくれませんか?」

「大丈夫よ。花宮さんが幽霊を見えることを知っていることは私から花宮さん本人には言わない方がいいわよね?」

「それでお願いします。続きを話しますね。」

「私がこの鏡を通して見えるなら、先生にも見えるのではないかと思って。最近分かったことがあって、親しい人ではないと幽霊だと話せないらしくて、先生に協力して欲しいんです。」

「是非!協力したいです。放課後実行するんですか?春木さん。」

「放課後にやってみようと思っています。」


 話の区切りがいったんついたところで先生は教室の時計を見る。私も時計を見ると、

 時刻はまだ昼休みが終わるまで10分もあった。先生は湊さんのことを話せる時間があると思ったのか口を開ける。

「まだ時間が10分もあったから湊さんについて話すね。」

「すみません。それは7組の松村さんから聞いたので大丈夫です。わたしは中川先生からの視点を聞いてみたいです。」

「なんで?」

「生徒からの視点と先生からの視点は違うじゃないですか。それを知りたくて…」

「じゃあ、放課後に一緒に聞きましょう。私も詳しくは知らないので気になります。」


 そのあと湊さんのピアノの良さについて語ったことでキンーコーカンーコーンと昼休み終わりのチャイムがなる。じゃあまた放課後でと少し距離が縮まったような気がする。



 放課後

 集合10分前に音楽室に行こうと階段を登る。

 3階まで行くとなぜか音楽室からピアノの音がする。まだ先生は来ていなくて、合唱部もないはずなのに。まさか…とよく耳をすまして聞くと聞き覚えのあるメロディが流れてくる。湊さんの曲だ。最後のステージで弾いてた曲かな?聞きながら気づかれないように階段を登って音楽室の前まで行く。

 音楽室の扉から鏡を通してピアノを見る。

 すると湊さんが見えた。久しぶりすぎて泣きかけた私は涙を堪える。湊さんが居なくなる前に先生を呼ぼうと職員室に向かう。

 コンコンと手前の扉をノックする。

「1年 2組 春木 音香です。中川先生と雪ノ下先生に用があってきました。」

 と職員室を見ると、雪ノ下先生がマグカップを持って中川先生と美野先生と話していた。私に気づいてこちらに来ると、「あれ?まだ5分あるよね?呼びに来てくれたの?」と言う。

 実は…と状況を話すと先生が「中川先生、音楽室に行きましょう。」とすぐ行動に移してくれた。

 音楽室に行くとなぜか本の影響なのか先生2人は湊さんが見えていた。私は鏡を通してじゃないと見えないのに。

「えっ…」と中川先生が目を擦る。

 雪ノ下先生は耐えられなくなったらしく、音楽室のドアを開けて湊さんに抱きつきに行っていた。「湊先輩〜」と泣きかけの声で。

「湊さん…なの、よね?」とまだ疑心暗鬼の中川先生はほっぺをつねっている。

 案外可愛いところがあることに気づいた。

「ごめんね。哀。中川先生。私最後の合唱コンクール出たかった…」と湊さんは言う。

「大丈夫だよ湊先輩。合唱コンクールは部初めての予選突破したので、早く成仏してください。」

「湊さん。なにか知りたいことある?」

 と中川先生と雪ノ下先生は湊さんと話しているようだった。私には湊さんの声が聞こえなかったので、後々水雫さんに話の内容を聞いたんだけど、すごい仲良かったんだなと感動した。

 話を邪魔しちゃいけないなと私は放課後の音楽室から気づかれないように抜け出した。

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