恋愛対象は食糧でした

ネルシア

恋愛対象は食糧でした

「家畜の様子はどう?」


家畜農家に話しかける私。

最近新しい生き物を家畜として育てている。

国の代表として上手くいっているかの確認をしている。


「うん!!みんな健康だ!!まぁ、施設と健康には気を使わないとだけどな。」


家畜農家の男性が苦笑いを浮かべる。

それもそのはず、この家畜を育てるのにはそれなりの年数が掛かる。

しかも、この農家はその中でも最高級品質の物を作っている。


「あ!!お姉さんこんにちは!!」


「はい、こんにちは。」


可愛らしい女の子が近づいてくる。

この農家の娘さんだ。


「お父さん・・・。」


農家の男性の服の裾を掴む。

何かお願いがあるようだ。


「なんだい?」


愛おしそうにその子を見つめる。


「この子誕生日プレゼントで欲しいなぁ・・・。」


手にしているのはホログラムカタログ。

気になる商品は縮小されてはいるものの、実際の色合いが確認できるものだ。

食糧としても人気は高いが、それとは別にペット用として飼育されているのもいる。


「あぁ・・・でもなぁ・・・なかなか値が張るんだよなぁ・・・。」


「でも、お宅はそれなりに儲けてるんでしょう?」


嫌味っぽく男性に言うと、まいったという顔になる。


「やっぱりお見通しか。

 そ、あんたらお偉いさん方に偉い贔屓してもらってるからな!!」


ガハハと笑うと、女の子がふくれっ面になる。


「じゃぁ、この子飼ってもいいよね!!!!!」


「はぁ、仕方ねぇな。ちゃんとお世話するんだぞ?」


ぱぁと女の子の顔が明るくなる。


「うん!!」


「よかったねぇ。」


「うん!!お姉さんありがとう!!」


「はいはい、どういたしまして。

 じゃぁ、私はこれで。」


「おう。」


帰り道、ペットショップの前で足が止まる。

あの子に触発されたからかは分からないが、どうにも気になってしまう。

別に私の給料も悪くない。


自動ドアを通り越し、中へ入る。

マジックミラー越しに個体が見れる。

向こうは私たちに気付いていないが、売られることは理解できているのか、どことなく不安そうな表情をしている。


オスかメスか。


うーんと頭を悩ます。


「どの子かお決まりですか?」


店員さんに話しかけられる。


「あー、いえ、なんとなく。」


「まぁ、可愛いですからねぇ。

 正直、食べるよりも愛でるほうが私は好きですね。

 貴女のそのバッジを見たからお話しするんですけど・・・。」


耳元で他の人に聞こえないように囁いてくる。


「欲求不満だったら仕込んだり、逆に攻めたりもできますからね。」


「飼います。」


即決だった。

正直最近ムラムラして仕方がない。

相手がいない。

男性に対して興奮もしない。

かといって女性にも興味を覚えない。

できればペットと~なんて思っていたが、まさかその夢が叶うなんて。


「お客様ですとオスの方がおすすめかと。」


「いや、私メスがいい。」


「この子なんてどうです?」


紹介された子を見るが、どうもこの子じゃない。

ふと視線を横にずらすととんでもない子がいた。


「この子にします。」


「!!」


店員が声を詰まらせる。


値段を見てなかった。

改めて確認すると・・・。

ふ、ふふふ・・・。

この高級取りの私の給料3か月ぶん・・・かぁ・・・。


「その子は・・・その・・・特別すぎるんですよ・・・。」


「あー・・・他の子の値段見ても1000分の1とかだもんね・・・。」


「この子でいいですか?」


「買ってやらぁ!!」


そうして、その子に首輪をつけて、家に帰った。


だが、ひどく怯えているようでどうにも懐く気配がない。


「大丈夫。何もしないよ。」


何日もそうやって話しかけ続けた。

ご飯は食べてくれるようで、トイレも見えるタイプではなく、自分のを使わせた。

そんなある日、その子が初めて喋った。


「あなたは・・・私をいじめないの?」


朝ご飯を食べていた時だった。

喋れるなんて思いもしなかった。

思わず食器を落としてしまった。


「いじめるわけないじゃん!!!!!」


4本の腕で抱きしめる。


「苦しい・・・。」


「あぁ、ごめんごめん・・・。」


2本の腕、2本の足。

無いと言っても過言ではない毛の量。

普通の子は白~黒だが、毛まで真っ白で目が赤いこの子は特別だと感じた。


何故か私たちの種族とよく似ているが、文明はすごく遅れていた。

あっという間に惑星を支配できたし、食糧としても優秀だった。

言語もほぼ同じなのも意外だった。


ただ、腕の本数は少ないし、私たちの肌の色は緑だし、目の数も何故かこの子たちは2つしかないし。

それでも愛おしい。


「1目見てすごく気に入ったんだよ。もう怖くないよ。」


優しく頭を撫でる。


すると、その子の頬が赤くなる。

どういうことかは知らないが。


「なんで赤くなってるの?」


「・・・聞かないでよ。」


なぜかそっぽを向かれてしまった。

その次の日から少しずつ距離が縮まり、今となっては大切な家族だ。

・・・いや、家族以上だ。


そして私はある決意をした。

まだ、この世界で誰もしたことのない決意を。


「私、あなたと結婚する。」


散歩の途中で話しかける。

普通は服を着せないらしいが、この子が着たいというのでありとあらゆる服を買って与えた。


「え、でも・・・私とあなたじゃそもそも生き物が違う・・・。」


「そんなの関係ない。」


4本の腕で無理やりこっちを向かせる。

4つの目で見つめる。


「そ、そんな目で見ないで。」


また顔が赤くなる。

可愛らしい。

愛おしい。


「ダメ、結婚する。返事は?」


「・・・はい。」


小声だが、確かにその返事を聞き取った。

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