七夕
〈結愛視点〉
三好先生とはたまに
あの隣町の図書館に一緒に出かける時がある
ミヨシ「探す本があるからお前もゆっくり見てろ」
「はい」と頷いて私も館内をあてもなく歩き
子供用の絵本コーナーに辿り着いた
幼い頃に読んだ事のある本があるかなと思い
膝を曲げて一つ一つのタイトルを眺めていくと…
「・・・七夕…」
沖縄の梅雨明けのニュースが流れ出した今日は
7月の頭で気がつけば今年も半分が過ぎていて
絵本のタイトルになる七夕も来週だ
無邪気に七夕の短冊に願い事を書いていたのは
何歳までだったのかなと思いながら
何気なくその絵本を手に取って
パラパラと眺めてみた
「・・・・彦星って…なんか…」
絵本に描かれている男の子の顔がどことなく…
三好先生に似ていて私はその絵本を持って
近くの一人がけチェアに座ってから
その絵本を最初から読み出した
読むと言っても子供向けの絵本であっという間に
読み終わるその絵本がなんだか気になり
私はカウンターに行き「七夕の本はありますか?」
と図書館のスタッフに検索をかけてもらい
私が見ていた絵本以外にもう一冊小学生の
高学年向きの本があると教えてもらい
その本を探して見つけた…
「
さっき読んでいた絵本にはない名前で
(だれ?)と思いながら本の表紙を眺めながら
読書スペースに行こうとしたところで名前を呼ばれ
振り返ると手に数冊の本を握った
三好先生が歩いて来るのが見え
思わず手に持っていた2冊の本を
パッと後ろに隠した…
ミヨシ「なんか読むのか?」
先生の言葉に「え?」と挙動不審に返事をすると
少し眉を寄せて顎で読書コーナーをさし
「行こうとしてただろ」と言ってきた
「あっ…読もうかと思ったんですけど…
借りて帰ります、ゆっくり見たいですし…」
ミヨシ「・・・ゆっくり?」
先生は私の返答に「は?」と
少し呆れたような顔をしている…
( ・・・・・・・ )
私が出てきたのは学童用の本棚からで
ゆっくり読むも何も…
大人の私がゆっくり読むような本でないだろうと
彼が少し呆れているのが分かった…
ミヨシ「・・・まぁいい、飯くって帰るぞ」
そう言って本を借りる為にカウンターへ
向かって歩き出す先生の後を追って
私も貸出カードの登録をしようとすれば
ミヨシ「いつもみたいに一緒に借りればいいだろ?」
「貸せ」と手を出してくる先生に
本を見せるのが恥ずかしい私は
ずっと後ろに本を隠したままでいる…
ミヨシ「・・・・・・・」
「私…まだ借りたくて…レンタル可能の本数
超えちゃうと思うから自分で借ります…」
そう言って近くの雑誌コーナーへ小走りで向かい
さして興味のない雑誌を数冊手に取って
絵本とさっき見つけた方を見えないよう挟んで隠した
カウンターを覗くと三好先生の姿はなく
少しホッとしながらスタッフの人にカードを
作ってもらい5冊の本を借りると
姿の見えない彼を探し入り口のベンチにいるを
見つけて「お待たせしました」と駆け寄った
ミヨシ「・・・何借りたんだ?」
スマホを見ていた彼は私が近づいて来たのが分かると
顔を上げてジッと私を見て質問してきた
「コレです!」と貸出バックから適当に
手に取った雑誌を引きずりだして見せると
先生はまた変な顔をして私を見ている
ミヨシ「この真夏に…編み物すんのか?」
「・・・・冬に向けて練習…するんです…」
自分でもなんでこんな雑誌を手に取ったんだろうと
後悔しながら雑誌をバックに戻した…
( ・・・・・・・ )
絵本の彦星が先生に似てて気になったから
探して借りましたなんて恥ずかしくて言えないよ…
先生は立ち上がると車に向かって歩いて行き
「乗れ」とロックを解除し車に乗る姿を見て
なんとか誤魔化せたと思いながら私も助手席に乗った
家に帰り着き自分の部屋に入ると貸出バックから
あの本を取り出して直ぐに読み始め…
天稚彦とは彦星の名前らしく…
織姫は初めは人間で、大蛇に化けていた天稚彦に
貢ぎ物として
「・・・・絵本と違うなぁ…」
大蛇から本当の姿に変身して
二人はちゃんとした恋仲になり
夫婦になったみたいだけど…
天稚彦は天に帰らなくちゃいけなくなって
夫がいつまでも帰って来ないのを心配した織姫は
空に天稚彦を探しに行き
色々あってやっと再会出来たけど
天稚彦のお父さんが二人の結婚に反対して…
父「月に一度しか会ってはならん!」
お父さんが言った言葉を織姫が聞き間違えて
「年に一度ですか?」と聞き直すと
父「お前がそう聞こえたのなら、そうしよう」
そう言って二人の間に天の河を作り
年に一度だけ橋をかけて会わせてあげていて
その会える日が…
「7月7日の…七夕…」
絵本で読んだ話よりも悲しく感じて
なんで聞き間違えちゃったんだろうと
織姫を心の中でちょっと責めながらも
絵本もバックから取り出して
彦星の絵を眺めながら手でなぞってみた
「一年に一回じゃ寂しいだろうなぁ…」
キラキラとした物語かと思っていたけど
予想よりも切ない話で気分は少し下がってしまった…
自分の中で勝手に彦星に三好先生を重ねている
からだろうけど…
無性に三好先生の声が聞きたくなり
鞄からスマホを取り出して
先生に発信してみたけれど
電話のコールを聞きながらハッとして
通話終了ボタンを押し〈間違いです〉と
メッセージを送った…
「・・・バカだあたし…」
先生は今日の夜は
仕事をしなくちゃいけないと言っていたから
いつもよりも早く別れたのに…
別に私は織姫じゃないし、彼は彦星じゃない…
何をこんなに寂しく感じているんだろうと
思いながらカレンダーに目を向けて…
(・・・・・・・)
今年の七夕は明後日の火曜日だ…
「・・・雨降らなきゃいいなぁ…」
気持ちはスッカリ織姫のままだった…
・
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