三好先生からの宿題

〈ユア視点〉






ここで働きだして3ヶ月が経っていて

今だに辞表はださないまま仕事をしている




あの当番医の日以来、先輩達とも少しづつ

話をするようになり三好先生のカルテも

前よりは理解できるようになって

怒られる回数も半分位は減った気がする




(たまに…怒鳴られるけど…)




前の私は紙のカルテを内心何処かで小馬鹿にして

いたのかもしれない…

電子カルテがあれば楽なのにって…




でも今は、三輪先輩達みたいに

素早くカルテ計算が出来るようになりたいと思う

なんか、カッコイイ気がするし…




だから辞表はもう少し…

一年間はちゃんと、働いてから

それから事務長に渡してもいいのかなと思い

前よりも薬品名を覚えたり自主的に勉強を

するようになっていった






この1ヶ月で少し分かったこともある

三好先生は病棟看護師に人気があるらしい…

外線を病棟にまわすと普段はドスの効いた

低い声の看護師達が三好先生がいる時は

キーが2つほど上がり優しく対応してくれる




(三好先生いつも病棟にいたらいいのに…)




三好先生は書き物の依頼書類が多くて

提出期限ごとにカルテに書類を挟んで

先生のサブデスクに並べておかなければいけない



いつも、先生が病棟へ行ってる間に

診察室に忍び込んで書類整理をしていて

今も病棟にいることが分かり急いで

先生の診察室へと行き期限ごとに並び替えていると





ミヨシ「泥棒みたいな真似してんだな」





と三好先生の声がして驚きながら

「お疲れ様です」と挨拶をした





ミヨシ「お前なんでいつも

  俺が病棟にいるタイミング分かるんだ?」





と問いかけられて、まさか看護師の声です

なんて言えれるはずもなく「たまたまです」

と答えたが






ミヨシ「・・・チッ・・まーいい…」





と言いながら「ほら」と何か挟んだ

クリアファイルを渡してきた



何か分からず戸惑いながら

ファイルを受け取り中身を確認すると

またマーカーの引かれた薬品表だった





「あっ!ありがとうございます」





耳に馴染みのある内科の薬と違い

精神科から処方される薬はまったく

聞いたことがない品名ばかりで

三好先生がよく使う薬の名前が分かっていると

カルテも読みやすくなるから

この渡された薬品表は凄く助かる






ミヨシ「一般名がちゃんと分かってるか

  来週チェックすらからな」





「えっ!?来週ですか??」





ミヨシ「なんだ?」





「いえ…頑張ります」









三好先生から渡された薬品表は前回よりも量が多く

覚えるのも一苦労だった…




(・・・・・・)




三好先生の薬とは別に最近別の悩みもある…

そう考えていると後ろの電話が鳴りだし

受付の先輩達も顔をしかめている…

電話は私の真後ろにあり、出ないわけにもいかず…




「はい、病院です」




薬「お疲れ様です、薬局です!

  甲斐さつき様のお薬の件でいいですか?」




「甲斐さつき様ですね…はい、どうぞ」




薬「お薬○○○の件ですが、0.5錠とありますが

  こちら苦みの強いお薬ですので割ってしまうと

  患者さまが飲みにくくなるかと…」




「はい、ドクターに確認して折り返します」




カワベ「また??しかも三好先生…」




「はい…行ってきます」




うちの院内薬局は基本病棟対応のみで

処方箋は目の前にある薬局に

お願いしているのだけど…

最近新しく入った薬剤師の先生が

チェックの厳しい方で今みたいな電話が

しょっちゅうかかってくる…



(・・・また機嫌悪いかな・・)





扉が開いていて、いつものように壁にノックする




ミヨシ「・・今度はなんだ?」




声からしてすでに不機嫌なのが伝わり

私は恐る恐る中に入り電話の内容を伝えると

ドンドン目つきが悪くなっていく三好先生…




ミヨシ「・・で?」




「・・えっ?」




ミヨシ「苦いからなんだ?

  1錠じゃ多いから割れって言ってんだよ」




「あっ…ハイ…そう伝えます…」




ミヨシ「・・チッ」




頭を下げて診察室を出ていき今度は薬剤師の先生に

電話をするのに気が滅入ってくる…



(私のミスじゃないのに…あんなに怒らなくても)



ため息を吐きながら事務所に戻り薬局に

電話をいれると薬剤師もしぶる声をあげながら

「分かりました、割ります」と電話を切られた…



(はぁー・・・・疲れる・・)






定時になり先輩達が先に帰っていき

いつものように自分の席で時間を潰していた



先輩達とは話すようになったものの混み合う

ロッカーはやっぱり苦手で今でも早く来て

遅く帰る習慣は変わらない…





事務室の扉が開きまた三好先生かと振り返ると

内科の石井先生が「ちょっとおいで」と

声をかけてきた




私は何かあったのかと石井先生の後をついていくと

先生は自分の小部屋に入っていき

どうしようかと入り口に立っていると

「中においで」と言われた…




少し考えて外に立ったままでいると

石井先生が手にお菓子を握って出てきて




イシイ「コレあげるから持って帰って食べなさい」




と言って頭を撫でてきた

先生は50代半ばで父とあまり変わらない年だから

娘感覚なのかと思い、ありがたくお菓子を

もらって事務所に戻って行った




事務所の中に入ると私の席に

三好先生が座っていて



 

ミヨシ「鍵開けっぱなしで、何処に行ってたんだ?」




と言われハッとして「すみません」と謝った

ここには患者さんのカルテもあるから

帰る時に警備を作動して帰るのに

誰もいない事務所に鍵もかけないで

出て行った事を反省した




ミヨシ「ソレどうした?」




と両手に抱えたお菓子を見て少し

機嫌が悪そうに聞いてきた




「あっ、石井先生にいただきました」




ミヨシ「石井先生?部屋に行ったのか?」




「はい…ついておいでって…」




ミヨシ「・・・・・・」




「あの…鍵すみませんでした…

       今後気をつけます…」




ミヨシ「・・・お前いつもなんで残ってんだ?」




「えっ…」




理由をなんて言っていいのか分からず

口籠もっていると三好先生は目線を外さず




ミヨシ「言うまで帰れねーぞ?」




「・・・混むんです…」




ミヨシ「はっ?」




「定時になると皆さん一斉に帰り出すから…」




ミヨシ「はけるのまってんのか?ここで?」




「はい…」




少し呆れたような顔をしている三好先生に

居心地を悪く感じ、石井先生が今のタイミングで

来てくれたら良かったのにと考えていた…





ミヨシ「何分待ってんだ?」




「えっ…30分位です…」




ミヨシ「・・・はぁー、まーいい

  先週渡した表は覚えたんだろうな?」




「はい…多分…」




ミヨシ「歯切れわりー返事だな…

  俺が処方する睡眠導入剤全部言ってみろ」




「えっ!?」




ミヨシ「早く言え」





結局半分も答えきれなくて

先生の機嫌は悪くなるを通り越して呆れていた…





ミヨシ「明日もここにテストしにくるから

  ちゃんと勉強しとけよ」





と言われ、この日からたまに

皆んなのいなくなった事務所で

薬品名の勉強に付き合ってくれた






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