当番医

〈ユア視点〉






午前中は精神科のカルテは回ってこなく

分かりやすい字の内科のドクターのカルテ

ばっかりだったから少し嬉しくて

自分でも気づかないうちに笑顔になっていたらしい





事「結愛ちゃんご機嫌だね?

  週末は彼氏と楽しいことでもあるの?」





事務長から声をかけられ「え?」と振り返ると





事「鼻歌でも歌いそうな勢いの笑顔だからさ?笑」





とニコニコしながら小さなお饅頭を渡された

事務長は面接の時にも会い

病院内を案内してくれた人で

気さくな感じのおじさんだった





「確かに…良い事はありました!」





と笑って答えた…

朝イチに三好先生から嫌味は言われたけど

それ以降は会ってないし

午後は先輩達が事務作業をして

私は掃除や補充作業に回るから

三好先生のカルテを受ける心配もない




そう思い浮かれていると

三好先生が事務室に入って来て

ここの責任者である先輩を呼んで

コッチを見ながら何か話している


 



(・・・え?…)





何かした??

コッチ見てるよね?

しかもあの顔は・・・不機嫌だよね?




事務長の方にパッと顔を向けると

さっきまでいた姿は無くなっていて

助けてくれる存在がいないと分かった瞬間

三好先生と話していた先輩に呼ばれ

先生は長い白衣をヒラリと返し

私の横をスッと抜けていった…





カワベ「時任さん、三好先生から

  あなたへの指導の仕方を聞かれたわ」




「え?」





カワベ「入ってもうすぐ2ヶ月なのに

   今だに薬の名前も用法も覚えてないから

  もっとしっかり指導してほしいって」





「・・・すみません…」





カワベ「あなたちゃんと自分で見直しやってる?

  あなたが出来なくて怒られるのはいいけど

  私や他の先輩の指導不足として言われるのよ?」






「・・・すみません」





カワベ「今週末の当番医はあなたにでてもらうわ」





「・・へ?・」





カワベ「三輪さんと二人で出てもらうわよ?

  甘やかさないでくれって言われたから」





「・・・でも私当番医は初めてで、二人は…」





カワベ「大変なのは三輪さんよ?

  あと3日あるし自分でもしっかり

    予習しといてくださいね」




「はい…」








17時を過ぎて先輩達は帰り

また自分の席で時間を潰していた…



(当番医か・・・)



日曜日、祝日に交代で

病院を開けなくてはいけないらしく…

明後日の日曜日がここの病院の当番医だった




大抵いつも暇らしく事務員も2人だけで

対応しているらしいけど…




日曜日は点数計算も変わるし

いつもくる外来とは違い救急の患者や

初診の患者さんがほとんどで

カルテ作りなどでバタバタすると聞いている




先輩二人でもバタつくのに

カルテ1枚にまだ手こずる私じゃ

猫の手程度だろう…






「・・・ほんと…大嫌い…」






ミヨシ「・・・誰がだ?」





声に驚いてパッと振り返るとまた

三好先生が立っていた…





「・・ツッ・・」





三好先生の顔を見たら自分の中で

抑えられない苛立ちが出てきて

思わず顔を背けて自分の机に視線を戻した




(私が何したっていうのよ・・・)




今日は特に失敗もしてないのにお昼前に

不機嫌な顔をして先輩に指導し直すように

言い出した事に少なからず腹を立てていた…




ミヨシ「・・・・俺か?」




「・・違います…ただの一人言ですから

  気にしないで帰ってください…」




(早く向こうに行ってよ・・)





ミヨシ「腹立てる暇があったら勉強したらどーだ」




「・・はい?」




ドンドン苛々が大きくなっていき

少し睨む様に先生に顔を向けると…





ミヨシ「ミスしてもそのままだから

   何度も間違えるんだろうが?

   だいたい薬の名前も前もって勉強してれば

   俺のカルテも普通にわかるんだよ」



 


「ッ!・・やってますよ!!

  でも、字が汚すぎて読めないんですよ!」






ミヨシ「・・・他の奴は読めててなんで

   お前だけ読めねーんだよ!

  何がやってますだ?出来てねーだろうが!

  もっと勉強しろよ!


  仮にも命扱う職場にお前みたいに

  ただ時が過ぎるのを待ってるだけの

  スタッフは必要ねーから

  やる気がないなら元いた場所に帰れ」





「・・・私だって…帰りたいですよ…

  なんでこんな所来たんだろうって…

  毎日後悔してますッ!!

 

  お店閉まるのは早いし…

  遊ぶところもないし…ス○バだってないし…

  ドクターも同僚も意地悪だし!!

  こんな田舎出ていきたいんです!」





ミヨシ「ガキか??さっさと勉強しろ」




そう言ってテーブルに何かを

パシッと置いて事務室から出ていった





「うっ・・・ウッ・・大嫌い・・」




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る