ラストバトル-7 裕太
「任せろっつったって、あいつ相手にどうするつもりなのさ?」
心配そうにそう尋ねてくるミーコさんだったが、今は……
「それを説明してる時間はないよ。あれじゃ雪女がもう保たない」
視界不良な戦場に目を向ければ、雪女はアストールと懸命に渡り合っているが、それもそろそろ限界なのは明らかだ。雪原は次第に範囲を狭め、作り出される精霊獣も明らかに数が減ってきている。
「ならあたしも援護……」
「ダメだ」
ミーコさんの言葉をを遮り、俺は静かに、しかしハッキリとそうミーコさんを止める。
「なんでさ!」
これから俺がやろうとしている事にはミーコさんが……少なくとも意識がハッキリしているミーコさんが絶対に必要なのだ。さっきみたいな事があっては差し障りがある。でも、それを詳しく説明している時間はないし、したらしたで絶対止めようとするだろう。だから俺は、敢えて違う方向からミーコさんの行動を封じることにした。
「あれ……どうするつもり?」
俺はそう言って、ジト目でついさっきミーコさんの芸術的な右ストレートを受けて、さながら飛び石の如く吹き飛ばされた男爵を指さした。
「あ……」
こめかみから汗を滴らせるミーコさんに俺は更に追い討ちを掛ける。
「ミーコさんがしでかした事なんだから、ミーコさんが責任もって何とかしなよ。はい、回復護符」
「で、でも……」
俺が差し出した回復護符を受け取りながらも、心配そうにこちらを見つめてくるミーコさん。
「これ以上、戦力減らしてどうするの。早く男爵を戦列復帰させてくれ」
「…………分かったわ」
不承不承といった感じで頷きを返すと、ミーコさんは男爵に向かって走り出した。
それを確認してから、俺はアストールに向かって走り出す。
雪女が作り出した精霊獣は、既に氷竜を除いて全て破壊され、その氷竜もあちこちにひびが入り、何時崩れさってもおかしくない状態だ。
雪女本人も妖気が尽きかけ、疲労も極致なのだろう、肩で激しく息をしている。
白蘭も既にダウンしている。
俺は氷竜に冷気補充のために符を放ち、とうとう両膝どころか両手まで地面に突いて呼吸を荒げてしまっている雪女の元へと駆けより、彼女を背中に隠すかのようにアストールに向かって立ち塞がった。
「雫ちゃんって言ったっけ? 大丈夫かい?」
俺は振り返ることはせず、アストールに視線を向けたまま雪女に声を掛けた。
「……貴方に『ちゃん』付けで呼ばれる筋合いはありませんわ」
返ってきたのは、俺に対しての明らかな敵意を孕んだ冷たい声……俺、彼女に何かしたっけっか?
「わたくしは……わたくしがお姉様を助けてみせる!」
そう叫ぶと雫ちゃんは、アストールに向かって駆け出した。
そういう訳ね……折角可愛い顔してるのに勿体無い。
「氷竜よ! 力を貸して!」
雫ちゃんの呼び掛けに、氷竜はコールドブレスを放って応える。
ブレスは何本もの巨大な錐となってアストールに襲いかかるが、恐らくさっきまで何度となく繰り返されてきた事なのだろう、奴は何の苦もなく笑みさえ浮かべてそれを尽く魔力で弾き跳ばして防いでいる。
「畜生ぉぉぉぉぉ!!」
声を張り上げ、最後の力を振り絞るかのように妖術を組み上げてそれをアストールに放つが、それは奴が力強く地面を踏みしめた瞬間、周りの雪原と氷竜を巻き込んで、共に儚くかき消されてしまった。
「そ、そんな……」
圧倒的な力の差を見せつけられ、力無く膝を突く雫ちゃん。
「なかなか楽しめたが真打ちがそこに控えているのでな。この辺までにしておいてもらおう」
俺を指さしそう口を開くアストール。
雫ちゃんはそれをただ悔しそうに見つめて………え? あの、俺じゃなくてアストールを睨んでくんない?
「さて……結局は君一人になってしまったようだな、水無月君」
「へぇ、そんなに早くそう結論付けちゃっていいのかな? どこから援護射撃が入るかどうか分かったもんじゃないぜ?」
肩を竦めて余裕たっぷりを装ってそう言い返す俺。
「下手な強がりは止めるのだな。それとも時間稼ぎかな? 確かに時間を置けば他の者共も回復する恐れもあることだし、この際、さっさと片付けるとしようか」
『お前の意図は読んでるぞ』
と云った感じで笑みを浮かべながらそう言い放つと、アストールは全身の
その時だった。
「……法術……
頭上から、聞き覚えのある叫び声が響き渡る。
突如として響きわたったその声に、アストールは慌てることもなくため息を吐いて応えた。
霊気の高まりも無いその声にの正体に気付いているらだろう。
でもね……
「水無月君……残念だよ。私は君をそれなりに買っていたのだがな。この後に及んでこの私が同じ手に引っ掛か……何!?」
口上の途中で突然噴き上がり始めた強大な霊気に驚きの声を上げ、その霊気の源を確認するため頭上を見上げるアストール。
その視線の先には……聖符で描かれた魔方陣。
五枚の聖符が五芒星を描き、その中で幾本もの
「喰らえ!」
今度は式神からではなく、本物の仁藤の声だ。
駒野の何らかの術の影響下にあるんだろう、光の焔を纏った仁藤の
「グガ……グァァァァァ!!」
「だから『いいのかな?』って聞いたのに」
俺は式神を通してこの戦場全てを見渡していた。仁藤と駒野がこそこそ動いていたのは分かっていた事だ。式神はその仁藤と駒野の行動を隠す事に放ってたんだよ。
まだ致命傷じゃないだろう……でも、地面に両手をついて肩で息をしているさまと、魔力の揺らぎを見れば、この光の焔は確実にアストールに大きなダメージを与えている事が察せられる。
但し、これで止めを刺すには到らない。時間を置けばすぐに回復してしまうだろう。
だけど、奴の魔力は無限であるようでいて実はそうではないのだ。奴が扱える魔力の総量は底が見えないけど、一度に使える魔力の量……言い替えれば、奴が制御できる魔力量には明確な限界があるのだ!
奴の魔力は仁藤と駒野の二人が奏でる
俺は素早く呪符を取り出し、接近戦への備えをする。これからやろうと思ってる事は、奴にどれだけ接近出来るかが成功の鍵を握ってる。
ダメージを受け、魔力がオーバーヒートしかかっていると言っても、奴の肉体から生み出される一撃は、まともに受ければこちらの命をも奪われかねないし、それに奴ことだ、どんな隠し球を持っているか分かったもんじゃない。
細心の注意を払って奴に近付き、こっちの手の内を悟られる前に一気に流れを引っ張りこんで、奴が隠し玉を使う前にとどめを刺してやる。
そう心で呟いて構えを取ったところで、力無く俯いていた雫ちゃんがキッと顔を上げ、アストールに向かってその手に氷の槍を生み出しながら走り出した!
マズい! 今の彼女じゃ奴との接近戦は無茶だ!
いきなり俺の思惑から外れる雫ちゃんの行動に、俺は慌てて追いかけるが、彼女の方がアストールに近かった分、彼女の方が先に奴にたどり着く。
「っ!!」
アストールの手のひらが突いている地面にヒビが入ってる!
やっぱり奴は奥の手を隠してる……しかも彼女はそれに全く気付いていない。
間に合え!
俺は全力で足を進める。
「アストール! 覚悟ぉぉぉぉぉ!」
雫ちゃんがアストールの元にたどり着き、その手の氷槍を奴に突き出したその瞬間、雫ちゃんの足元から何かが突き出てくる。
「危ない!」
ようやく追い付いた俺は、反射的に雫ちゃんを押しのけ、雫ちゃんがいた場所に入り込んでしまったのだった。
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