再会で再開?-4 裕太
ピンチのミーコさんに近寄ろうと駆け出すと、それに気付いた雪女が3体の石人形を差し向けてきた。
しかも今までの人型人形じゃない。丸型の胴体から突起状の足が何本も生えていてその胴体を支えている姿は直立している蛸のようだ。
足は硬い石で出来てるから蛸と蟹をミックスしたような姿だと言えば分かるだろうか?
……俺なら分からんな。
ともかく、丸い蛸のような胴体が、突起状の足に持ち上げられてるような見た目……うーん分かりにくい。
ドツボにはまりそうだから説明はこの辺で。取り敢えずタカアシガニ1号、2号、3号と名付ける。
タカアシガニは、ザクザクと突起状の足を地面に突き刺しながらこっちに近寄って来た。
試しに……
「符よ……汝は何者にも縛られぬ時の流れなり……風刃」
霊気の刃がタカアシガニを切り付けるが、ガリッと表面を浅く削っただけでダメージらしいダメージは入ってない。
「ダメか……っ!」
タカアシガニ1号が、思いのほか素早い動きで俺に近寄って来て突起で攻撃を仕掛けてくる。あれに刺されたら痛そうだ。
俺は咄嗟に飛び退いて距離を取る。すると1号を飛び越えて、2号と3号が襲い掛かってきた。
あまり時間掛けたくないんだよな……
「んじゃ取って置きの術で撃退してあげよう」
俺は迎撃の準備をしつつタイミングを計る。
頭上からジェットストリームアタックの如く2号と3号が時間差で攻撃しかけてくるが、2号の突起先がこっちに届こうかというタイミングで、俺はこっそり放った特殊合金製式神メタリックスライムベス……面倒臭いから略してベスに、金属並の高度を誇る粘糸で引っ張ってもらう。
その際足元にとある術式を施してあるからその動きは高級車の発進時並に滑らかで音も静かだ。
そして、俺と入れ替わるように2号がその術式を施した地面に突っ込み、踏み締めてしまう。
すると……あ〜ら不思議。2号は着地に失敗し、ツルンと滑って引っくり返る。
「フフフ……バナナの皮アタック改……あ」
ドヤ顔で決めようとしたその瞬間、思いもよらない展開が目の前で繰り広げられた。
滑ってひっくり返った2号の上に3号が墜落し、2号の突起足の1本が3号に突き刺さり、3号の突起足が2号に突き刺さったのだ。
更に、ここから起こった出来事に俺は心ならずも唖然としまう。
2号と3号の激突の衝撃で折れた1本の突起足が、激しくクルクル回転しながら宙を飛び、こっちに向かってこようとしていた1号の胴体部に突き刺さってしまったのだ。
崩れ落ち、活動を止めるタカアシガニ1号2号3号。
「……計算通り」
ニヒルに決めた台詞の筈だったが、何故か虚しい風が吹く。
「まぁ、良いか。それよりミーコさ……んっ!!」
ぐぁ……うがっ……うにぃっ……
視界の隅で氷の錐に身体のあちこちを穿かれ、呻き声を上げているミーコさん。
そして……
《
ミーコさんの身体が青い炎に包まれる。
「このぉ……っ!!」
怒りの叫びを放とうとしたその時、雪女の頬を伝う涙に気付く。
(涙?! まさか……意識が残っているのか!?)
その時、俺の頭の中に透き通った水を連想させる美しい女性の声が響きわたった。
『コロ…シ……テ………コロシ……テ…………コロシテ…………』
「っ!!」
一時の躊躇……時間にして数秒だったが、その数秒がミーコさんを更なる危険へと向かわせる結果へとつながってしまう。
「アハハハハハハハ!!」
響きわたるミーコさんの哄笑。
「ミーコ!!」
その哄笑に危険なものを感じた俺は、思わずミーコさんを呼び捨てしてしまう。
「……だよ裕太……」
マズい……今の状態で切れて、膨大な妖気を消費したら冗談じゃなく命に関わる!!
「どけっ!!」
焦った俺は、押し寄せてくる石人形に何枚もの呪符を放つが、どれも石人形に無効化されてしまう。
やばい……ミーコさんの妖気が明らかに揺らいでる!
「化け物なんだよぉぉぉぉぉ!!」
「ダメだミーコ!!」
爆発的に膨れ上がった妖気は漆黒の炎と化して、ミーコさんを中心に渦を巻き、全身を戒めていた氷刃を瞬時に溶かし、自らの身体の自由を取り戻した。
ミーコさんは呪火を身に纏い、怒りの咆哮を上げる。
不完全ながらも獣人化し、体中の体毛を逆立て歯を剥き出し、呪火を巻き上げ、四肢に力を込めて眼光鋭く獲物を見つめる姿は、まさに一匹の獣……しかし……氷の錐に貫かれた事によって出来た傷からは、大量の血液が流れ落ちている。
半妖であるミーコさんは純粋な妖怪に比べると傷の回復が遅い。だけど
「もう、回復に回す体力が残ってないんだ……」
落ち着け俺! クールになれ俺! 何とかミーコさんの下まで辿り着いて彼女を救うんだ!!
落ち着いて思考を巡らせ……俺は出来る子……俺は出来る子……落ち着いて……落ち着く……落ち着く……
「なんて出きるかごらぁぁぁぁぁ!!」
俺は無策のまま、石人形の群れに突っ込んでいく。
「くそっ!」
石人形の群に突っ込んだはいいけど、焦りが俺の思考回路を蝕んでいて、なかなか突破することが出来ない。その焦りが更なる焦りを生み落とし、更に思考回路を狂わせて行く悪循環に陥ってしまった。
ミーコさんは漆黒の呪火を纏って四肢に力を込め、雪女へとその狙いを定めている。
そこに襲いかかる石人形の雷撃。
しかしミーコさんはその攻撃を意にも介さない。全て身に纏った呪火が全て弾くからだ。
ミーコさんの呪火は攻防一体の優れた妖術で、あの程度の雷撃ならミーコさんの肉体まで届くことすら出来ないだろう。
しかし、今のミーコさんに、あれだけの呪火を練り出す体力なんて、残ってる筈がないのだ。
「早く止めなきゃ……」
そう思って、何とかこの場を突破しようと何度も試みているのだが、俺の攻撃は悉く無効化され、走り抜けようとすれば雷撃で牽制されて前に進めない。
焦りだけが募ってゆく。
俺が、イライラと攻めあぐんでいると、一つの人影が横をすり抜け、俺の前に躍り出て、石人形の群れに攻撃を仕掛けた。
「剛斧!」
人影……つまりは仁藤が手刀を地面に叩き付けると、割れた地面が宙に浮く。
「風槌!」
すると今度は堤下が風の槌をそれ等に叩き付け打ち放ち、見事石人形の内の一体を破壊することに成功する。
「ここは俺たちが引き受けてやるから、さっさと自分の女を助けに行きやがれ!」
「そうッスよ! コイツ等は俺達に任せるッス!」
その言葉に俺は無言で頷く。
二人のお陰で頭が冷えた。何も石人形の真ん中を突っ切って行く必要ないじゃんか。
俺はベスの1つを足場にして飛び上がり、更に別のベスに粘糸で引っ張ってもらって石人形の群れの頭上を通り過ぎて向こう側に着地する。
ミーコさんに視線を向けると、一気に貯めていた力を解放し、雪女に向かって駆けだしていくところだった。
そこに、その突進を遮る様に石人形が立ち塞がる。
しかし、ミーコさんは全くスピードを緩めることなく突っ込んでいき、道端の小石が如く石人形を弾き飛ばした。
石人形はその衝撃に耐えきれず、粉々に砕け散る。魔法石が呪火を打ち消す速さよりも、ミーコさんが与えた物理的な衝撃の方が圧倒的に早かったんだろう。
「ニャァァァァァ!!」
気合い一線、右ストレートを打ち放つミーコさん。
雪女は、氷に魔力を練り込んだ特殊な氷壁を360°張り巡らし、それに対抗する。
「ニギャァァァァァ!!」
右ストレートが氷壁にふれた瞬間、ゴアァァァァァと轟音を響かせながら、呪火が凄まじい勢いで雪女に襲い掛かる。
ぶつかり合う呪火と氷壁……しかしミーコさんの攻撃はそこで終わらない。拮抗した呪火と氷壁に向け、今度は左ストレートを打ち放ったのだ。
拮抗していた呪火と氷壁は、一気に呪火優勢へと傾いて激しくその場で燃え上がり、雪女を吹き飛ばした。
呪火は、ボァァァァァっと天高く噴き上がると、そのままミーコさんの元へと収束されていく。
後に残ったのは、氷壁を蒸発させられ、息も絶え絶えの状態で片膝を突いてる雪女。
ミーコさんは止めを刺さんと、既に次の攻撃の予備動作に入ってしまっている。
俺は意を決して、呪火を纏ったミーコさんの行く手を遮るように飛び込んだのであった。
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