再会で再開?-3 ミーコ
あたしを含めた妖怪の
いつもは、内へ内へと抑え込んている妖気を身体の隅々に……細胞の隅々まで行き渡らせて肉体を変質させて本来の姿に戻り、その過程で妖気が爆発的に増大するのが妖怪における
あたしは半妖なので、人と妖猫の中間の姿になるが、ちょいと裏技を使って妖気を増幅してる。
なのにいったい何なの?! なんかいつもの
ここの所、調子がイマイチだったのは事実だ。裕太と離れていたので情緒不安定で、気分が上がったり下がったりと落ち着かなかったからだ。
ただ、それはどちらかと言うと暴れる妖気の制御が上手くいかずに暴発して、結果的に破壊活動しちゃう事になっちゃったって事で、今回みたいに妖気が高まらないってのとは違った。
どうしよう……このままで大丈夫かな?
雪女は、悪魔に取り憑かれていてかなり危険な敵と化している。こんな中途半端な上に制御不能な状態で戦って、果たして無事でいれるだろうか?
……まぁ良いか? なんか上手く思考も定まらないし。
大体今はそんなことには構ってられない状況だ。何しろあたしの108つの煩悩のひとつの中断を余儀なくされたのだ。
よくも……よくもあたしのコーヒーを……許せない!! あたしはコーヒーブレイクを邪魔されるのが一番腹立つんだ!! 最後の一滴を飲み干すときのあの充足感に達成感……キィィィィィ!! 久しぶりにあの感覚が味わえると思ったのにぃぃぃぃぃ!!
左手が未だに凍り付いてるみたいだけど構うものか!
あたしは本能の赴くまま身体が自然に駆け出すに任せる事にする。今のあたしは美人半妖金城美依子じゃない……一匹の獣なのだ!!
「ウッッッニャァァァァァ!!」
四肢で地面を蹴り、あっという間に雪女の懐に入り込むと、あたしは無理矢理妖気を右手に集め、そのすかした顔に一撃入れんと拳を振るう。
バシンー
しかし拳は雪女が張り巡らした不可視の障壁に遮られる。
氷の壁じゃ支えきれないと見て魔族の能力を使ったな?
だけど……
「それがどうしたぁぁぁぁぁ!!」
あたしは一気に妖気を爆発させ、不可視の障壁を吹き飛ばす!!
お互い爆発の衝撃で後ろに吹き飛ばされるが、あたしはなんとか体勢を立て直し、再び四肢で大地を蹴った。
雪女は次々と石人形を産み出している。大きい術を使う為の『間』を作ろうとしているんだろう。
あたしは咄嗟に右腕に妖気を集めた。せめてここだけは完全に
「ハァァァ!!」
妖気が集り右手が炎に手を突っ込んだかのように熱を持つ。その熱に導かれる様に、妖気を解き放つと、なんとか右手のみの完全
「コーヒー……」
「あたしのコーヒー……」
時折、爪で切れない石人形もいるけれど、そんな時は……
「あたしのコーヒー返せぇぇぇ!!」
右ストレートを撃ち放つ!
獣化しているあたしの右拳は、その石人形の特徴である胸の大きな魔法石を打ち砕き、そのまま瓦礫へと変貌させた。
《
雪女が石人形が稼いだ時間で完成させた妖術は、雪の花弁が舞う綺麗な術だった。
雪の花弁はあたしの身体に貼り付いて、あたしの妖気を吸い上げながら、小さな花を咲かせて弾けて消える。
ひとつひとつの花弁の攻撃は大した威力じゃないんだけど、地味に……
「
涙が滲むが、でも耐える。
雪の花弁に囲まれながら、石人形の対応に追われていると、貼り付いた花弁が次々に花になりパシュンパシュンと散っていくので、毒素が身体に溜まっていくようにあたしの身を蝕んでいくのが分かる。
動きを阻害するほどではないけど、少しずつ妖気が奪われ痛みで集中力も削られる。
雪の花弁はその場の温度も下げているようで、呼吸の度に冷気が肺を凍てつかせ、酸素が足りなくなって行く。
妖気が万全なら、冷気なんて気にならないのに……いやいや、そもそも術をまともに受けてる時点でダメだろこれ。
おかしいよ……警戒心が枯渇しているかのようだ。
呼吸も苦しい。あたしが息上がるだなんて有り得ない。お年寄りとかなんとか裕太に馬鹿にされちゃう。
あぁなんだろう……さっきから思考に靄が掛かったように纏まらなくなってきた。
とりとめもなく思考をグルグルしていると、今度はさっきあたしの蹴りで隻腕となった石人形がこっちに向かって雷撃を仕掛けてきた。
「ぐぁっ!」
雷撃は、完全にこいつの存在を失念していたあたしを捉え、一瞬の……そして決定的な隙を雪女に与えてしまう。
《
その一言に、あたしの周囲でにわかに騒ぎだす氷の精霊達。そしてさっきまでの、単発な氷の錐での攻撃とは違う、連続した無数の氷の錐が空中から私を囲うように襲いかかってくる。
まずい! 避けられない!!
「うにぃ……ぐはっ!」
雷撃で身動きとれないあたしの体を、無数の氷刃が次々に貫いていく。
「ぐぁ! うがっ! うにぃっ!!」
両足は地面に縫い付けられ、背部から腹部への氷刃は内臓をも貫く。幸いにも心臓は無事だったけど、肺は片方が完全に機能を停止してしまう。四肢も刃に貫かれ、下手に動けば無惨に引き裂かれてしまうだろう。
「うぐ……」
あたしが氷刃に貫かれながらもなんとかこの状況を打破しようと目尻に涙を浮かべた顔を上げた瞬間、再び雪女の口から呪文が紡ぎ出された。
《
あたしの周囲を青く美しい澄んだ炎が包み込み、瞬時に身体が凍り付いていく。
「っ!!!」
声にならない悲鳴。既に声帯は凍り付いている。
(あぁ……あたしこのまま死ぬのかなぁ……)
全身から徐々に感覚が失われ、ある意味心地よい眠りに引き込まれそうになりながら、あたしは取り留めもなくそんな思考を巡らしてしまう。
決定的な一撃をあたしに見舞ったはずの雪女……本来なら勝ち誇った顔でこっちを見ていてもいいはずなのに、不思議なことに彼女の瞳からは一筋の涙が流れ落ちている。
(泣きたいのはこっちなんだけど?)
思わず心の中でそう突っ込みを入れてしまう。
(ごめん、裕太……あたしはここまでみたい……)
そう心の中で裕太に呟いた途端、何の前触れもなく唐突に『あの時』の映像が脳裏をかすめた。
……
かつて、死にかけたあたしを助けるどころか拒絶し、更には止めを刺さんとナイフを振り上げた連れ合いの男がいた……その男の顔が脳裏に浮かぶ。
……い、嫌……
《く、来るな!》
《た、助けてあなた……》
何とか命をつなぎ止めて、男に手を伸ばすあたしだったが……
《来るな! この化け物がぁぁぁぁぁ!!》
愛し合っていたはずの男からの激しい拒絶……ついには男のナイフがあたしに振り下ろされる。
だめ……
寒さのためではない、『恐怖』からくる震えがこの身を襲いガチガチと奥歯を鳴らした。
そしてナイフを振り下ろした男は……
《うがあぁぁぁぁぁ!!》
「やめてぇぇぇぇぇ!!」
次の瞬間、暴走したあたしの妖気で散り散りに切り裂かれていく男の映像に、あたしは凍り付いた声帯を無理矢理震わせ、我知らず絶叫を響かせた。
青い炎があたしの身体を徐々に凍てつかせている。身体の隅々が、細胞の一つ一つが悲鳴を上げているのが分かる。既に指先、足先の感覚はなく、それどころかさっきまで全身を駆け巡っていた激しい苦痛すら、今はほとんど感じられなくなってしまっていた。
でも……
「あは……」
喉元からこみ上げてくる嘲笑。
「あははははは……」
その嘲笑は徐々に大きく高らかにその場に哄笑となって広がり始める。
「アハハハハハハハハ!!」
それは戦いの高揚感から来るものでも、今自分が置かれている状況を絶望した諦めから来る哄笑でもない。
そう……これは言ってみれば自嘲の哄笑。
氷刃に体の至る所をを貫かれ、内臓がいくつもその機能を停止させ、全身の細胞が凍り付き始めているのにも関わらず……あたしは死なない。
「ミーコ!!」
遠くから聞こえる裕太の焦りを含んだ叫び声……珍しく呼び捨てだ。あたしがいくら頼んでもそう呼んではくれなかったのに……。
「大丈夫……大丈夫だよ裕太。あたしは化け物だから……」
だからあたしはこれ位では死なない。
「あたしは化け物なんだよ……」
いや『死ねない』。
「あたしは……」
裕太とは違うこの身体……いや『存在』そのもの。この状況におかれても死ぬことがないこの現実が、それを否応無しに思い起こさせる。
「化け物……」
自然とあたしの頬を涙が伝う。
『あいつ』に自分の存在を……『人』ではなく『化け物』であることの現実を突きつけられたあの日のことが頭を巡る。
「あたしは……」
顔を上げキッと前を見据える。
そうだよあたしは……
「化け物なんだよぉぉぉぉぉ!!」
あたしの中で、ピキンっと何かが引きちぎられる音がした。
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