再会で再開?-2 裕太
一変はした……一変はしたけど何かおかしい。
お尻から突き出た二本の尻尾は確かに太さが増している。
むき出しの両手も獣のそれへと変化し、それに伴い爪も人のものとは違う獣の爪へと変化している。
更に黒髪が、ミーコさんが変化する時の特徴のである銀髪へと変化しつつあるのも見て取れる。
けど……
「なんスかね……変化が中途半端じゃないッスか?」
「……だよね。変化したら髪は綺麗な銀髪になるはずなのに、所々にラインが入ったように黒髪が残ってるし」
「両手の変化にしても、前はもっと獣のものに近くなかったか?」
「だよねー……って仁藤! 復活早っ! 伊達にミーコさんの右フックを喰らって無事だっただけはあるね!」
「パないッス仁藤さん! 通りすがりのサンドバッグの異名は伊達じゃ……あっ……」
「……
「じょじょじょジョジョに奇妙に冗談ッスよ!! 流石にそれ喰らったら死んじまうッスぅぅぅ!!」
こめかみに血管を浮き上がらせた仁藤の右腕が、アームレスリング世界チャンピオン並みに太くゴツくなっている。多分法術の一種だろう。霊気が詰まっているのがひと目で分かる。
……取り敢えず二人の事は放っておいて、ミーコさんに視線を戻す。
中途半端なのは姿形だけじゃない。妖気の増大に関しても中途半端だ。変化した時のミーコさんの妖気の増大はホントえげつない。こんなもんじゃ無いのだ。モフラー且つケモナーの俺が言うんだから間違いない。因みに俺がモフるのも萌えるのもミーコさんだけだから勘違いしないように。
「そもそもあの尻尾がおかしい! ミーコさんの変化後の尻尾の美しさはあんなもんじゃない! 太さが足りず、キューティクルも剥がれてるじゃないか! モフラー且つ尻尾フェチの俺からするとあれは許せん! やり直しを要求する!」
「「……」」
「……何か文句でも?」
「「ブンブンブン」」
激しく首を振る2人を尻目に俺はミーコさんの様子を窺う。こっちがこれだけ騒いでるのに反応が無いのが気になる。いつもなら岩の一つでも飛んできそうなもんだけど。
照れ隠しで。
ミーコさん、動揺してるんだろうな。瞳孔が猫のものへと変化した瞳で、不安げに自分の身体へ視線を走らせている。
「兄貴!!」
「っ!!」
堤下の警告に、俺は咄嗟にその場を飛び退いた。
するとビュンッと風切り音と共に石人形の拳が頭上から降ってドゴンッと爆音を響かせながら地面に突き刺さった!
「うぉー! リアルロケットパンチだ! スゲーな、おい!」
「何で兄貴、そんな嬉しそうなんスか?!」
「あーいうオタク心を
「俺は別に?」
「ねぇ? 命のやり取りしてる時に、そんな余裕ないッスしね」
「嘘だろ……お前ら実はオカマだったのか?!」
「んな訳あるか! なんでそーなる?!」
「戦闘中の緊張感、ないッスね……」
あれを見て心躍らないなんて
「ウッッッニヤァァァァァ!!」
ふと、見やるとミーコさんがコチラの
「ミーコさん!!」
俺の声が聞こえてない! 明らかに普通じゃない!
俺はミーコさんを追い掛けようと一歩足を踏み出すが、そこに透かさずロケットパンチが降り注ぐ。
「チョット、本数多すぎじゃね?!」
ズサンドスンと地面に突き刺さるロケットパンチ。いつの間にか10を超える紋様付き石人形に囲まれていた。
どういうメカニズムかは分からないが、放たれた拳の補充は直ぐさま行われたようで全ての石人形に両腕がある。
「風よ……集い寄り来たりて鉄槌を成せッス!」
「金剛!」
俺が退くのと入れ替わるように、堤下が風塊で、仁藤が拳でそれぞれ石人形タチに攻撃を仕掛ける。
「「っ!!」」
二人の攻撃は、やはり石人形には効果が薄い。堤下の風塊は石人形に触れる直前に霧散し、仁藤の拳はまともに受けたものの砕くに至らず、仲良く喧嘩する猫と鼠のアニメの中の意地悪猫が壁にぶつかった時のように、ビヨヨ〜ンと衝撃が身体を伝って外へと抜けていくのが見えた。仁藤は何がしたかったんだろう?
「一応、念の為に言っとくが、これは腕に溜めた法力を叩きつける技だからな!」
涙目でそう訴える仁藤の言葉でようやく理解した。法力ってのも元をたどれば霊気の一種だろうし、そりゃ威力も霧散するだろう。
でもさ……
「お前ら、真正面からいきすきじゃね? ちょっとは頭使えよ」
「そう言うならここは全部兄貴に任せるッス!」
「見せてもらおうじゃねぇか! テメェの頭使った攻撃ってのを!」
「いいよー。その代わり上手くいったら、ミーコさんの溜まったツケ、君らに払ってもらうからね」
「そそそそれとこれとは別問題ッス!」
「……堤下が払ってくれるそうだ」
「ちょちょちょちょちょっと待つッスよ仁藤さん!? そこで掌返しって
「よし、んじゃ堤下払いでオッケー」
「ノォォォォォ!!!」
悲観にくれる堤下を無視して俺はこっちに向かって来る石人形達に相対す。
「符よ……汝らを依り代に、眷属を我もとへ!」
そう唱えながら右手を振るうと、”地面に散らばった”呪符が薄く光る。そう、さっき雪女対策に地面にバラ撒いた呪符の事だ。
幾枚もバラ撒いていた呪符が、次の瞬間バフォンと弾け、石人形達も何事かと足を止める。
現れたのは一本の棘あり流線型式神の群れ。
「……スラ○ムッスね」
「ス○イムだな」
「違う! 我が眷属のテヘペローヌ3世ちゃん達だ!」
「いや、誰がどう見てもス○イムッスよね?!」
「スラ○ム以外の何物でもねぇじゃねぇか! いや、ある意味すごいんだけどよ!」
「ちぃぃぃがぁぁぁうぅぅぅ! テヘペローヌ3世だっつってんだろうが! 行け! テヘペローヌ3世達よ! お前らの隠されたその
俺がそう指令を下すと、棘付き流線型式神テヘペローヌ3世達に、ニョキんと手足が生えいでる。
「キモっ!」
「……なんつーシュールな光景だ……」
「喰らえ! テヘペローヌ光線!!」
俺がそう号令するとテヘペローヌ3世達はテヘペロポーズからのテヘペロビームを目から放った!
それを石人形達は、さっきまでと同じように無効化&吸収する。
「俺らと同じじゃねぇか!!」
「ほら、見栄張ったりするから……へ? ななな何スか?!」
「ふふふ……気付いたかね?」
「何だ? 石人形達が逃げるス○イム達を追い掛け始めたぞ?」
「テヘペローヌ3世だっつーの!!」
仁藤の言葉通り、石人形達は、唖然としている二人とドヤ顔のこの俺には眼も繰れず、逃走を始めたテヘペローヌ3世達を追い掛ける。そして壁までたどり着いたテヘペローヌ3世達は、そのまま壁の中に吸い込まれる様に消えていった。
しかし、石人形達は消えたテヘペローヌ3世達を追うように、壁をガシンガシンと殴り付けている。
「……何だありゃ? 何がどうしてあーなってんだ?」
「あれは……スラ○ム達を追っ掛け続けてるんスか?」
「堤下の言った通り、あいつ等はテヘペローヌ3世を追い掛けてるのさ」
「何でッスか?」
「なる程……そういう事か……」
「仁藤さん……そこで物知りキャラ気取っても、無駄ッスよ。仁藤さんも俺と同じくギャグキャラ決定なんスからね」
「テメェと一緒にするんじゃねぇよ。つーかこれを見せられてなんでテメェは分からねぇんだ」
そう言うと、仁藤は
確か……
「どっこいしょだっけ?」
「
「さーせん」
「んったく……
念を込めた
「だから法術はアイツに無効化されるッスよ!」
「オメェは水無月の言う通り、少し頭を使え! アイツが無効化して吸収するのは気が通った術や拳だ! なら……」
更に激しく回転する
「喰らえ!」
仁藤の掛け声に、
石人形はガックリと膝を折り、地面に倒れてそのまま瓦礫と化している。
「あ……そう言う事ッスか!」
その様子を見て、ようやく堤下も理解したようだ。
堤下は、地面に転がっている手頃な石を手に持つと、テニスのサーブの様に……実際には何倍も高く放り上げる。
「喰らうッス! 昔取った杵柄アタッァァァク!!」
テニスのサーブそのままの動作で、しかし実際は圧縮した空気をラケットに見立てて振り下ろすと、石がテニスボールの何倍もの早さで撃ち放たれ、仁藤の時と同じ様に石人形を貫通し、同じ様に石人形は崩れ落ちた。
二人がどうやって石人形にダメージを与えたのかは、実は簡単な理屈だ。術や霊気を無効化させられるのなら、物理的に無理矢理攻撃を通したってだけの話だ。
仁藤は法術で
撃ち出す所までは、二人の術の力だけど、撃ち出された弾には霊気が篭っていなかったので、奴の術式も反応出来なかったってわけ。
堤下は、よくもまぁ、石を砕かずあれだけの威力を出せたよね。普通あれだけの威力を出す為に風の塊を叩き付ければ、石がその衝撃に耐え切れなくて砕け散ると思うんだけど。単純にぶっ叩いただけじゃないんだろう。洞察力はアレだけど、術士としての能力はやっぱり高いみたいだ。
でもさ……
「そこはアタックじゃなくてサーブじゃね?」
「細かいッスね! 言い間違えただけだからそこはスルーして欲しかったッス!」
因みに俺がやったのは、石人形にテヘペローヌ3世達を敵対象だと認識させ、ただ逃げ回って見せただけだったりする。ゲーム風に言うとヘイトを取って維持していたってやつだ。あ、ついでに弱めの術を当てることによって、吸収された霊気が何処に集るかも確認した。
仁藤は目ざとくそれを見つけ、それ……つまりは石人形を石人形足らしめるコアを破壊したのだ。
ああいう敵と真正面から戦うのは、時間と霊気の無駄だ。楽に戦わないとね。
「んじゃ後は任せるから。俺はあっちをフォローしてくる」
「分かった。行って来い」
「これでさっきの賭けは無効ッスよね」
「直ぐに俺の意図を理解した仁藤と頭空っぽの堤下を同列には語れん」
「右に同じ」
「ノォォォッスゥゥゥ…………」
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