コーヒーブレイク-1 裕太
ピシャン--
「ん……」
頬に滴り落ちた雫の冷たさに、俺は強制的に覚醒を促された。
(確か俺は……)
むくりと起きあがり、額に手を当て頭を振って意識を更に覚醒させる。
当たりを見渡すと、目に映るのは暗闇と瓦礫の山、そして僅かに差し込む月明かり。
(そっか……俺は崩落に巻き込まれて……)
「あは~ん♪」
「ムフフッス♪」
崩落した時の状況を思い出そうとしたその瞬間、俺の耳は聞き覚えのある、しかもお今の状況にそぐわない気楽なうめき声が僅かに漏れたのを聞きつける。こんな状況でそんなお気軽なうめき声を出せるのはあの二人しかいないだろう。
音源にたどり着くと、俺の予想通りの二人が抱き合って横たわって……抱き合って?
「………………………………符よ、汝は神が落とせし怒りなり。光と共に落ちろ雷刃」
バリバリバリバリィィィィィ--
「ギャァァァァァッスぅぅぅぅぅ!!」「フニャァァァァァ!!」
「……」
「い、いきなり何すんスかぁ?! 何があったんすかぁ?!」
「ふぎぃ……これは裕太の雷……」
「あ、兄貴! いきなり何するんスか?! 殺す気ッスか?!」
「……そうだな。
「他人の女? 俺は金城さんに手を出したりなんか……あっ! こ、これは誤解ッスぅぅぅぅぅ!!」
「そ、そうよ! これは不可抗力よ! 手下A! さっさとあたしの胸から手を退かせなさい!」
「身体が痺れて動かないっすぅぅぅ! 金城さんこそ退けて下さいッスぅぅぅ!!」
「あたしだって動けないわよぉぉぉ!!」
「誤解ねぇ? 不可抗力ねぇ? その割には二人とも随分お楽しみだったみたいじゃないか」
「楽しんでなんか無いわよ! 私があなた以外の男と何かあるわけ……あ……そ、その笑顔はやめて……目が笑ってないよぉぉぉ!!」
「そおッスよ! 俺が金城さんと何かあるなんて、阪神ファンが巨人ファンに鞍替えするくらいあり得ないっす! 俺はもっとお淑やかな女性が好きなんす! 胸がもっとデカい女性が好きなんすよぉぉぉ!!」
「……悪かったわね……乱暴な貧乳で……」
「あっ! やべっ……ち、違うッス! あ、あくまで俺の好みの話ッス! 金城さんが魅力的じゃないとかそう言う訳じゃなくて……」
「どうせあたしは凶暴で微乳よ! 悪かったわね!!!」
「……息もピッタリだな。もう俺が入る隙間も無いほどの親密さ……」
「ちょ、ちょっと! どこ行くのよ!!」
「ま、待って欲しいッス! せめて引き剥がして欲しいッス! このままじゃ絶対俺に被害が……」
「……いい加減コントは止めろよ。そんな場合じゃねぇだろ?」
突然そんな言葉が近くで聞こえ、俺たちは慌てて振り返る。
「居たのか仁藤。死んだかと思った」
「仁藤さん、死んだかと思ったッス」
「むしろ、何で死ななかったの?って感じ?」
「お前等鬼だ!」
「まぁ冗談はこの辺にしておこう。確かにそんな場合じゃない」
「じょ、冗談だったの……よね。あんたならそれくらいやるわ……」
「兄貴は冗談で雷撃放っ……ても別に不思議でも何でもない事っすね」
「俺にも冗談には見えなかった……んだけどそれをやるのがテメェか」
「分かればよろしい」
「普通ここは怒る場面じゃねぇのか?」
「馬鹿ね。裕太にとっては今後の自分の行動を正当化させるために必要な問答なのよ」
「さっきの行動って正当化出来るもんなんスか? これからもビリビリッスか?」
そうだ。ビリビリだ……という言葉は口にせず、話を先に進めるクールガイな俺。
「二人ともそろそろ動けるはずだろう? さっさと離れて立ち上がれよ。仁藤、お前怪我はない?」
ハッとした表情で二人は身体を離し、自分の身体をチェックしながら立ち上がる。
「怪我? 別に無ぇが?」
仁藤は自分の身体を見回してそう答える。
「あたしも無事よ。別な意味でも無事だから安心して。あたしの身体はあなただけのものよ」
「……俺も無事ッス。別な意味でも無事ッス」
「"別な意味"ってどんな意味よぉぉぉぉぉ!」
「あんはほおなじいひっふほぉぉぉぉぉ(あんたと同じ意味ッスよぉぉぉぉぉ)!!」
取りあえず二人は無視して、仁藤と話をする事にする。
「怪我がなくて何より」
「……その言葉、もっと違う表情付けてくれたらありがたく思うんだが? 面倒臭そうに言われても嬉しくねぇよ」
「修行が足りないんだって」
「修行の問題か!」
「当然だ。ところで俺たち以外に誰かいなかったのか?」
「……はぁ、テメェ切り替え早すぎんだろ……俺が見たのは男爵とテメェのペットが俺達とは反対の崩落に巻き込まれてるところだな。他のメンバーは大丈夫だと思うが……少なくともここには落ちてきてねぇぞ」
白蘭をペットとはね。この辺のさり気ない心配りの無さが、自分の地位を貶めてることに気付く日が、彼の元にやってくる事を祈ろう。
「そうか……んじゃ取りあえず、白蘭と連絡を取るか……」
俺はそう呟くと意識を集中して、白蘭に呼び掛けを行う。
『白蘭、白蘭。聞こえるか?』
『……裕太……様……ご無事で……』
『お前の方は?』
『怪我……無い…無事……です』
「ねぇねぇ裕太? もしかして白蘭とテレパシーで話せるの?」
ミーコさんの問いかけにコクンと頷いて応え、また白蘭との通信に戻る。
『周りにお前以外に誰かいるか?』
『禿げ……親父……』
禿げ親父? 男爵の事だな? 何であいつ、んな言葉知ってるんだ?
『禿げ親父……じゃなくて男爵は無事か?』
『ビンビン……してる…ます』
ビンビンって……それを言うなら……うおぇ……ビンビンしてる男爵、想像しちゃったよ。
「ねぇねぇどういうこと?! あたしという者がありながら、何で他の奴と心を通わせたりするの?!」
『そっちからこっちに来ることはできるか?』
『………壁…で分断……行く…不可』
『そうか……』
「ちょっと、ちゃんとツッコんでよ……恥ずかしいじゃない!!」
『男爵以外は落ちてないか? 他の奴らの事は分かるか?』
『こちら……居ない…です……我と禿げ親父……』
「わっ! だだだダメッスよ! 今、兄貴は使い魔と通信中ッス!」
「ちょ、ちょっと手下A! どこ触ってんのよ!!」
『分かった。何かあったら連絡くれ。それ迄は男爵に従って』
『了…解……ご無事で……』
「とにかく早まっちゃいけない……ってバランス崩れるッスぅぅぅ!!」
『白蘭もな』
「あんたが胸を触るからでしょうがぁぁぁぁぁ!!」
『有り…難き……お言葉……』
「テメェら、いい加減にしろよ? この状況を何とかするための知恵で……も……あ! ち、ちょっと待て! こっち来るんじゃねぇ!!」
『ともかく何かあったら直ぐ知らせてくれ』
ズカァァ「「「うぎゃぁぁぁぁぁ!!」」」ァァァン--
『了…解……』
「ふう…………向こうは白蘭と男しゃ……何やってんのお前等?」
三人絡まって瓦礫に埋もれている姿を見て、理解に苦しんだ俺は三人にそう訊ねた。
「い、いや……これには止ん事無き事情が……」
「海より深~い事情があるッス……」
「明らかに人災だろうが……クソッ……」
三者三様の反応を確認しつつ、原因がミーコさんにあることは経験上間違いないので、責任の矛先が俺の方に向く前に話を変えようと思った今日この頃なのであった。
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