コーヒーブレイク-2 裕太
「とにかく白蘭と男爵は無事らしい。他のメンバーは見あたらないってさ」
俺はそう三人に説明した。
「他のメンバーは大丈夫ッスかねぇ」
「さぁね。ま、崩落にさえ巻き込まれてなければ大丈夫じゃない?」
心配そうに呟く堤下にそう答えると、俺は脱出の道を探るべく、辺りを見渡し自分達が置かれている状況をチェックする。
「洞窟の下にこんな空洞があるとはね。ちょうどこの岩壁で区切られてて、向こう側との行き来出来る道が見あたらないらしい」
「上に登るのも無理ッスね。どうするッス? 上の連中が助けてくれるのを待つッスか?」
「案外大声で叫べば聞こえるんじゃない? うおぉぉぉぉぉいぃぃぃぃぃ!! 誰か返事しろぉぉぉぉぉ!!」
「「「!!!」」」
「駄目みたいね」
「あ、あんた声デカすぎ……」
「耳がキンキンするッスぅ……」
「頼むから一言相談してからやってよミーコさん……」
俺達男三人は、耳を抑えてミーコさんにそう訴えた。ミーコさんの声はその気になれば武器にもなるのだ。獣型妖怪特有の
「ごめん、ごめん。でもこれで反応無いなら後は術で上に知らせるか、登るかしないとだめね。では、万年二位の
ミーコさんの言い様に、ピキッと血管を浮き上がらせつつも、グラサンを抑えながらなんとか自制する
「俺の使う法術はそんな便利なもんじゃねぇ。一定時間滑空する事は出来るが、それにはそもそも高い所から飛び降りる必要があるし、出来たとしてもここに居る4人全員を滑空させられる程の強い念を維持できねぇ」
「使えねぇやつ」
「使えないッスねぇ」
「都会のロンリーウルフ気取ってんじゃないわよ」
「さらっとひでぇ事言うんじゃねぇ! しかも最後の意味わかんねぇし!」
「取りあえず先になんとか仁藤さんだけに上がってもらって、こっちが無事な事だけでも伝えてもらったらどうッスか?」
「それならわざわざ燃費の悪い法術で無駄な霊力を使う必要はないよ。俺が式神飛ばすから」
「そうよね……燃費悪すぎるからね」
「まるで十年乗り続けたトラックの様に燃費が悪いッスからね」
「てめぇら俺がそんなに嫌いか?!」
「「「うん」」」
「テメェーらみんな地獄に落ちやがれぇぇぇぇぇ!!」
涙をチョチョ切らせ走り去るノリのいい
ま、ほっときゃ直に戻ってくるだろう。
「冗談はさておいて、さっさと式神を飛ばしちまおう」
俺はそう言うと、ポーチの中のメタリックスライムベスと
ベスが目的地に到達したのを見計らって、いったん目を瞑り、意識をベスに集中してから目を開く。するとベスの視覚と俺の視覚がシンクロして、ベスが見ている光景が俺の視界に飛び込んで来た。
「よし。視界良好……あれ?」
式神を操りながら辺りを見渡すが、視界に飛び込んできた映像に疑問を覚え、俺は再度辺りを見渡す。
「……う~ん……」
「どうかしたの?」
「誰もいない」
「何かあったか?」
立ち直り早えーな、
「足跡が先の通路に通じてる。先に進んだんだな」
「俺達そんなに長い時間気絶してたんスかね?」
「まぁ、もしくは見捨てられたか……あ、メモが落ちてる。何々…が『我々は先に進みます。後から着いてこられたし』……薄情だなぁおい」
そこで俺はシンクロを解き、元の視界に戻す。
「どうする?」
「取りあえずここ探索するか?」
「それより上に登る方法考えた方がよくないッスか?」
「あたしお腹空いた~」
一人のん気なミーコさんを見つめふとあることに気付く。
そういや俺も腹減ってるわ。
「少し休憩しよう。慌てて事を起こしてもこの場合いいことなさそうだし」
「さんせ~」
「異議なし」
「俺もッス」
やる気なさげな面々を横目にしつつ、俺は1枚の呪符を取り出すと、それにゆっくり霊気を通す。
するとバシュッと音を立て呪符が弾け、空中に曼荼羅模様の魔方陣が描き出された。
俺はそれにエイヤッと右手を突っ込み、魔方陣の“向う側”からコーヒーミルやコーヒー豆等、コーヒーを入れるのに必要な道具を次々と取り出した。あとは、携帯しているカロリースティックだ。
すると、3人が驚愕の表情でこちらを見ている事に気が付いた。
「どったの?」
「いや、あんた今何したの?」
「何って……コーヒーでも淹れようかと思って道具を取り出したんだけど?」
「今の……俺の目がおかしくなったんじゃなけりゃ、虚空から道具取り出したように見えたんだが?」
「虚空と言うか、呪符で空間繋いで取り出しただけだよ」
「だけって……ちょっと兄貴の感覚おかしくないッスか?!」
「そんな驚くような術式か?」
「テレポーターでもない人間が空間繋ぐなんて普通出来ないわよ」
「そうなん? まぁ確かに成功に漕ぎ着けるまで色々と苦労があったけど。取り出す物を指定して座標の固定方法を確立できれば割と簡単に出来るよ。ゲームで言う所のアイテムボックスをイメージして作ったんだよね。まぁ今のところコーヒーセット専用アイテムボックスなんだけどね」
「何故にコーヒーセット限定?」
「汎用性を持たせると術の成功難度が激上がりするんだよ」
「いや、俺が聞きたかったのは、何故にコーヒーセットなのかってぇ事なんだが……」
「それは俺がいつでもどこでもコーヒー淹れられるようにする為だよ。結構かさ張るし、全部持ち運ぶと結構な荷物になるんだよね。
「……相変わらずのネーミンスセンスと無駄に高性能な術式よね……ねーカロリースティックしかないの? あたしはお米がないと駄目なの知ってるでうごっ!」
「……無茶は言わない」
「いっっったぁぁぁい!! そのハリセン何で出来てんのよ……って言うか喧嘩売ってんの?!」
「無理な注文するからでしょ?」
「ちょこっと聞いてみただけじゃん!」
「……その後の流れが目に浮かぶようだ。お米の次は具はおかかと昆布じゃなきゃ駄目。味噌汁付けなきゃお仕置きよ。味噌汁の具はなめこと豆腐じゃなきゃ暴れてやるんだから。そして俺らのツッコミ。ミーコさん反撃手加減知らず。再度瓦礫に埋もれてはいさようなら」
つらつらと言葉を重ねながら、コーヒー豆をお気に入りのコーヒーミルで挽き始めた。
「……あたしだって常識ぐらいわきまえて……」
「わきまえてたら、今この場で瓦礫に埋もれてたりしないでしょ? それどころかこの仕事にも来てないし」
「確かに悪のりしすぎたのは確かだけどさぁ……」
「あんまりわがまま言ってるとコーヒー淹れてやんないよ?」
「……分かったわよ……その代わり、カロリースティックはチョコ味にしてよね」
「はいはい」
コーヒーサーバーにドリッパーを取付け、挽き終えたコーヒー豆でドリッパーを満たす。
お湯はもう沸いている。実はこのヤカンは特別製で、霊気を通すと自動で術が発動しお湯が沸くのだ。霊気で扱うケトルって訳だ。
ふと見ると堤下と仁藤が唖然とした表情でこちらを見ていた。
「どうかしたか?」
「そのヤカンもただのヤカンじゃねぇな? 驚くほど少ない霊力で湯が沸きやがった」
「何か、とんでもなく高度で難解な魔方陣が見えた気がするッス」
「これ、水も自動的に注水される仕様だし、コーヒー入れる時に最適な温度になるように設定してるしね」
「なんか拘るところおかしくねぇか?」
「天才の思考は凡人には理解出来無いって聞くッスけど、この事ッスかね……」
ハハッと力なく笑う二人のことは放っておいて、俺はカップにドリップしたコーヒーを注ぐ。
「裕太の淹れるコーヒーは下手な喫茶店のコーヒーより何倍もおいしいのよね……これを飲んだら他のコーヒーは飲めないわ」
「ほい、出来た。砂糖とミルクいる?」
「あ! ハイハイ! あたしブラックで!」
「じゃあ俺もブラックで」
「俺、いらねぇ。俺エスプレッソしか飲まねぇからがうへぇぇぇぇぇ!!」
ミーコさんの右フックを受け、紙切れのように吹き飛ぶ仁藤。
「我儘言ってんじゃないわよ! 有り難く頂なさい!」
「ミーコさん埃立つ。コーヒー抜くよ?」
「ご、ごめんなさい! もうしませんからぁ~」
「あ、ホント旨いっすね! 香りも凄くいいし……」
「……オメォーら少しは俺の心配しろよ……」
「ダイジヨウブか?」
「ダイジョウブッスよね?」
「別にダイジョウブじゃなくてもあたしはいいけど?」
「……」
シクシクと泣き崩れる仁藤を後目に、即席のお茶会を開く俺たち。
「何かこんな時だって言うのにこんなにのんびりしてたら他の奴らに悪いッスね」
「あたし達を見捨てて行った奴らなんかほっときなさいよ」
「別に見捨てた訳じゃないんじゃない? ま、今はせっかくコーヒー飲んでるんだから仕事の話は忘れよう」
「忘れていいのか?」
ちゃっかり戻ってお茶会に加わっている仁藤。やっぱり立ち直りが早い。安心していじり倒せる。
「ホント裕太の淹れるコーヒーって最高だわ」
「ホントっすね……俺、本当に美味しいコーヒーがこんなにも違うものだって知らなかったッス……。なんか体の心が熱くなってきた気がするッス!」
「あ、それ錯覚じゃないから」
「へ?」
「俺のコーヒーには霊力を回復させる効果があるんだよ。特殊な栽培方法で作ったコーヒー豆を、更に特殊な方法で焙煎したんだ。どうやったかは企業秘密だけど」
「体力回復の効果があるハーブの話は聞いたことあるが、コーヒーってのは初めてだ」
「裕太のコーヒー道楽の産物よ。『ハーブの回復アイテムがあるのに何故コーヒーにねぇんだよ!』って言って自分で拵えたんだから流石よね」
「俺はハーブティーよりコーヒーの方が……」
そう言いかけた時、ミーコさんの様子が急変した事に気付く。
来たか……。
俺はそっとカップを地面に置きつつ、コーヒーセットを片付けた。結構苦労して作ったやつだし壊されたくはないしね。
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