猫女は激怒する-3 裕太
どうも俺はミーコさんを怒らせてしまったらしい。しかも何がどう転んでそういう結論に達したのか分からないけど、ミーコさんは俺が浮気したと思ってる。
冗談ではない。ミーコさんとつき合いだしてこの半年、一度だってそんなことをした事実はない。
俺は無言で問いかけの視線を送る。
ミーコさんもこちらを睨んでいる……けど顔が赤いぞミーコさん。そんな顔で睨まれたって説得力無いって。
こういうところが彼女の可愛いところだ。あんなに激しい気性を持っているのに、同時に少女のような
男心をくすぐるお得な性格だ……なんて考えは甘かったらしい。
「……にしてたのよ……」
「ん? なんだって?」
「先月の18日の夜……どこで何してたのよ……」
「先月の18日って言うと……ミーコさんがいなくなる前の日のこと? その日は大学のゼミの仲間と飲み会だったけど? ミーコさんにも結構前からそう言ってたし、朝にも出掛けに言ったよね?」
「それは聞いた……でも……」
「でも?」
へ? なんかミーコさんの妖気が高まってるんですけど?
「でも……女の子も一緒だなんて聞いてないわよぉぉぉ!」
「大学のゼミなんだから普通女の子もいるでしょぉぉぉ!」
だからなんで妖気飛ばしながら叫んでくるんだぁぁぁ!
はっ!? ミーコさんがいない!?
「あんなに……」
「楽しそうに笑ってぇぇぇ!」
「そう叫びつつハイキックするのはやめてくれぇぇぇ!」
ミーコさんの蹴りの勢いに逆らわず、何とか自分でその方角に跳んで衝撃をやり過ごす。それでも地面に叩きつけられた衝撃でかなりのダメージを受けた。
「あんなに……」
クソ! 早く逃げなきゃ!
受けた力のベクトルを利用して起き上がり、止まらずに飛び退く俺。
「楽しそうににデュエットしてぇぇぇ!」
地面にクレーターがぁぁぁぁぁ!!
ヒートアップしてきた涙目のミーコさんの顔を見て俺は死を覚悟する。
その俺に死の覚悟をさせた張本人は、地面から拳を引き抜くと、自らの妖気で空間を揺らめかせながら、ゆらりと起き上がった。
こりゃ、こちらも覚悟を決めて……命をかけて彼女の怒りを鎮めなきゃ被害は広がるばかりだな。
「何より許せないのは……」
俯き唸るように話を再開するミーコさん。恐ぇ~。
「あの金髪女とキスしてたことだぁぁぁ!!」
ありゃアメリカからの留学生でみんなに挨拶して回ってただけだってぇぇぇ!
ジャンピングハイキックを避けながらそう思いつつも、口に出してのツッコミは火に油を注ぐような物なので、取りあえずはミーコさんの攻撃をかわすことに専念する。
「アンタは……」
着地した反動と蹴りの回転力を利用しながら続けざまに繰り出される後ろ回し蹴り。
「あたしの物なのぉぉぉ!」
「ヒギャァァァ! 俺の髪の毛焦げてるんですけどぉぉぉ!」
「アンタと……」
頭上に踵……
「一緒に楽しく飲んでいいのもぉぉぉ!」
飛び退いたと同時に振り下ろされた踵が地面に穴を穿つ。
「ま、また地面にクレーターが…………」
「アンタと……」
ゲッ! 妖気弾! 早っ!
「デュエットしてしていいのもぉぉぉ!」
着地前だ! 避けられない!!
「だぁぁぁ!」
「何より……」
何とか障壁を呼び出す事に成功したものの、為すすべもなく吹き飛ばされる俺に向かって、ミーコさんの更なる妖術が追い討ちをかける。さっきの十倍はあろうかという妖気弾が彼女の手のひらで形作られているのだ。
「ち、ちちちちちょっと待てぇぇぇ! いくら何でもそんなん喰らったら死んじゃうってぇぇぇ!」
「アンタとキスしていいのはぁぁぁ! あたしだけなんだからぁぁぁ!!」
だからその相手を殺そうとしてどうする!
「はぁはぁはぁ……あたし……はぁはぁ……だけ……なんだからぁ……はぁはぁはぁ……」
かくして一人の青年の尊い命が天に召されたのであった……って洒落にならんわ。
取りあえず立ちこめる土煙に紛れて何とか策を打った俺なのであった。
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