Ⅴ.蘇生
「いいねえ……大分でかい病院だ」
たどり着いた病院は俺があらかじめアポイントメントを取っていた病院だ。旧知の男がここで勤務しているということもあって、便宜を図って貰ったのだ。
だって、嫌だよ、俺。一から説明して、論理を作って、納得させるの。その間あの防護服着てないといけないんでしょ。早死にしちゃいそうだ。
「こっちこっち」
病院の裏口から手招きする旧友。俺は彼に歩み寄って、
「よ。元気してたか?」
「ああ、一応な……それよりお前、本当にそんな姿でうろついてるんだな……」
旧友は俺の姿を頭頂部からつま先まで、舐めるように眺める。この視線にもいい加減飽きたからそろそろ終わりにしてほしいところだ。
「いいだろ別に。こうして俺はぴんぴんしてるんだから。それより、患者のところに案内してくれるんだろうな?」
「それはいいが……本当だな?本当に治せるんだな?信じていいんだな?」
「もちろんだ。俺が今まで嘘を言ったことがあったか?」
旧友は眉根をひそめて、
「……一度や二度ではなかったと思うけどな」
と呟く。あれ?そうだったっけ?まあいいや、
「いいから。早く行くぞ。俺がもし失敗したら警察でもなんでも突き出していいって言ったろ?成功したら成功者の友人。失敗したら犯罪者を警察に突き出してお手柄。お前に不利なことなんて何にもないんだから。な?」
旧友はまだ不満げだったが、
「……分かった。こっちだ。来てくれ」
俺を病院内に招き入れる。俺はその招き入れに応じ、素直に建物の内部に入る。
「……なんか暗いな」
室内に入った第一印象は「暗い」だった。旧友が、
「仕方ないさ。電力だって足りないんだ。必要のないところは全部カットだ、カット」
「なるほどねぇ……」
「こっちだ」
納得しているうちに、旧友は階段を上がる。俺もその後を付いて病院の中を進みゆく。きっと、エレベーターなんてものは動いていないんだろう。外から見る限り五階以上はあるこの建物を徒歩で移動するのはなかなかしんどそうだ。
やがて、旧友は一つの階で、立ち止まり、
「ちょっと待っててくれ」
俺を静止して、廊下の先を伺いみる。人なんて足りないどころの騒ぎではないだろうから、大丈夫だとは思うのだが、念には念を入れてってことだろうか。
やがて、安全が確認できたのか、旧友が再び俺を先導し、
「ついてきてくれ」
一つの部屋へと誘う。俺は旧友の後からその部屋に入る。
「おお……」
壮観だった。
いや、その表現は余りふさわしくないかもしれない。
そこには生と死の境目をさまよい続けているとされる、二桁を優に数える患者たちの姿があった。全員脳死状態で運び込まれ、ここで延命措置を受けているのだろう。
「さ、治してくれるんだろう?早くしてくれ」
旧友がそう急かす。気持ちは分からなくもない。こんなところを同僚にでも見られれば彼は即刻首が確定する。そもそも首になる方がいいのか、ならない方がいいのかは分からない。
「ああ、待ってろ」
俺は適当に選んだ患者に歩み寄り、その周りについていた保護用のプラスチックを触り、
「なあ、これって外れないの?」
旧友が絶句し、
「あ、当たり前だろ!?何だと思ってんだよ、それ」
「んー?邪魔な壁」
「邪魔って…………はぁあああああ……」
旧友は大きくため息をついたのち、二、三操作をして、
「これでいいか?」
「恩に着る」
その“邪魔な壁”を外してもらった。
そう。これでいい。
これで、いくらでも“命令”が下せる。
俺は患者の頭部に手を当てる。
視覚的には大した変化はない。
だけど、その内実は確実に変化している。
やがて、
「ん……」
「え!?」
患者が、意識を取り戻す。
「まぶしい…………え?ここって……どこ?わっ!?貴方は、だれ?」
前後不覚とはこのことだ。俺はゆっくりと諭すように、
「ここは病院。貴方は今の今まで意識を失って、ここで寝ていたんです」
患者は「ああ」と気が付き、
「そっか。私……例のやつで」
「そうです。でも大丈夫。私が治しましたから」
「あなたが……?そんなことできるの?」
「ええ」
俺はにかっと笑い。
「だって俺は、神ですから」
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