Ⅳ.衰弱

 Aさんの死から時が経てば経つほど、日本の都市機能はマヒしていった。


 まず学校が閉鎖になった。


 その後公共機関が閉鎖になり、後を追うようにして、大小さまざまな小売店や、飲食店が閉鎖した。インフラ、ということもあって、鉄道やバスなどは最後まで粘っていたが、それもついこの間停止された。


 今稼働しているのは病院と、警察。それから最低限の食料の運搬くらいだ。ネット上の通販サイトも全く機能しなくなったし、地方の都市では食料が届かずに餓死者が出たなんて話もあった。


 既に不審死──海外では“Unknown”と呼ばれているらしい──など過去のこととなっている海外からも支援が相次いだ。


 が、それもあくまで物資の支援にとどまり、それ以外の面での支援は行えなかった。


 当たり前である。一体何を原因にして死に、どのような経緯で広まるのかが分からない、“病原菌のような何か”が蔓延している土地に足を踏み入れたい人間などいるはずがない。


 時を前後して、防護服を着ることで取り合えず死は免れるのではないかという噂がまことしやかにささやかれる。


 初めは皆半信半疑だったものの、最終的には藁にもすがる思いで、多くの国民が防護服を買い求めるという異常事態が発生した。結果として防護服は高騰。それを用いて商売を行う「転売屋」も後を絶たなくなった。


 中には一連の事態を軽く見て、全くの対策なしに生活する者たちもいた。そのものたちの中から死者が出ることもあったが、それが対策を講じなかったためかどうかという部分に関しては、有意な相関性を見出すことは出来ないという結論が、後年なされることになる。


 それ以外に不思議なことといえば、“Unknown”の死者に交じってに、「脳死状態の患者」が医療の現場に運び込まれるようになっていったことだろうか。


 今までの患者同様脳は半分程度のサイズに委縮しており、その点においては全く変わりはないものの、それ以外の生体機能は全く健常で、ただ、意識が無く、脳が死んでいるという部分だけが異なっていた。


 これらの患者に関しては、数がそこまで多くは無かったこともあり、「取り合えず延命措置を行う」という結論がなされた。


 結論の先送りに過ぎないという声も上がっていたが、万に一つでも助かる可能性があるというのならば、その可能性を捨てるべきではないという声に押され、延命措置がなされることとなった。


 そして、不思議なことの延長として、彼ら彼女らは延命措置を続ける限り、完全に命を落とすことなく、意識不明の状態で生きながらえたのだった。

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