Ⅲ.閑散
「おーおー……随分とまぁ様変わりしちゃったねぇ……」
俺は思わずつぶやく。
だってそうだろう?今俺が歩いているのは、日本国内でも有数のターミナル駅であるところの新宿駅だってのに、人っ子一人歩いてないんだもん。しかも時間は昼の十二時。天変地異か、並行世界に来ちゃったか、あるいは壮大などっきりか。ま、そんなことはないんだけどね。
「き、君!なんて恰好をしてるんだ!」
「ん?」
話しかけられる。
誰だろう。
というか何者だろうって感じだ。だってそうでしょ。防護服で全身を覆ってるから身体なんて一切見えないし、顔だって目元しか見えないから性別も分からない。声に関してもくぐもっててよく聞こえない。全く、よくそんなものを着ていられるなって思うよ。ご苦労様です。
「こ、こ、怖くないのか?そんな無防備な恰好で」
「無防備」
俺は改めて自分の着ている服を眺める。下はジャージの上はパーカー。パーカーの下に着ているのはユ○クロで買った一枚五百円もしない、セールのVネック。確かに無防備って言えばそうかもしれない。いや、無防備っていうよりも「ダサい」って言った方がいいかもな。
俺は軽く会釈して、
「すみません。ほら、最近あれでしょ?人がめっきりいなくなったから。服装とか全然気を使わなくなっちゃって。でも駄目ですよね。新宿なんて大都会に、こんな近所のコンビニ行くみたいな恰好じゃ」
はははははは。
「笑い事じゃない!」
怒られた。
なんでだ。
なにが気に食わなかったんだ。
俺は一歩歩み寄り、
「じゃあなんだって言うんですか?」
「ひっ!?」
二歩、三歩と後ずさり。
うーん……ここ最近はずっとこんな感じなんだよなぁ……人と話そうにも、警戒レベルマックス状態で全然会話してくれないの。流石にそろそろ人と会話ってものを楽しみたいよ俺だって。一応“会話”だけなら出来るけどさぁ。
「そんな、逃げないでくださいよ。俺はただ話を、」
一歩歩み寄ると、
「ち、近寄るんじゃない!や、やめてくれ!」
と言いつつ全力で逃走。途中、慣れない防護服のせいで派手に転んでいた。あーあ。あんなもの着るから。そりゃ、あれだけ完全防備なら安心かもしれないけど、そこまでしてこんなゴーストタウンやシャッター商店街もびっくりの街に出てきたいと思うものかね?俺にはよく分からない。
「ま、いいや。取り合えず現状の確認は出来たから……」
再びの独り言。人間の話し相手がいないと独り言が増えていけない。
「やることをやりますかねっと」
近くに止めておいた自転車にまたがる。本当は電車で移動する距離なんだけど、今は止まってる。タクシーだって走ってないし、ガソリンスタンドだって人がいない。
仕方ないから俺はこの自転車っていう何とも古典的な手法を使うことにした。これでも結構かかるんだけど、仕方ない。
「よっ……と」
さて、それじゃ行こうか。
まずはどこがいいだろうか。やっぱり大病院がいいよね。うん。
そうと決まれば話は早い。俺は思いっきりペダルを踏んで、目的地へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。