翼のない少女A

サトウ

翼のない少女A

「自由とは何処まで認められるべきだと思いますか?」

 それは……何処までもという回答ではダメかな。

「なら、人殺しとかそういうのも許容されるべきなのではないですか」

 それとこれとは話が違うじゃないか。あくまで一般的な話で……

「嘘つきなんですね」

 いい加減にしないか。

「……まあ、嘘ではないんでしょうね。自由というのは現実的には縛られたルールや社会の中に存在するんでしょうから」

「先生、私は翼が欲しいんです。あの大空に飛び立てる大きな翼が。でもそれは夢物語なんです。私は現実的には何処まで行っても、人間という殻に詰め込まれたどうしようもない存在なんですから」

 ……今日は冷える。さあ、部屋に帰ろう。

「自由って、何をしても許される世界を言う訳じゃないなんて知ってますよ。先生に嘘つきって言ったのも本当は屁理屈だって分かってますよ。でも、皆可笑しな事ばかり言うんですよ? 人のせいにするなってあなたが選んだ道だって、人のせいにしないで自分に責任を持ちなさいって」

「私、この世に生まれたいなんて一言も頼んだ覚えなんてないのにですよ?」

 私達はいつでも何かに囚われて生きているものだ。その中でもがき、苦しんで、折り合いをつけてそうやって生きていくしかないんだ。

「その中で転落すれば、自己責任って言葉で片付けられるんでしょうね」

「私、翼が欲しいって言いましたけど、本当は何もかも手にしたくないんです。内緒ですよ? 私は欲深いから、翼を得た自由にも飽きてしまうんじゃないかって……翼を持つのにも代償が要りますから。自由だった世界を不自由に感じてしまう自分が恐くて……そうやって際限なく自由を追い求める気がして怖いんです」

「だから、今みたいに自由に文句を言い続けて、その癖自由に寄りかかっていた方が好きなのかもしれません。もしくはすっかり誰かに支配されてしまって、内心では全てあなたのせいなのよって笑うのもいいですね」

 なら君は何故そこに立っているんだ? あの頃の自由に空を飛び回れていた鳥人時代が君をここに呼ぶのか? それとも、ちょっとした反抗なのかい?

「自分でもよく分かりません。結局、翼を捨て去って人間と同化したのは自己責任なんでしょうから」

「今はここに居る意味なら、この紙飛行機が何処まで飛んで行けるか見てみたいだけですよ、っと」

「はは、全然飛ばないや」

 風が強いからな。特に今のは、横から思いっきり叩かれてたから飛ぶわけがない。それに形も歪だったぞ。

「……うるさいです」

 俯いてないで、ほらこっちに来なさい。折り方とか教えるから。やはり、今日は冷えるな。うわ、やっぱり冷えてるじゃないか。ほら、この上着着なさい。

「先生、ごめんなさい。でも……」

 語るならもっと暖かい所にしよう。丁度故郷から良い茶葉が入ったんだ。きっと、気に入ると思うよ? いや、好きって言わせてみせるさ、必ずね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

翼のない少女A サトウ @satou1600

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ