第45話 徳川家光は家康の隠し子?

 豊臣秀頼が秀吉の実子でないのは有名な話である。

 このことについてはある遺伝学者が、数十人以上の側室のなかで淀君だけを、しかも五十代後半になってから妊娠させる確率は0.03%以下と結論している。

 実子である確率もゼロではないが、限りなくゼロに近く、秀吉の子でない確率はほぼ百%に近い。

 しかし誰もその出自を疑わない人物がいた。

 徳川三代将軍家光である。

 生まれながらの将軍を豪語し、参勤交代を義務づけた将軍として日本史の教科書で覚えている読者も多いであろう。


 この家光のエピソードで有名なのが、両親の秀忠とお江が次男の忠長ばかり可愛がり、家臣たちも三代将軍は忠長なのではないかと噂し始めた。

 これに激怒した春日局が大御所家康に直談判し、家康自ら三代将軍は家光であると宣言したというものである。


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 今は亡き大原麗子の春日局好きだった


 しかしこれは不思議な話だ。

 一介の乳母ごときが、天下人である家康に直談判するなど到底考えられることではない。

 こういってはなんだが、親王殿下の家庭教師が陛下に直接拝謁しようとするようなもので、本来なら本田正純あたりに陳情するだけで終わるはずである。


 また調べてみると家光には当時からおかしな事情が見え隠れしていた。

 なんと天下の将軍だというのに、家光の誕生日はながらく秘密とされていた。

 正式に家光の誕生日が慶長九年七月十七日であると発表されたのは、実にお江の方の死後のことになる。

 その間将軍家光の誕生祝はなかったというわけだ。

 ところがこの慶長九年七月十七日というのは、お江の方が娘千姫の結婚のために秀忠から離れていた時期から逆算すると出産の計算が合わなくなる可能性が非常に高かった。

 というか合わない。世が世なら誰の子だ! という家庭版案件である。


 しかも溺愛というだけでは説明できないほど、家光より忠長に付けられた小姓の方が身分が高い。

 家光につけられたのはいずれも次男で親の格もそれほど高くはなかったという。



 そして決定的なのは家光が葬られた日光山輪王寺(日光東照宮)には、「家光公の御守袋」と呼ばれる重要文化財に指定されたお守袋が残っている。

 そのお守袋の中には、家光の直筆で、細長い和紙に「二せこんけん(二世権現)、二せ将くん(二世将軍)」と書かれているのだ。

 つまり自分は三代目ではないと言っているのである。


 その事実を示す文書も存在した。

 かつて江戸城に存在した紅葉山文庫の蔵書『松のさかへ(栄え)』の記述だ。

 『史籍雑纂』第2巻にも収録されており、内容は徳川家内々の話をまとめたものとなっている。

 巻一は「東照宮様御文」、つまり家康から送られた言葉となっており、そこには息子である秀忠の正室、お江の方へ子供の教育方法を述べている内容が書かれている。

 そして、この箇所の文末に下記の記述が存在する。


 「秀忠公御嫡男 竹千代君 御腹 春日局、三世将軍家光公也/同御二男 國松君 御腹 御臺所 駿河大納言忠長公也」


 竹千代君 御腹 春日局としっかり描かれているではないか。

 

 実はこの時代、後継ぎはお家の存続に死活問題で、後継ぎのいない家は徳川家の重臣であろうと容赦なく断絶させられている。

 そのため側室との間に産まれた子を正室との子として届ける代理母制度のようなものが存在した。

 この時代の大名家に、七年で六人とか十年で八人以上とかおかしな出産記録がやたらと残っているのはそのためだ。

 ちょうど秀忠とお江の長男となるはずであった長丸が夭折し、一刻も早い世継ぎの誕生が求められていた。

 子が産まれるのが遅かったらどうなるか、豊臣家というよい見本があったのである。

 その時点ではやむなく家康と春日局との間に産まれた子をお江の子として認知したのではなかったか。




 そんな家康と家光を結ぶ奇妙なエピソードとして、川越大師こと喜多院がある。

 管理人も数年前訪れたが、元三大師を祀るとともに、伏見城から移築したと言われる家光誕生の産屋や春日局の私室が現存しており、非常に感銘を受けたものだ。

 だが、なぜか家光の産屋の隣には、家康の厠なるものが存在する。

 家光が誕生した産屋の隣に、父親の秀忠ではなく、家康のトイレが今なお残るという事実を読者の皆様はいかが思われるであろうか。

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