第16話 赤城神社主婦神隠し事件

 1998年5月3日、千葉県白井市の主婦・志塚法子さん(当時48)は、家族(夫・娘・孫・叔父・叔母・義母)と群馬県の赤城神社へツツジ見物に訪れていた。あいにくの雨のため、神社へ行く夫と叔父以外は駐車場に停めた車の中で待つことになる。

しかししばらくして法子さんは「折角だから、賽銭をあげてくる」と、財布からお賽銭用に101円だけを取り出し、神社への参道を登っていった。ところが、待てども待てども法子さんは帰ってこない。

娘は駐車場から法子さんが境内とは別方向の場所でたたずむ姿を目撃していたが、それを最後に法子さんが車に戻ってくることはなかった。



 家族の通報を受け、警察は10日間で100人余りを投入し、付近を捜索。参道は山道ながらもよく整備され、崖などの危険な場所や道に迷う箇所もない。また、ゴールデンウィーク中で神社には沢山の人が訪れていたが、不審な人物や物音を聞いた人はいなかった。事件当日、法子さんは赤い傘を差し、ピンクのシャツに黒のスカートという派手ないでたちだった。またバッグや財布は車内に置いたままだったという。


 有力な手掛かりはなく、当日の天候は雨であったために傘をさしている人がほとんどで目撃者はなかなか現れなかった。

 しかしゴールデンウィーク中ということで、人通りは多く、偶然撮影されたホームビデオが事件の7ケ月後に公開される。

 そこには確かに法子さんらしき赤い傘の女性が映っていたが、家族はその女性が法子さんであることを否定し、再び捜査は振出に戻った。


 事件後、志塚さん宅にたびたび無言電話がかけられるようになる。

 その番号はいつも違っていたが、なぜか大阪や米子といった関西方面の局番であった。


 結局非常に短い時間で、かつ人目の多い観光地であったにも関わらず、法子さんの行方は不明のまま捜査は打ち切られた。


 この事件はまずツツジの名所で人通りの多い観光地で、子供ではなく歴とした大人の女性が、わずか6分ほどの間に行方不明となるという異常さにワイドショーなどで取り上げられ、超能力捜査官によるリーディングなども試みられた。

 さらにこの地方には「サムトの老婆(ばあ)」と呼ばれる神隠し伝説があり、法子さんも神隠しにあったのでは、とオカルト的な噂を予備、かなりセンセーショナルに報道された記憶がある。


 法子さんはなぜ急に雨のなか参拝しようなどと言い出したのか、なぜ財布から101円だけを取り出したのか。どうして参道からはずれた方向に歩いて行ったのか。

 蛇足だが風水で101とは別れや決別を意味するという。

 様々な憶測が流れたが、ホームビデオの提供などがあったことでもわかる通り、当日は多数の人が行きかっており、秘密裡に大人を誘拐できるような状況ではなかった。仮にも神社の敷地内で何らかの争いがあれば嫌でも目立つ。

 超能力者ゲイル・セントジョージは法子さんは誘拐されたと語ったが、はたしてなんの痕跡もなく衆人環視のなか誘拐などできるものだろうか。


 とある心理学教授は、単純に法子さんはトイレに行こうとして人目を忍んで奥に歩いていき、そこで足を踏み外したのではないか、という。

 一見理屈は通っているが、はたして家族にもトイレ(この場合汚い言葉だが、野ションにあたるだろうが)とは言いづらいものだろうか。

 しかしそう考えれば、法子さんが参道から外れた方向に歩いて行ったことにも合点がいく。管理人もこの推理がもっとも蓋然性が高いと考えている。


 群馬県前橋は内陸の地方都市であり、志塚さん一家が千葉県からやってきていることを考えれば、営利目的誘拐や怨恨の可能性は限りなく低いといえるだろう。

 かといって刹那的な犯行がないか、というとそう言い切ることもできない。

 なぜなら2002年、赤城神社に近い赤城山中で二十代女性のものと思われる頭蓋骨が発見されたからだ。

 年齢や特徴からしてこの女性は法子さんではないが、頭蓋骨以外の骨が発見されていないことから事件性が高いものと思われる。

 そうした遺体が発見された以上、この赤城神社近辺において犯罪事件が発生した可能性は捨てきれないのだ。


 だが失踪から10年が経過した2008年6月、法子さんの家族は失踪宣告を提出し、法的に法子さんは死亡したものとみなされている。

 

 万が一、記憶喪失となってどこかで生存していればよいが、あるいはこのまま神隠しに遭ったと思っていたほうがいいのかもしれない。

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