第44話 ローレンスは転生者 1
俺が気づいたのは、シャルロッテ嬢に婚約申し込みを王と王妃へ交渉しに行った後、上手くいかず、どんぐりの木に元気を貰いにいった後。
ふさふさの葉はまだ足丈に満たない。風に揺れてモミの木ぽいなと思った。モミの木って?疑問に思って考えていると頭痛が酷くなった。
落ち着くまで、深呼吸を繰り返した。俺、前世全く思い出せない。ほぼローレンスとしての記憶しかない。
参ったよ、宰相さんがゲームって言ってたからそうなんだろうが、何のゲームかわからない。言葉の意味はわかるが一番重要なストーリーが全くだが、バッドエンドがとか言っていたし、終わったか?
俺も散々王太子教育やってきた訳だよ。3歳から15年ここまで来たらって思わないから、王って自分の意見なんて通せないから。あっちの顔立てこっちの顔立てだから。派閥やら何やら。臣下になれば、意見を言っても結局最終判断は貴族院の会議、どんだけ気が楽か。あんなのやったらストレスで死ぬね。
どこかで気づいていたんだろうか。申し訳ないけどアルファードには王になってもらおうと押し付けたのは否めない。
記憶がないからバレる事は無さそうだが、誰にも気づかれないよう、さっさと臣下になって王位継承権放棄しようと決めた。
王位継承権はアルファードの子供が王太子として立つまでは無理だとして、いろんな要素に備えなければいけない。ゲームって言っていた限り何が起きるかわからない。最悪の想定としては、戦争とクーデターだろう。どちらも逃げる為には、金がいる。
「忙しくなるぞ、一山当てなければ」
執務室に戻り、状況整理をする。俺は、どんぐりの木で記憶が薄い転生者を自覚した。よく考えてみるとシャルロッテと孤児院で会った時、かなりサマーパーティーの一件俺に同情的だったような、普通王子に髪を切れなんて言うか?身分制じゃない記憶がある?今ならわかる気がする、彼女もか。
たぶん彼女もゲームの内容やらストーリーは知らない。知っているのは捕まった者達だな。俺も思い出したけど思い出せない、この気持ち悪さ、よく彼女は耐えているな。でも彼女が前世の記憶を使って動かないのには意味があるのかないのか、彼女とは二人で会うべきだ。呼び出すためにはやはり婚約の件を進めなくては。
今も王太子の仕事をかなり引き受けている事を交渉材料にし、少し脅し、婚約申し込みを進めた。やはり以前とは性格が少し変わったか?
領地から戻ったストンズ伯から面会があり、婚約の期間の先延ばしを提示された。ますますシャルロッテに会わなければと、呼び出しをした。
思った通り、彼女も一緒でゲームの内容は知らなかったし、かなり慎重に今を見ている。やはり彼女が良い、欲しいと思った。言葉を濁していたが、俺を巻き込まないようにしたいと言う気持ちが伝わった。
では俺は、この世界でどうにでも生きていける基盤を作ると決めた。王政とかいつどうなるかわからないから。
彼女と会うと必ず元気が貰える。王子という枠組みから外した見方をするから。彼女が作り物の令嬢とは違う安心があるから。彼女にはまだ言えないけど。
彼女が別れ際に言った
「髪、綺麗に揃えられてますね。すっかり逆プリン形の髪思い出せなくなりました」
「逆プリン」
彼女が去った後呟く。この世界、ケーキやアイスクリームはあるのに、プリンやゼリーがない。プリンは砂糖、牛乳、卵で出来る。ゼリーは、ゼラチンが必要だが今はない。
プリンはチャンスだな。店出して、
「容器どうする?プラスチックがそもそもない、振り出しか」
溜息が出る。硬めの蒸しプリン、紙か竹か、どちらにしてもすぐに似た販売元が出る、作り方は簡単だし時間との勝負だな。屋台なら一気に広げられる。材料確保と。
頭の中の計算が進む。
「商会を作るより共同経営だな。シャルロッテ嬢には悪いが王宮に囲って、彼女には感謝だな、いろんな面で動きやすくしてくれた」
「おーい、王子、急にどうしたんだ?書類は山積みなのに面倒くさそうな所に行こうとしてないか?」
「オーウェン、ツァーリ公爵をどうみる」
「領地も次期公爵も安泰。今や我が国で一番力を持っている公爵様」
「それに隣国の公爵家とも結束が固くなった」
「何がいいたい、ローレンス殿下」
「最悪は想定した方がいい」
「誰にも言ってないよな?」
「当たり前だろ。アルファードも優秀だ、もう少しあちらに仕事をまわそう。こちらも大公として臣下になる。基盤を作り対抗できる力は欲しい」
「それは、う〜ん、まだアルファード殿下も側近も学生だろ。文句がでないか?」
「ああ、そうかもな。いつまでも手を貸すばかりではなく、さっきの話も交えながら王太子には話すよ」
「逃げ道塞ぐねぇ。いつからそんな腹黒さ出すようになった?」
「いや、よく考えてみれば、自分の準備してないって気付いただけ」
「確かに、自分を後回しにしすぎだとは思ってたが」
「忙しくなるぞオーウェン」
忙しくなる事を喜びに感じてワクワクしていた。
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