第42話 婚約

直ぐにノーラ姉様はレオ義兄様に連れられスタンレー領に戻って行った。心配している義兄様に困った顔する姉様が可愛いかった。ストンズ領にいる間、父様と母様から婚約の話が来ていると聞いた。


「好きな人と出来ればいいけど、貴族である以上、お家の為になる方と考えています。しかし今は、」

言葉は切れた。ローレンス殿下が好きだという気持ちはある。

しかし、まだ拭い去る事ができないゲームのストーリー、私一人が巻き込まれる分には、嫌だが、仕方がないと思う。でも、家族、友達、そして何よりローレンス殿下がもうバッドエンドになってほしくない。

ここは譲れない。

「先日の話の後、考えてみたのですが、言葉も絵もあの時以来分かりません。また魔女みたいな人が来たら、影響されるかもという恐怖があの日生まれました。せめてもう一年様子を見てなんら影響がないようでしたら、父様、母様に伝え、決めていただけますか?もし、影響が出たら修道院に行きます」


このストーリーが終わっているなら、大きな騒ぎはないはずと思っている。上手く伝わったかわからないが、心配している事は一緒。


「わかった。もう少し検討をする。淑女教育も厳しくなると思ってくれ」

と父様に言われ、その後、皆で王都に戻った。ツァーリ領でも一泊し、帰りはゆっくりした。


王都に戻り夏季休暇も残りわずかな日、ローレンス殿下から季節の花と手紙が来た。嬉しいが、ゲームの強制力?という気持ちも出た。家族と話してふわふわしていた気持ちが冷静になれた。


だから…会って話そうと思う。私を気狂いだと思われても関わりたくないと思われても、私の中に不安がある以上、話したほうがいい。ローレンス殿下に、もう不幸な顔をしてほしくない。


王宮に呼び出しがあり、応接室にローレンス殿下がいた。

「突然の先触れで申し訳なかったね、しかし、これから茶会や夜会に出席するだろう。その、焦ってしまって、私も婚約が流れているし、状況が今は安定している。醜聞もあって捨てられ王子なんて民にも不人気の私だが、婚約を考えてくれないか。貴女といると楽しいんだ」

ゆっくり、私の様子を見ながら話してくれる。それを受けて私も正直に話そうと決めた。

「少し話を聞いて下さい。入学式の日、遅刻をしたピンク色の髪をした令嬢が私の横に座りました。その時、ゲーム、転生者、王子とアルファード殿下を見て話していました」

「件の騒ぎと同じ事を言っている」

と厳しい顔つきになった殿下に相槌を入れ、続ける。

「その言葉を聞いた後、言葉に沿うように頭の中に絵が浮かび体調が悪くなり医務室に運ばれました。その時から言葉の意味がわかるようになりましたが、前世の知識というものはありません。参加したサマーパーティーで隣国の宰相がゲームや選択肢、バッドエンドなどの言葉を言った時、あの時頭の中で見た絵を思い出しました」

「貴女も彼等と一緒だというのか?」

「それもわからないのです。私には彼等の言うゲームの話が見えないし、知らないのです。私が一番不安なのは、また転生者なる者が現れる事。ローレンス殿下が巻き込まれる事」


「うん、そうか」

と厳しい顔から穏やかな顔に

「話してくれてありがとう。ストンズ伯からも聞いていた、貴女の気持ちもね、様子を見たいと聞いている。それは、正しいことだね」

優しい笑顔を見せてくれるので気持ちが楽になっていく。

「私の見解なんだが、この前のサマーパーティー、卒業したとはいえエスコートとして参加した。宰相が言う二人の王子という条件を揃えたが何も起こらなかったし、貴女が転生者になっていたとしてあの場にいても変わらなかった。入学式の日に出会った転生者と呼んでいる者に影響を受けたとして、貴女は貴女であろう?私は、貴女といると幸せな気持ちになる、これを譲ることが出来そうもない。シャルロッテ嬢、貴女の学院卒業を待つし、婚約は先延ばしで構わない。私との未来を考えて欲しい」

誠意のある言葉に心が熱くなり、泣き出してしまった。

「ありがとうございます」

「うん、きっと大丈夫だよ」

婚約という書面の契約は交わさず、ただ候補者として名を残すことになった。

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