第38話 サマーパーティーでの2度目のダンス
金色の髪が風に揺れる。
「驚いた。会えるとは思わなかった」
「なぜ、ここにいらっしゃるのですか?ローレンス殿下」
「王妃陛下のエスコートで、少し周りを見ていたら、いつの間にか帰ってしまわれて、置いて行かれた」
肩を窄め少し照れたようにみえた。
しばらくの沈黙の後、
「もし、会えたら渡そうと思って。これをストンズ嬢にと、あのお土産のお礼だ」
「お礼なんて、たかがどんぐりです。受け取れません」
やはり、上手く会話が続かない。すると、
「あのどんぐり、埋めたよ。春になって芽が出た。今は、どんどん成長してる。それを見て楽しくて嬉しいんだ」
「本当ですか?芽がちゃんと出たなんて嬉しいです。どんな葉っぱでした?」
「なんだろう、ふさふさした感じ」
「見てみたいですね」
と深く頷いていると
「私は成長を見させて貰ってるから。だからお礼」
と少し強引に箱を渡された。
「見てもよろしいですか?」
「もちろん」
箱を開けると小さいダイヤが散りばめられた髪留めがあった。
「可愛い」
思わず声に出てしまい、ローレンス殿下を見るとすごく嬉しそうな顔をしていた。
その顔に見惚れてしまいそうで、視線を逸らした。
「ありがとうございます」
顔が赤くなっていくのがわかる。声も震えてくる。
「研究グループに選ばれたんだったね。シャーリス嬢が友人二人共に優秀だとお茶の時間に言っていたよ。頑張ってるんだね」
「ローレンス殿下こそ、お忙しそうですね、卒業式も来られませんでしたし」
「少し遠い国にも足を伸ばしたから、日程が伸びて帰れなくなった」
会場のホールから楽団の音が聞こえてきた。
「今年も一曲ダンスを踊ってくれませんか?」
「覚えていてくれたのですか?」
驚いてしまった。
「もちろん」
笑顔で言うローレンス殿下に嬉しかった。たかが令嬢一人を覚えていてくれたことを。心臓が高鳴り頬だけでなく身体中が上気してゆく。少し震える手を差し出すとぎゅっと握ってくれた。顔を上げると、ローレンス殿下も少し頬が色づいている気がした。
身体が引き寄せられると滑らかなステップと安定したリードに身体を任せ、音楽と周りの景色が今年も流れていく。
「楽しいです」
と口からそのままの言葉が飛び出した。
「音も今年は軽やかだ。楽しいな」
目が合えば笑ってくれる、繋がった手や触れている背中から熱を感じてしまう。今この時が嬉しくて愛しくて身体中でこの人が好きだと言っている。
曲が終わると身体が寂しがる。
この想いを口に出していいのだろうか、と考えていると、
「セオドリアの所に送るよ」
と言われた。
「去年と同じ言葉です」
「本当に、はぁ〜上手くエスコートできないな」
と笑いながら言う。それが子供ぽくて笑ってしまった。私の手を軽く握り、歩幅を合わせ歩いていく。どんぐりの木を知り合いの学者に見せたこと、異国の木ではないかと言われたこと、少し匂いがすることなどエスコートされながら話し
「鳥が運んできた」
と言うのが一番有力ですね、と二人で結論付けた。
ホールに入るとローレンス殿下の周りに人が集まってきたので
「ここで大丈夫です」
と言って別れた。最後まで送ると言われたがみんなの視線もあり、ご遠慮した。
セオ兄様の所に行くと、エイデル様がいたので
「やりましたね、嬉しいですね」
と同じグループで共に研究課題に取り組めたことの感謝を述べた。すると、満面の笑顔で
「では、一曲お願いします」
と言って手を差し出された。
「よろしくお願いします」
ゆるやかなワルツでテーマごとの改善点など会話は途切れることもなく賑やかなダンスになった。
サマーパーティーは何事もなく無事に終わり、夏季休暇に入る。
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