第36話 醜い恋
この気持ちのモヤモヤは一向に晴れない。
考えるのはマッケンナ様の婚約の事ばかりで研究発表のまとめにも身が入らない。
そんな様子を見て、ローラは、気にかけてくれる。
「何を考えてるの?」
「釈然としない」
「何です?説明になってません」
「何て言えばいいのか、わからない」
「つまり、いいたくないって事ですね」
首を横に振っていたが、話すつもりはなかった。
二人に幸せになってもらいたかったから。
誰も悪くない事もわかっているけど、何となく認めたくなかった。
「そんな顔してないで、デビュタントの準備はどうなの?」
「ほとんど、母様が取り仕切って進めているわ」
「そう、交流会が終わったら、すぐよ」
そう、デビュタントが終われば、大人なんだ。
「最近、シャル考えすぎじゃないかしら。いつも怒った顔してるわ」
ローラに言われてやっとわかった。私、怒っているのだ。誰に?
ローレンス殿下が可哀想でマッケンナ様が悪いって思ってる。それを認めたくなくて、わからないふりして、なんて醜い。
「ローラ、ありがとう、私、私ね」
言葉の続きは出ないで涙だけが出た。背中をさすってくれるローラは、黙って頷いてくれる。
今はまだこの気持ちを消化していなくて、なんて自分勝手なんだと涙が溢れる。
ひとしきり泣いて少しスッキリした。
「ローラ、私ね、自分勝手で相手に幸せになってと言って少しもそんなふうに思ってなかった」
「そう」
とローラは言って、ただ優しく笑ってくれた。
なんて醜い恋をしたのだろう。乙女ゲームなら選択肢があるのに、選択肢を作ることも前を向くことも、してないのに勝手に怒って、悪役令嬢が邪魔する理由が少しわかった。
少しでも前世を知る私がやるべきことは悪役令嬢にはならない。じゃなくて、今を一生懸命生きていこう、怒ったり押しつけたりじゃなく、自分をもっと保ちたいと思った。
「この土の変化面白いですね」
「ツァーリ領は酪農が盛んだから、堆肥は沢山あるからね」
泣いた後というより、自分の小ささを認めた後、私は交流会の発表に向け資料作りに精を出した。出来るだけ笑う事も心がけた。
「お嬢様、目の下の隈が薄くなりましたね」
「本当、良かった、なるべく学院でレポートまとめるようにしているの。大変だけど楽しいわ」
本当に楽しかった、みんなの意見を聞くことも調べることも他領地も知らない事が多い事も気づいた。
そんな話を久しぶりに会ったシャーリスに話し、ローラも含めて3人でお茶をした。
「シャーリスは王妃教育厳しい?」
と聞くと
「当然。今までよりも深い歴史や家名、他国の名前や人物像まで暗記するばかり。外国語もつらいわ」
「でも頑張るのですね」
とローラが微笑んで、シャーリスに聞く。
「えぇ、多くの人と会うので出来て当たり前ですからね」
「もうすっかり王太子妃の顔ね、凛々しい」
「デビュタントが終われば、大人ね。シャーリス様と呼ぶわね」
「淋しいわね」
「線引きの曖昧さは除外してみんな同じにしないとシャーリス」
と厳しくローラが言う。子供と大人明確なルールがある以上はその世界に合わせなければならないローラの言う事は正しかった。だけど
「友達だということは変わらないから」
と言えば、二人も大きく肯定してくれた。
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