第10話 物語は進み、いつの間にか巻き込まれる

初めて憧れてるアイドルとの邂逅のような体験をした。ドキドキが止まらない。お茶を飲んでも落ち着かない。気持ちは逸るもので何かに突き動かされる。冷静になれば何かおかしいとわかるのに、今は興奮が冷めず、身体を動かす為にウォーキングする。


陽はすっかり伸びて夕飯時刻にやっと夕暮れだ。充分ウォーキングして疲れた身体は精神を冷静にしてくれた。

あの興奮状態は異常じゃないかと考えるとゲームの強制力もしくはストーリーへの修正力。怖い。単純にドキドキするだけじゃなく誰かに無理矢理支配されていく感覚なのに自分では考えてもいないのに気持ちいいのが怖いのだ。

「なんだろう、これって一体」

自分で考えても分からず、今日の夕飯はあまり味もせず美味しさも感じなかった。


「元気がないね、シャル」

父様が声を掛けてくれる。顔を上げると家族みんな心配そうに私を見ている。どうしようか、話す、なんて話せばいいと自問自答してると母様がゆっくりと可愛い声で

「今日はあなたの可愛い声を聞けてないわ」

と優しい笑みで話す。


「どこから話せばいいか」

と言うと父様はゆっくり思ったことを話しなさいと言う。

呼吸を一度深く意識して話し始める。


「担任からの交流会での課題を見つける宿題が出たので今日図書室に行きました。そこで昼休みに課題分野が決められず、放課後一人で図書室に行きました。」と一息で伝えると誰かに相談したかったのかと安心出来た自分がいた。

「そこに第一王子がいました」

と告げると家族みんなの目が動き少しの緊張感でダイニングの空気が圧がかかったかのよう。その先を促されるまま話し

「余所見をしてぶつかって尻餅をついてしまったの、自分で立ち上がり謝罪の言葉を言ってすぐに図書室を出ました」

と言うと父様から

「言葉は交わしたの?」

「大丈夫かと聞かれただけです」

と答えた。セオ兄様からは

「何故、そこまで落ち込むの?」

と。ここで今の気持ちを言っていいのか、興奮状態が気味が悪い子だと思われるかなんて考えていたけど、やはりあの状態は変だ。

「変と思われるかもしれませんが、図書室を出て自宅についた後も自室にいても興奮している状態で心臓がドキドキしてました。その事しか考えられず、高揚感が気持ち良く感じられました。居ても立っても居られず、庭園でウォーキングしてしばらく経つと高揚感が疲労感に塗り替えられるように冷静になりました。自分ではない感じに怖さがきてしまって」

ここまで話すと父様は深い眉間の皺とともに重く低い声で

「今はなんともないんだな?」

と確認してきた。


きちんと目を見て肯定した。


ピリッとした空気の圧は拭えないままダイニングを後にする。自室についてゆっくり息を吐けば、家族に話したことで楽になった事に気づく。

人に話せば箇条書きのように気持ちの整理が出来ていた。


「はぁ〜、なんかいっぱいあったような入学式の日のような気持ちだけが前のめりで情報が少ないような気がする。う〜なんて日だ」

自嘲気味に独り言。


ラドルフ執務室


「どう思う?」

二人の子供に聞く。

「状態から判断すれば魅了の薬物ですか?でもどこでという疑問が残ります。あと第一王子は復学されていたのか」

とセオドリアが答える。

「第一王子は魅了の残り香などはないのですよね、しかし何故シャルが」

レオノーラも父に問う。

「薬物を拭うための治療をしたと聞く。そのための休学と醜聞なる話を噂話程度にする為の情報の閉鎖だったと聞いている」

「でもおかしいですわ。どこのお茶会でも夜会でもこの話は面白おかしく醜聞を増長させるよう話されてます。第二王子が王太子としてこの国を導く王にと望む勢力は力をつけてます」

セオドリアも

「同腹の兄弟で仲も良い、二人とも優秀だと聞いています」

と話す。

「何かしら勢力の構図はあるのだろう。シャルは明日は学校を休ませ様子を見よう。魅了の薬物を摂取したのか見極める検査薬を用意する」

とラドルフは渋面で言い

「父様、これは令嬢の魅了の薬物や婚約破棄騒動だけの事だったんでしょうか?」

3人が感じているのはもっと奥にあるこの国の未来の騒動なのではないかと深く重く執務室の扉が閉まり夜は更けていく。

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