第9話 本物に会っちゃった
春もうららか新緑の季節。
早いもので入学式の日から一カ月以上経った。まぁ何事も無く、一体何のために前世を思い出したのか?転生者としての知識もなくたまに前世で使ってたらしき言葉だけ頭に浮かぶ。
「おはようございます」
友達二人に挨拶とともに近づく。とても仲良くなったと自負してる。我が家よりも格上の侯爵令嬢シャーリス様が様づけはやめましょうと言うことにより気軽な感じになっている。
午後も授業はあるのでカフェや食堂でお昼も取っている。毎日、平和っていい。私のお隣さん攻略対象ぽい方、公爵令息でした。ヒロインがいたら、近くに来ていたかも、何かあったかもしれないと思うと早々にストーリーが破綻してよかったなんて安堵している。
「交流会が近くにあります。何を調べたいとか学年クラス問わない研究発表です。多くの生徒に参加して欲しいです。活発な意見交換ここでしか出来ない授業外のテーマで文官を目指している学生は頑張るように、期待しています。宿題として一人一題自分がなにを研究したいかを考えて提出して下さい。交流会でグループを組めなくてもそのお題が、夏季休暇の宿題になります」
と担任の教師からホームルームで発表された。
「どうします」
「何しましょうか」
など言っていたところで宿題と決められた限り、難しいのも嫌だしかといってありふれたものにすれば評価は低いだろう。ここで考えても仕方ないので昼食後図書室に行くことを決めた。
初めて入る図書室は図書館と言っていいほどに大きく蔵書の数も圧巻だった。受付にいる3名の司書らしき人に声をかけ本を取りだしたら決められたテーブルに行くことを教えられた。きちんと仕切られているテーマごとの本に何から手を出そうかと思っているうちに午後の授業の予鈴が鳴る。
「どうでした?」
と投げうつと二人はテーマというよりも分野を決めたと答える。確かにまずはそちらから決めた方が良いと放課後もう一度図書室に行くことを決める。二人は用事があるので私一人で行く事にした。明日は一緒に行けるわと言われたが、どうせなら私も分野だけでも決めときたい。明日はスムーズに本を選んで借りればいい。二人に遅れをとらないよう今日出来ることはしておくと伝えると
「遅くならないようにね」
なんて声をかけられる。私の方が背が高いのに何故か二人は私を妹キャラにしている気がする。前世を考えればだいぶ年上だと思うのに、なんか解せない。
再び本の独特な香がする中に、司書さんに使用出来るテーブル番号を聞いてから本の分野に注目する。本をキョロキョロ見て注意が散漫になっていた私は屈んで本を選んでいた人に気づかず、派手に尻餅をついた。顔をあげると逆プリン色した髪の色をした痩せた人にぶつかっていた。
「ウッ」と言って驚いたのはその人の顔をしっかり見たからだ。痩せているけど、入学式で見た第二王子によく似ていた。幸薄い美少女というよりも美女。整うというより芸術。痩せている事により色気が増すってどういうことですか、なんて悶々としていると目の前の人は手を差し出そうか躊躇している。心配ご無用とばかりスッと立ち上がりスカートを撫で祓う。
「大丈夫?」
と聞くものだから
「余所見していました。申し訳ございません」
と誠心誠意込めて謝罪する。断罪怖い。とりあえず、声がかかるまで頭は上げないと決め、その姿勢でいると
「こちらは大丈夫」
と声がかかる。すぐに踵を返して入口に戻る。そのまま司書に帰る事を告げ馬車に乗り、ガタゴトの揺れも気にならず自宅に戻る。
何もない、関係もない、もう会う事もないわかっているのにスマホで見たことがある人にあって、非日常が直に目にはいり、余りの眩しさに言葉にならないことがわかった。自室に入れば、まだドキドしている心臓がこんな大きい音で響いて私死ぬのかななんて考える。
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