第48話 8月25日 美咲ちゃん②
幸せってなんだと思う?
金持ちになることか。
有名になることか。
あるいは好きな人を手に入れることか。
であれば、幸せとは『欲望の充足』のことを言うのだろうか。
でもそれだと生生しくて、何とも可愛げがない。
だから『幸せ』と名付けて、お茶を濁すのだろう。
だとすれば、私の『幸せ』は大好きな男の子、慎ちゃん先輩に求められること。
どうしようもなく必要だって言われること。
心も身体も繋がりたい、そう思われること。
でも、待ってちょっと待って。待って待って!
聞いてない! 聞いてないって!
今まで慎ちゃん先輩に猛アタックをかけて迫ってきたけども!
今まで割とやりたい放題やらかしてきたけども!
迫られる側がこんなに怖いなんて聞いてない!
いや、恐怖とはまた違う。
大好きな慎ちゃん先輩に求められるのは当然嬉しい。嬉しすぎる。
でも、そうじゃない!
そうじゃないの!
なんていうの?! この余裕のなさ!
いざその時になったら、足がすくむの!
まだ心の準備が全然できてないの!
できてないのにグイグイくるゥゥウウ?!
目をとろーんとさせた慎ちゃん先輩がグイグイきてるゥゥゥウウ!
「慎ちゃん先輩! お、お、お、落ち着いて! 時間はたっぷりありますから! なんなら泊って行ってもいいですから!だからちょっと待――
私の必死の制止は慎ちゃん先輩の唇で塞がれた。
侵入してくる慎ちゃん先輩の舌が私の思考能力を奪う。
あー…………もうこれほとんど麻薬………………。
なんでこんなことになったのか。
慎ちゃん先輩のガバガバな計画は最初から最後まで全部、お見通しだったのに。
田代を使って何を作っているのかも、慎ちゃん先輩のスマホとPCにハッキングかけて簡単に探ることができた。
あえて慎ちゃん先輩の策略にはまったふりをして、泳がせていたのだ。
なんでそんなことをしたのかって?
そんなの決まっている
ドヤ顔の慎ちゃん先輩を拝むためである。
調子に乗ったドヤ顔慎ちゃん先輩、超ォォォオオ可愛くない?!
私は演技をしながらもドヤ顔慎ちゃん先輩を見て、本当にお股がキュンキュンしていた。
だからある意味あれは演技ではない。
慎ちゃん先輩を家に招く前、田代が作っていた
これがまぁ〜〜〜〜なってない。
はっきり言って全然なってない。
これではただの震えるパンツである。
私ならターゲットの陰部の形や位置をスキャンし、振動時に微変形し完全に陰部にフィットするような仕組みにする。
事実、慎ちゃん先輩が股間で飼っているカメさんは私のVRPチン式から一切逃れることはできなかったはずだ。
カメさんが頭をどこに振っても、即座にVRPはカメさんを捕捉する。
テキトーに消毒液でもぶっかけて慎ちゃん先輩にVRPチン式を履かせさえすれば、私の勝ちは確定したようなものだった。
そしてダメ押しの媚薬盛り。
慎ちゃん先輩は多分私のことを信用していないから、どうせ疑われるだろうなとは思っていた。
だから、あえて慎ちゃん先輩に私の犯行を目撃させたのだ。
するとどうなると思う?
すぐ調子にのる慎ちゃん先輩のことだ。
私の策略を利用して逆に罠にはめようとしてくるに決まっている。
そういう姑息なところがあるのだ慎ちゃん先輩は。
でもそこも、しゅき❤︎
それならば初めから私の方の紅茶に媚薬を盛っておけば、勝手に入れ替えて自爆してくれる。
せっせと媚薬を自分の方に持っていく慎ちゃん先輩、アホ可愛い❤︎
その結果、慎ちゃん先輩は終わらない快楽地獄に堕ちた。
もうエロ過ぎる。鼻血が垂れそうになったもん。
下からは別の液体が大分泌祭りになったもん。
全てが上手くいった。
でもそれが逆に良くなかった。
上手く行き過ぎた!
慎ちゃん先輩は愛の暴走列車と化したのだ!
慎ちゃん先輩に抱きしめられ、激しいキスに体が燃えるように熱くなる。
視界がぐわんぐわん回る。
心臓は張り裂けそうなほど、暴れ回っている。
もういっそのこと身を任せようと思ったその時。慎ちゃん先輩の唇がゆっくりと離れていった。
「み、美咲………………ちゃん」
慎ちゃん先輩は普段は理性なんて欠片も持ち合わせていない変態の癖に、今日に限っては必死に耐えていた。
あの媚薬はそれはそれはぶっ飛んだ品物である。
去勢した猫も交尾を始めるレベルのイカれた効能を誇る薬だ。
それに耐えるなんて……!
この人、普通じゃない!
慎ちゃん先輩は目を充血させながら、口をぱくぱくさせて何かを私に伝えようとしているようだった。
「な、何ですか………………?」
常軌を逸した慎ちゃん先輩の真剣な表情に、若干気圧される。
「僕は………………美咲ちゃんが……好きだ」
私は耳を疑った。
いやでも、聞き間違いではない。
はっきりと聞こえた。
私がずっと待っていた言葉。
欲しくて欲しくて、夢にまでみた言葉。
慎ちゃん先輩は「だから」とつづける。
「だが……ら…………! 媚薬の力は…………が、
慎ちゃん先輩はフーフーと鼻息荒く、今にも倒れそうなほど顔を赤らめて、しかし堂々と言い放った。
今、最後まで行っても、それは私を好きだからではなく『媚薬で興奮させられたから』になってしまう。
慎ちゃん先輩はそう言いたいのだろう。
――――好きだからしたい。
――――すべては『好き』という気持ちが始まりでありたい。
そう言ってくれているのだろう。
「……ばかだなぁ」
私は慎ちゃん先輩を力一杯抱きしめた。
慎ちゃん先輩がそこまで私を想ってくれていたことが嬉しくて、たまらなかった。
それなのに薬なんて使ってしまった自分が嫌になる。
罪悪感でいっぱいだった。
『気にしなくていいよ。全部わかってるよ』と、想いを込めてギュッと目一杯抱き締めた。
慎ちゃん先輩は今もなお耐えるように震えている。
慎ちゃん先輩の躊躇いを身体越しに直接感じ取れた。
私は慎ちゃん先輩のおでこに自分のおでこをつけて言う。
「いいよ。………………来て?」
そして、ゆっくりと慎ちゃん先輩にキスをする。
慎ちゃん先輩の口内をなぞるように深く口づけを交わす。
慎ちゃん先輩もそれに応じて、徐々に激しくなっていく。
お互いがお互いを求め合う。
怖くても、不安でも、慎ちゃん先輩となら大丈夫。
私は目を閉じて、慎ちゃん先輩を迎え入れた。
♦︎
朝日がカーテンの隙間から差し込み、それが丁度眠っている私の目を走った。
目を擦ってから、ゆっくりと開く。
いつもと同じ見慣れた天井。
でも、いつもと違う朝。
慎ちゃん先輩の匂いに包まれて、いつもと違う格別な朝を迎える。
横を見ると慎ちゃん先輩はよだれを垂らして眠っていた。可愛すぎる。
私は我慢できず、慎ちゃん先輩のほっぺとおでこ、それから鼻とあご。それぞれにキスを落とす。
「ぅぅうん.....すぴー」
それでも起きない慎ちゃん先輩。
次はどんなエッチないたずらをしてやろうか、と私が企んでいると、
「…………美咲ちゃん……。………………好………き……。」
「ぐはっ♥」
私は慎ちゃん先輩の寝言にキュン死寸前に追い込まれ、鼻血を垂れながらバフっとそのままベッドに再び倒れた。
『欲望の充足』なんて言葉では収まらない温かい気持ちに、悲しくもないのに何故か涙がこぼれそうになる。
『幸せ』とはこういうことか。あーーー…………ヤバい……!
―――――――――――――
【後書き】
いつもありがとうございます!
本話のヒロイン 山中 美咲のイラストを近況ノートに載せています。もし、良かったら見て、いいねいただけると嬉しいです!
本作にもハート、レビュー等よろしくお願いします!
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