第47話 8月25日 美咲ちゃん①

 ピンポーン


 シックな外観でありながら、少し大仰な建物。


 ここはあの有名な株式会社山中の研究所兼社長宅である。

 社長と言っても彼女は経営にはあまり関わらず、好き勝手開発をしまくっているだけだ、ともっぱらの噂である。

 彼女を知っている僕からすると、事実はほぼほぼその通りだと思う。


 分かると思うが今のは全部美咲ちゃんの話だ。

 ここは美咲ちゃんのマイホーム。

 今日はかねてからの約束を果たしにきた。宿題を教わりに来たのである。

 後輩に勉強を見てもらうなど情けない限りではあるが、美咲ちゃんは別格だ。

 普通に天才だから、高2のどの教科であっても余裕で教えられるのである。

 インターホンから声が鳴った。


「どうぞー」


 可愛らしい少し鼻にかかった甘いアニメ声。

 頭がよくて可愛くて優しい良い子。いかれた思考回路さえなければ完璧超人だったところだ。


 カチッと扉のロックが遠隔で解除される。

 家の中に入るとそこは2重扉の短い通路となっていた。

 どうやら殺菌消毒エリアのようだ。

 壁掛けのスピーカーから美咲ちゃんの声が鳴る。


「一応研究所なので、殺菌消毒お願いしまーす。一つ目の扉を開いて中に入れば自動で四方八方から消毒液が噴霧されるので」


 なるほど。


 こうした研究所では無菌を保つのは当然なのかもしれない。美咲ちゃんは確かに頭おかしい子、いわゆる『あたおか』ではあるが、この要求に不自然な点はない。

 僕は扉を開けて、殺菌ゾーンに足を踏み入れた。


 扉を閉めて噴霧を待つ。



 ………………………………







 ………………………………








 ………………………………あれ?









 来な――



 ――――ドバアアアア


 突如として四方八方から放水が行われた。

 僕はあれよあれよと放水に翻弄され、縦横無尽に飛び回る。いや、飛ばされ回る。

 放水が終わった時、僕は部屋の隅っこに白くなったジョーの如く、鎮座していた。



 あれ? おかしいな。僕は「噴霧」と聞いたのだが?

 噴出口から出てきたのは霧ではなく、ハイドロポンプだったのだが?

 そう。これである。これがあるから彼女は『あたおか』なのだ!


 スピーカーが鳴る。


「ごめんなさーい! 設定をバッファロー用に間違えてましたァー」


 バッファローが家に来る機会あるの?!

 いや、ここは研究所。ないとも言い切れないからツッコミづらい。

 僕は全身びしょ濡れのまま、殺菌エリアを出たところで、出迎えられた。

 綺麗な金髪が輝き、少し彫の深いハーフ顔だが、頬っぺたは薄ら朱に染まり柔らかそうで、幼さも残した可愛い少女。

 山中美咲、その人である。


 今ご覧いただいた通りのイカれた思考回路を持つのが最大の特徴。


「おかえりなさい、あなた❤︎ ご飯にする? お風呂にする? それともベッドわ・た・し?」


 僕は美咲ちゃんのつやつやのおでこにチョップする。

 美咲ちゃんは「あたっ」と目をバッテンにしておでこを抑えた。


「全部、『私』じゃねェェか! いや、てかびしょ濡れの僕にかける第一声がそれ?!」


「あ、お風呂をご所望で?」


「そうじゃねェんだよ!」


 再びチョップをかまそうとしたところ、美咲ちゃんが『かぷっ』と僕の指先に食らいついた。

 そして口内で僕の指を舐めまわす。


「ちょォォオオオオ?! 何してるん?! バカなの?! 死ぬの?!」


 美咲ちゃんが「まァた慎ちゃん先輩がおかしなこと言ってる」みたいな顔して苦笑いをする。

 いや、おかしなことしてるの明らかにキミだからな?!


「さ。慎ちゃん先輩。いつまでも奇行に励んでいないで、着替えてください。風邪ひきますよ?」


「美咲ちゃん。前にも言ったけど、可愛いからって何でも許されると思うなよ?」


 精いっぱいの威嚇も全く効かない。僕は促されるまま、部屋に入るしかなかった。


 美咲ちゃんに「ここで着替えてください。すべて用意してありますので」と案内された部屋はクローゼット代わりの部屋なのか、フリルの可愛らしい服やらセクシーなドレスやら、所狭しと衣類がかけられている。

 美咲ちゃんはあまり整理整頓が得意ではないようで、床には脱ぎ散らかされたシャツやズボンが無造作に放り出されていた。


 そして、丸いシックなテーブルの上に僕用とおぼしき、Tシャツにズボンにパンツ。


 ………………おいちょっと待て。なんで、男物の――というか僕が好んで履いているメーカーの――パンツ常備してんのキミ?

 疑問しかわかないんだけど。


 イカれた変態の言動にいちいち戸惑っていたら、日が暮れてしまう。

 もう僕は何も考えないようにして、おとなしく用意されたものをはいた。


 指定された部屋まで移動すると、美咲ちゃんがニコニコと天使のような笑顔で待っていた。


 ふふふ。バカめ。

 これから自分がどんな目に合うかも知らないで、まぁ。

 僕がポーカーフェイスで笑みを堪えていると美咲ちゃんが「慎ちゃん先輩、なんで口もにゅもにゅさせてるんですか?」と半笑いで聞いてくる。

 しかし僕は聞こえないフリで乗り切った。ジェームズ◯ンドも真っ青な咄嗟の判断力。我ながら惚れ惚れする。


 別に僕は何の準備もせずに、こんな魔王城のようなところに乗り込んできたわけではない。

 美咲ちゃんを欲情させ、僕を襲わせるための作戦はちゃんと考えてきたのだ。

 普通に誘惑するだけでは命がいくつあっても足りない。何せ相手はあの『あたおかクイーン美咲』なのだ。

 爆風で吹き飛ばされ、落下死することも考えられる危険な相手だ。


 そこで僕はまず美咲ちゃんの助手兼秘書兼お世話係の田代さんに接触を試みた。

 美咲ちゃんをえっちな気持ちにさせる秘密道具を作ってほしい、と。

 田代さんは快く引き受けてくれた。「自由奔放、傍若無人な社長にお灸を据えてやってください」とは田代さんの弁。


 そうして完成したのが、今美咲ちゃんが履いているパンツ。名付けて『バイブVレーションRパンツP』である。


 僕の耳の裏に設置した脳波を読み取るチップにより、僕が念じるだけで美咲ちゃんのパンツのお股部分が振動するのだ。

 チャージが必要なため、連続使用はできないが、これにより美咲ちゃんの脳内をピンク色に一色に染め上げることが可能!

 何という完ぺきな計画!

 僕は自分が恐ろしいよ。


 美咲ちゃんにVRPを装着すること自体は簡単だ。

 お世話係の田代さんが協力してくれ、今朝見事そのミッションをクリアしてくれた。ありがとう田代さん。田代さんの雪辱は僕が必ず晴らすからね!


「じゃぁ早速勉強みましょうか」


 美咲ちゃんが僕の隣に座り、教科書を開く。

 さぁバトルスタートだ!

 今日は本気になった僕を見せてやる。


 まずは社会。


 僕は真面目に美咲ちゃんの解説を聞いて、好機を待った。


「慎ちゃん先輩。ここ大事ですよ」


 そういって、美咲ちゃんが僕の前の教科書に近づくように乗り出す。美咲ちゃんのシミ一つないつるつるの綺麗な顔がすぐ近くにある。


 美咲ちゃんのエロ顔も間近で拝める絶好のポジショニング!


 よし今だ!


 僕はつらつらと解説する美咲ちゃんをガン見しながら、全力でVRPを発動した。


「その結果締結されたのが、日米の歴史的な条約、その名も――ッ?! んぁああああん♥」


「なるほど。日米は『んぁああああん♥条約』により、性的に繋がったってことか。どっちが受け?」


 美咲ちゃんは僕の質問は耳に入っておらず、お股を抑えて涙目で耐えている。


 僕がVRPを解除すると「今のはなんだったの?」といった顔で不思議そうにしていた。


 しかし、僕の進撃はまだまだ止まらない。

 今度は国語の勉強中。


「あー。慎ちゃん先輩。そこは違います。その時の幸子の気持ちは『悲しくて嫌な気持ち』ではなくて――ひゃぁ?! あああああああっ❤︎ なん······で――んぁぁああああっ❤︎」


「なるほど。幸子はそんなエッチなこと考えていたのか。けしからんな」


 美咲ちゃんはまたもピクピクしながら悶えている。







 僕のジョニーは勝利の直立を決めていた。

 VRPの効果が切れると美咲ちゃんはハァハァエロい吐息をはきながら、フラフラと立ち上がった。


「ちょ、ちょっと休憩にしましょう。今飲み物入れてきますね」


 美咲ちゃんが部屋をでる。


 これはまずいかもしれない………………きっと僕に先に手を出させるために、飲み物に媚薬を盛るつもりだ!

 美咲ちゃんは僕に睡眠薬を盛ったこともあれば、媚薬を盛ったこともある超前科者だ。

 今回も絶対に盛ってくる。モリモリに盛ってくる。


 そう確信した僕は静かに部屋を出て、美咲ちゃんの後をつけた。


 美咲ちゃんは宣言通りキッチンに行き、紅茶を入れる。


 ここまでは普通の所作。


 しかしやはりそこは安定の美咲ちゃん。


 ポケットから何やら怪しい袋を取り出し――


 盛ったァアアアアアアア!


 やっぱりな! やっぱりな! この子はそういう子である。ヤバよりのヤバな子なのである。


 美咲ちゃんが紅茶を盛ってもとい紅茶を持って、元の部屋に戻ろうとしている。僕は慌てて部屋に戻った。


「慎ちゃん先輩。お待たせしました」


 美咲ちゃんが何食わぬ顔で薬の盛られた紅茶を僕の前に置く。そして自分の側には盛られていない普通の紅茶。くっ。何という卑劣なことを!


 どうやって乗り切るかと考えていると、以外にもあっさりとチャンスが降ってくる。


「あ。砂糖忘れちゃった。ちょっと取ってきます。待っててください」


 そう言って美咲ちゃんが席を外す。


 ハハッハぁぁああああああ!

 甘い甘い甘ァァァアアアアアい!

 詰めが甘いんだよ美咲ちゃァァアアアン!


 こんな絶好のチャンス逃す手はない!


 僕は美咲ちゃんと僕のカップをそーっと入れ替えた。バカめェェェエエエエエエエ!

 ミイラ盗りがミイラになるとはこのことだ!


 美咲ちゃんは帰ってくると「慎ちゃん先輩何ニヤニヤしてんですか?」と聞いてくるが、僕は口笛を吹いて咄嗟に難を逃れた。

 さすが僕。オーシャンズイ◯ブンも裸足で逃げ出すテクニックである。


 そして何も知らない美咲ちゃんが紅茶を手に持ち、ゆっくりと傾ける。


 コクッ


 美咲ちゃんが紅茶を飲む音がやけに鮮明に聞こえた。


 そして次の瞬間


「—ッ?! なん···········でっ」


 美咲ちゃんが口を押えて、ハァハァハァハァと息を荒げながら、太ももをもじもじと擦り合わせる。美咲ちゃんは何が起こったのか分からないといった顔でお股を抑えてうずくまりながら、僕を見上げる。


 やっばい。えろい。


 僕は激しい優越感に浸りながら、美咲ちゃんを見下ろす。


 僕の勝ちだァァァアアアアア!

 僕と田代さんの恨みを思い知るがいい!

 田代さん! やったよ! 僕はやり遂げたよ! 僕たちの勝ちだ!

 僕はエア田代さんと完全勝利に乾杯し、何も盛られてない紅茶をグイッと煽った。

 一瞬、美咲ちゃんが笑った気がした。


 美味い!

 鼻を通る紅茶のいい香り。

 そして舌いっぱいに広がるザラザラとした粉薬のような舌ざわり。


 え、待って粉薬………………?


 そして、直後に激しい性欲が僕の体の内側から体を突き破る勢いで暴れまわった。


 うォォォォオオオオオオ?! なんじゃコレ?! なんっじゃコレぇえええええええ?!


 体中が熱い!


 僕のジョニーは青筋ができているのではないかと思うほどドックンドックン脈を打っていた。

 目の前の美少女。美咲ちゃんの艶やかで照りのある唇や、小ぶりな胸、柔らかそうな足に目が行き、さらにジョニーが強化される。


 僅かに残った理性をフル動員させて、なんとか堪える。ふと美咲ちゃんを見ると、さっきまで悶えていた美咲ちゃんはケロッとしており、ニヤニヤと僕を眺めていた。


 な、なにィ?!


 だが! まだだ!


 まだ僕にはVRPがある!


 くらえ!


 VRP発動!


 くそっ………………なんで……?!


 すでにチャージ済のVRPを発動したにもかかわらず、美咲ちゃんに変化はない。


 美咲ちゃんは妖艶に笑いながら、


「ああ。使ったんですか? 微細動パンツ。それの振動、何も感じないくらい弱く変えさせてもらったので、効きませんよ」


 な、なにぃぃ?!


「で、でもさっきまであんなに――


「ああ、あれ? え・ん・ぎ❤︎」


 美咲ちゃんがチロッと可愛らしい舌をだす。

 チクショーーーーー! 女の大多数がえっちの時イッたふりしているという都市伝説は本当だったのかァァァァアアアアア?!


「よーし。やられたらやり返す! チンぐり返しだぁ!」と美咲ちゃんはぐっと胸の前で両手をグーに握って、可愛らしい声でエグいことを叫ぶ。


「私のターン! ドロー! VRPチン式、発動!」



 なん…………だと………………?!



 僕のパンツのカメさんの頭周辺が振動し始めた。

 僕はあまりの刺激に腰が砕け、VRPチン式を止めようと手でカメさんを締めるが、全く効果はない。


 なんでエエェ?!

 なんで美咲ちゃんがVRPを持っているのォォオオオ?!

 媚薬で感度を爆上げしてからのVRPチン式。やることがえぐ過ぎる!

 僕に成すすべはなく、とうとうその時を迎えた。

















 無限に湧き上がる性欲と終わらない快感に僕の理性が崩落したのだ。



―――――――――――――



【後書き】

いつもありがとうございます!

本話のヒロイン 山中 美咲のイラストを近況ノートに載せています。もし、良かったら見て、いいねいただけると嬉しいです!

本作にもハート、レビュー等よろしくお願いします!


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