第41話 8月5日 ドリちゃん先輩①
僕はスマホと睨めっこしながら、自室で寝転んでいた。
スマホには連絡先アプリを開いていて、あとワンプッシュで生徒会メンバーに電話をかけられる状態になっていた。
「うーん…………どうしよう。やっぱり電話でってのは、なんか緊張するな無駄に」
僕が躊躇っていると、不意にピンポーンとチャイムの音が鳴った。
今は僕一人しか家にいないため、仕方なくドタドタと玄関に向かう。
扉を開くと、そこには――
「ごきげんよう、慎様」
このクソ暑い中でも、涼しげに笑うドリちゃん先輩がいた。
いや、無理して笑っているだけで、首元は汗をだくだくかき、ふんわりと甘酸っぱい女の子の汗の匂いが漂った。
僕は心の中で、忠犬ハチ公ならぬ忠ペニちん公に、『sit-down!』と命じた。
しかし、ちん公は反抗期なのか、全然言うことを聞かない。これでは忠ペニ失格である。
仕方ないので、僕も涼しげな顔でおっ勃ててドリちゃん先輩に応じた。
「どうしたんですか? ドリちゃん先輩」
僕が尋ねるとドリちゃん先輩は、呆れた顔を作り答えた。
「『どうしたんですか?』じゃありませんわ! この前、慎様から借りた――というか無理やり押し付けられたコンクリート用ドリルアタッチメントを返しにきたんです! 全く使わなかったですけれどね!」
何故かドリちゃん先輩はぷんぷんと少し怒っていた。
僕はすぐに原因に思い当たった。
「ドリルの型が合わなかったですか……?」
「そもそもドリルがいらないんですけれど?! 高校生の物の貸し借りで『ドリル』って聞いたことあります?! 否っ! 前代未聞ですわ!」
ドリちゃん先輩は興奮し過ぎて、いつもの口調が少し乱れ、『否っ!』とか使い出した。ヤバい傾向である。
しかし、ここでドリちゃん先輩がやってきたのは僥倖であった。
僕はドリちゃん先輩に決めた。
「ドリちゃん先輩! 僕とデートしてください」
「……………………はぃ?」
突然のことで、戸惑うドリちゃん先輩。
僕はダメ押しで必殺上目遣いを敢行する。
「ダメ…………ですか……?」
「い、いいえ! ダメなわけありませんわ! 行きます! 絶対行きますわ!」
ドリちゃん先輩は慌てて、答えた。
チョロいドリルである。
さて、そうとなれば、決めることがあった。
「じゃぁ、どこでデートしましょう? やっぱりドリちゃん先輩は工事現場がいいですか?」
「ドリルじゃねェェんだわ!
また『否っ!』が出てしまった。
そして口調が乱れまくっている。
ドリちゃん先輩相手だと延々ドリルネタで引っ張れると思ったのにとんだ思い違いであった。
気持ちを落ち着けたドリちゃん先輩は、今度は先輩の方から少し躊躇いがちに提案した。
「あの……実は行きたいところがありますの」
♦︎
「ふぅー。夏って感じィ」
独り言である。
今はドリちゃん先輩が水着に着替えるのを1人待っているところだった。
ドリちゃん先輩と訪れたのはプールと遊園地が一体となったテーマパーク。
水着のままアトラクションに乗れるので、ここではどこを見ても水着のお姉様方でいっぱいであった。
こんな肉食獣の群れにわざわざ飛び込むのは男子では僕くらいのものであろう。
じっとりと視姦するように女子を観察していると、不意に声をかけられた。
「ねーねーお兄さァん。一人〜?」
「お姉さん達と遊ばない?」
そこにいたのは金髪ギャルと黒髪ギャルであった。
なかなかの美人である。
この世界に来てからナンパなど死ぬほどされてきたので、別に驚きはしなかった。
「ドリルと来たんだよ。超極太のやつ」
お姉さん達は頭にはてなマークを浮かべて首を傾げた。
当たり前である。これで分かったらエスパーだ。
しかし、お姉さん達も諦めない。なにせ獲物は僕しかいないのだから、なかなかにしぶとく食らいつく。
「ドリルならお姉さんが買ってあげるからさァ。ね? 今ならインパクトドライバーも付けるよ?」
しつこいなー、と思いながらお姉さんのおっぱいを凝視していたその時。
後ろから水色のビキニを着たドリルがドドドドと地を掘るように駆けつけた。
「あなた方、私の慎様に何してくれてんですの? ぶち殺しますわよ?」
目がイッちゃってる。ドリルのようにグルグルとした瞳でお姉さん達を威嚇するドリちゃん先輩。
僕はいつドリちゃん先輩のものになったのだろう?
だが、まぁここを切り抜けるために僕も微力ながら力添えしよう。僕はドリちゃん先輩に加勢した。
「そうだぞ。お前ら良い加減にしないと、差し込みポートが一個増やされるぞ? エッチの時、男がま◯ことア◯ルとドリ痕のどこに挿入するのか迷っちゃうぞ?」
明らかに正常ではない瞳のドリちゃん先輩を見て、僕の言うことはまんざら嘘でもないと気付いたお姉さん達は「あ、あははは……ごめんね。お邪魔しました」と引き攣り笑いしながら去って行った。
お姉さん達が去ると、ドリちゃん先輩はバッと勢いよく振り返り、僕の両肩を掴み、心配そうな顔をした。
「慎様! 大丈夫でしたか?! どこも触られてませんか?! 舐められたりしませんでした?! 童貞は継続中ですか?!」
「やかましいわ! 悪かったな童貞で!」
実は違うけど。
でも、それも仕方のないこと。
もうほぼ同時のようなものなのだから、気にしない。
「慎様! 気をつけてくださいまし! 慎様は大変魅力的なんですから!」
ドリちゃん先輩は頬を少し染めながら、チラチラと僕の水着姿、否っ! ちん公をチラ見していた。
つい僕まで「否っ!」を使ってしまった。
だって、ドリちゃん先輩の視線があからさまなんだもの。
元の世界でおっぱいを凝視される女子の気持ちがよく分かる。
とりあえず、僕も素直な感想を口にすることにした。
「ドリちゃん先輩も水着似合ってますね! とっても可愛いです」
一瞬目を見開いたドリちゃん先輩は、頬を染めて、嬉しそうに微笑んだ。
その笑顔が美しくて、僕は見惚れて、瞬きも忘れ、ドリちゃん先輩を見つめ続けた。
そして、その光景は僕の心に強く焼き付けられるのであった。
つづく
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