第40話 何のための『シュコー』だよ!
美咲ベイダーの活躍により、顔面シリキ・ウトゥ〇ドゥ達の脅威は消し去られた。
僕は胸を撫で下ろし、美咲ちゃんに近付く。
「ありがとう美咲ちゃん! まじで助かった!」
しかし、美咲ちゃんはその場にペタンと座り込んで俯き、微動だにしない。
よく見ると若干ぷるぷると震えている。泣いているのだろうか? そこまで僕の心配をしてくれていた、ということだろう。ほんと、美咲ちゃんには頭が下がる思いだ。
僕が美咲ちゃんの肩にそっと手を置いて、再び声をかける。
「……美咲ちゃん?」
「しゅきィイイイイイィイイイイイ❤︎ ダメ! もうダメ! シュキー❤︎ 私の中のダー◯ベイダーが『もうやっちゃえ』と囁くのォォオオオオオオ❤︎ シュキー❤︎」
突然美咲ベイダーが興奮して、僕を下敷きに組み伏せた。
さっきまでの口癖だった『シュコー』は『シュキー❤︎』に進化した。
てか、何?! 痛い痛い痛い! なんで頭突きしてくんの?!
あ、違う、これ頭突きじゃない! キスだわ! キスしようとしてベイダーマスクがガツガツ僕の歯にぶつかってるだけだわ!
「ちょ待! いたたたたた痛いって! 無理だから! キスできないから! ダー◯ベイダーはキスできない設計だからァ! 親御さんも安心の全年齢設計だから!」
僕の言葉にショックを受けたらしい美咲ベイダーは両手をパーにして、ベイダーマスクの口部分を押さえる。仕草が乙女チックなんだよな、このベイダー。
美咲ちゃんは片手を額に当てて、何やらぶつぶつ呟いている。
「大丈夫落ち着くのよ美咲! 冷静に! 冷静に考えて!考えるの! 考えれば何か突破口が見えるはず! 何か抜け道が………………そうか! キスはできなくても唾液は流し込める!」
「いやホント冷静になって?!」
美咲ちゃんはゆっくりとベイダーマスクを僕に近づけてくる。
先ほどの僕を助けたヒーローのような美咲ちゃんはどこへやら。完全にダークサイドに落ちたようだ。ダークというよりはピンク寄りだが。
僕はせめてもの時間稼ぎに美咲ちゃんに口撃する。
「てか、ベイダーマスクしても変態ゾンビ化してんじゃ意味ないじゃん! 何のための『シュコー』だよ!」
すると美咲ちゃんはおもむろにベイダーマスクを外す。
トロンととろけるエメラルド色の目。
赤く染まった艶やかなほっぺ。
少しほりの深い可愛らしいハーフ顔。
光を反射して輝くブランドヘア。
マスクのせいで薄ら汗をかく額。
ほのかに香る甘酸っぱい女子の汗の匂い。
目と鼻の先の美少女は口を開く。
「冷静に考えれば、外せばいいだけでした。これただのマスクです。フェロモン遮断効果はありませんから」
「いや、マジでなんのための『シュコー』マスク?!」
美咲ちゃんの乙女の花園から洪水のように溢れ出る甘蜜によって、またがられている僕の腰付近は既に絞れるほどに湿り、レアチーズケーキのような女の子の秘密の香りが漂う。
「慎ちゃん先輩……バーチャルじゃないキスも…………してみませんか?」
美咲ちゃんはとろけた目で僕を見つめゆっくりと唇を僕に近づける。
美咲ちゃんには以前バーチャル世界で不意打ちでキスされたことはあった。
けれど、知らなかった。
真正面から迫られるキスが、こんなにも抗いがたく妖美で魅力的なものだとは。
もう…………このまま…………
美咲ちゃんの吐息が僕の口にかかる。
美咲ちゃんの静かでありながら速い呼吸音と、僕の荒い心音が重なる。
微かに甘い女の子の香りが僕を包み、その妖艶な香りの発生源はもう僕の面前に来ていた。
唇と唇の間がもうあと1m mというところにきたとき、僕の脳裏に人影がよぎった。
それは小さくて幼くて、しかし大きくて意志の強い女の子。
彼女の顔が悲しみに歪むのが見えて、
僕はハッと我にかえった。
「ちょ?! ちよちょちょ待って美咲ちゃん! ダメだって!」
僕は美咲ちゃんをどかそうと手を突き出した。
美咲ちゃんの腰辺りを押して、どかそうと思ったのだ。
しかし、僕は照準を誤り、腰よりもっと下に向けて手を突き出してしまった。
僕の手が着陸した場所は、美咲ちゃんの甘い蜜でびしょびしょのぬるぬるになっている自分の腹。
しかし、手は止まらなかった。
びしょびしょのぬるぬるになっていた僕の腹部は摩擦力0であり、ぬるぬるの地が水平線の先まで続いているのなら、僕の手は延々と止まることなく彼方まで滑っていったことであろう。
だが現実は、そうはならなかった。
僕の手はにゅるっと突き刺さって止まった。
美咲ちゃんの乙女の花園のドリームゲートに。
「ひゃんっ?!」
美咲ちゃんはビクッと反応し、
指の腹に温かい神秘の洞窟の入り口を感じた。
大丈夫! かろうじて神秘の洞窟には侵入していない! まだ入り口を撫でるように滑っただけだ!
なぜパンツを履いていないのか、については今更追求しても仕方の無いこと。今は現状を打破することに集中だ。
「慎っ! …………ちゃん……先輩っ……んくぅっ❤︎」
美咲ちゃんは『慎』だけ大きな声で叫ぶと後は震えながら噛み殺したような声を漏らす。
何かとは何か! 無論、僕の手である。
分かってるって美咲ちゃん! 抜くよ! 抜くから! 抜くってそっちの抜くじゃないよ?! それは後でだ!
そうじゃなくて、手ね! あんまり大きい声出されると指の第一関節がビクッて曲がって、神秘の洞窟にご
僕は美咲ちゃんを刺激しないように、そーっと、そーーーーっと手を動かそうとする。
少し手を引いて動かすたびに、美咲ちゃんがビクッと反応するからなかなか進まない。
でも、大丈夫だ! 落ち着け慎一! 少しずつ、少しずつだ! ゆーっくり慎重に抜けば、必ず上手くいく! やるんだ慎一! 男を見せろ!
僕はジェンガを引き抜くように慎重に手を引く。
僕はジェンガが得意だ。抜ける時には、直感的に『これはイケる!』と神の啓示があるのだ!
僕はその神の啓示を今、受け取った。
よし! イケる!
僕が一気に引き抜こうとした瞬間。
キーンコーンカーンコーン!
キーンコーンカーンコーン!
ドビクゥッ!!!!
僕の第一関節は無常にも大音量で響き渡る昼休み終了のチャイムに反応して、折れ曲がった。
もう見事なまでに折れ曲がった。
当然角度が変われば、神秘の洞窟に指先がご
侵入者を排除するトラップのごとく、やけに粘度の高い水責めトラップが発動した。
具体的に、この後、どうなったかって?
それは書かないでおこう。もう運営に怒られたくはないのだ。
ただ美咲ちゃんは気絶して、僕は指を嗅いだ。それだけだ。
しかし、酷い目にあった。
もう惚れ薬なんて危険なものに手を出すのは金輪際やめよう。
世の女子達は皆、心にシリキ・ウトゥ〇ドゥやダー◯ベイダーを抱えて生きているのだ。
それを刺激して、地獄を見るのは男子だ。
僕は、女子たちを甘くみていた。男子の諸君は法律に守られているなどと思わない方が良い。
惚れ薬でダークサイドもといピンクサイドに落ちた女子は法律など考慮しないのだ。
さあ手を振って、エロスな自分に別れを告げたまえ。
気をつけろ! エロスの誘惑にとりつかれてはならん。
二度と戻ってくるな!!
いいか?
女子達の心の
男子諸君よ、ゆめゆめ忘れるな!
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