第39話 フェイス オブ テラー
僕は浮かれていた。
ついに憧れの惚れ薬を手に入れたからだ!
いや、分かっている。分かっているとも。
僕も鈍感ラブコメ主人公ではない。僕は頭が切れ、勘が冴えわたる秀才ラブコメ主人公なのだ。
周りの女子の僕への好意は十分に分かっている。
だが、それは本当に男に向けた好意なのか?
僕は違うと思っている。
僕へ送られる好意は全てマスコットキャラに送られる好意なのではないだろうか。
考えても見てほしい。
プリ◯ュアが大好きな大きなお友達がラ◯様を見て、くる◯んを見て、コ◯コメを見て、性的に興奮するだろうか?
否! しないのである! あれらはマスコットだから!
あ、いやコ◯コメはワンチャンありそうだ、と言うのは無しにしてくれ。マジで怒られそうだから。
つまり何が言いたいのかというと、僕はマスコットではなく、男として、性的な魅力で、好意を持たれたいのである。
そうして、美咲ちゃんを騙くらかして惚れ薬を作らせたのだが…………
僕は早速後悔している。
「あ゛あ゛あ゛あ゛ァァァアアアアアア❤︎」
全力疾走で駆けながら後悔している。
「じ、じん゛い゛ぢ様ァァァアアアアアア❤︎」
いや、これ惚れるとか、そういうのじゃなくてさァ…………
「お゛お゛お゛ォォアァアアアアアアっ❤︎」
どう見てもこれゾンビですよねェェエエエエエエ?!
おいこら美咲ィィ! 話が違うぞォ! 僕が依頼したのは惚れ薬であって、決してT-ウイルスではない!
いつからアンブレ◯社になったの美咲ちゃん?!
ゾンビ化した女子は漏れなく下半身から粘度の高い液体を漏らしている。漏れなく漏らしている。
だが、そのおかげでスピードは極端に落ち、走るのが苦手な僕でも何とか逃げ切ることができていた。
僕は西へ東へ逃げ回り、結局、元いたところに戻ってきていた。
美咲ちゃんを探して、である。
もうこんなバイオ◯ザードごっこは懲り懲りだ。今すぐ惚れ薬を打ち消す薬をもらおう。
しかし、元いた場所に美咲ちゃんはいなかった。
代わりにそこには別の女子、いや新手のゾンビが2体佇んでいた。
日サロで焼いた黒い肌に、バサバサのつけまつ毛、顔面というキャンバスを厚塗りし尽くした濃いメイク、今時逆に珍しいルーズソックス。
僕は即座に踵を返し、逃げようとして止まる。
なんと、後ろからも山姥が1体よろよろとこちらに近づいて来る。
挟まれた?!
そこは長い廊下の丁度中間地点。
前か後ろにしか行き場はない。
つまり、逃げ道を完全に塞がれた、ということである。
「ぎょひ……。ぎょひひゃひゃっ❤︎ 慎ちゅゎん見ーっけっ❤︎」
「ひィィイイイイイ」
こいつらヤバすぎる! 『ぎょひひゃひゃっ❤︎』ってサイコキラーしかしない笑い方だから! 怖っ。ぇ待って。怖っ!
「あぁああああっ❤︎ ヤバいよォ❤︎ 慎たんマジでヤバすぎるよォォオオオオオオ❤︎ 慎たんの亀頭と小一時間語り合いたいよォ❤︎ タートルトークしたいよぅ❤︎」
「いや、キミらの顔面の方がヤバいから。タートルトークじゃなくて、タワーオ〇テラーだから。タワーオ〇テラーのシリキ・ウトゥ〇ドゥだから、キミらの顔面」
僕の恐怖は顔面シリキ・ウトゥ〇ドゥに襲われる恐怖の他、ネズミのお友達から訴えられる恐怖が1つ増えた。
割と本気で恐怖していると、顔面シリキ・ウトゥ〇ドゥ達が騒がしく応じる。
「ウケる~。ヤスコ言われてるよ?」
「え? まいたんのことでしょ?」
「いやいや、ウンピーに言ったんだよきっと」
顔面シリキ・ウトゥ〇ドゥのヤスコ、まいたん、ウンピーがお互いになすりつけ合う。
てか、ウンピーお前、大丈夫?! いじめられてない?! あだ名に悪意が満ち満ちている!
どうでもいいけど、『ウンピーなすりつけ』って字面が汚い!
僕がウンピーの学校生活を憐れんでいると、ウンピーが僕に近付いてきた。
「はぁはぁ❤︎ 慎たん❤︎ あたし生意気な男の子も嫌いじゃないよ?」
ウンピーのスカートの中からぴちょぴちょと液体が滴っている。
え、それゲリじゃないよね?! ウンピーのゲリピーじゃないよね?!
ウンピーはゲリピーのくせに(※ 違います)意外にも素早く、僕は逃げるまもなくウンピーに抱きしめられた。
すっげぇ香水臭い! モノホンのウンピーの臭いじゃないのはよかったが、でも臭い!
僕は必死で叫んだ。
「やめて! ウンピーやめて! さすがの僕も興奮できないからァ! ウンピーじゃ興奮できないからァァァ! お願い人間に戻って!」
「や、人間だわ! ウチをなんだと思ってんの?!」
僕はウンピーがツッコむのに集中して油断している隙に、ウンピーを突き飛ばして、走って逃げる。
どうでもいいけど、『ウンピー、ツッコむ』って字面がエグい!
「あ! 逃げた!」
「追え!」
「あ、でも、あの子、めっちゃ足遅い。これ大丈夫だ。簡単に捕まえられるわ」
顔面シリキ・ウトゥ〇ドゥ達はお股からゲリピー垂れ流し(※ 違います)のくせに、異常なスピードで簡単に僕に追いついた。
ヤスコとまいたんが、僕の両手両足を押さえ、僕は仰向けにさせられた。
そして、あろうことかウンピーが僕に跨る。
「やめてェェェエエエ! 僕便器じゃないから! 僕和式便器じゃないからァァァアアア!」
「や、誰もうんこするなんて言ってねぇし! ダイジョブダイジョブ! ちょっとエッチするだけだから❤︎ ね。先っぽだけだから❤︎」
「イヤァァァァアアア! その巻きグソのツノは先っぽだけでもイヤァァァアアアアアア! 僕に巻きグソ挿入しないでェェエ! スカトロはいやァァァアア!」
「や、先っぽって巻きグソの先っぽじゃないから!」
ウンピーが僕のワイシャツと肌着シャツを乱暴に捲り上げた。
そして、ゆっくりとピアスのついた舌を僕の胸に這わせようとする。
僕の乳首にウンピーの舌先がもうつくか、という瞬間。
ドゴッ
衝撃音がして、ヤスコが倒れた。
倒れたヤスコの横には勇ましい人影。
ダー◯ベイダーのような黒いガスマスクのようなものを装着して、シュコーシュコーと大仰な呼吸音を口頭でわざわざ声に出し、手にラバーカップ――トイレが詰まったときにギュポギュポするアレ――を持っていた。
………………………………
え、待って、誰?! 考えてみたけど、分からん! 誰?!
てかなんでラバーカップ?!
そもそもラバーカップで『ドゴッ』とは鳴らなくない? どんな殴り方してん?
すると、ダー◯ベイダーもどきが、シュコシュコ言いながら話し出す。
「慎ちゃん先輩シュコー。 無事でシュコー。良かったでシュコーす」
『良かったでシュコーす』て何?! シュコシュコ言うか喋るかどっちかになさい!
でも、話し方的に美咲ちゃんっぽい! 良かった! ようやく美咲ちゃんを見つけた!
「てめぇ! こらダー◯ベイダー! なにしてくれとんじゃァ!」
まいたんが叫びながら美咲ベイダーに殴りかかる。
しかし、美咲ベイダーは華麗にまいたんの拳をかわすと、またしてもラバーカップの重い一撃。
「ヴゥン」
美咲ちゃん、それライトセイバーじゃないから! ラバーカップだから!
いくら腹話術で『ヴゥン』言うても、全然カッコよくないから!
明らかに美咲ベイダーはふざけているのに、まいたんは美咲ベイダーの一撃に沈んだ。
「ち、ち、チクショぉぉおおおお!」
最後に残ったウンピーが美咲ベイダーに襲い掛かる。
対する美咲ベイダーは静かに佇んでいる。
いや静かではない。常にシュコシュコ言ってて、うるせぇ。
その効果音ずっと口で言ってるけど、必要ある?
美咲ベイダーは最小限の動きでウンピーの拳をかわして、ウンピーを組み伏せた。
仰向けで倒れるウンピー。
その顔に丸い影が映る。
「や……うそ? うそでしょ!? ……やめ、やめてェェエエエエエエ!」
「これで…………終わりだァァァアアアアアアシュコー」
美咲ベイダーがラバーカップをウンピーの顔面にギュッポリと押しつけ、張り付かせた。
危ないので絶対に真似しないでください、と一応言っておく。それを言えば、ウチの生徒会の奇行は全て真似しないでほしいのだが。
「んんぅ~~~~! んんぅ! んんんぅぅ〜〜〜!!」
ラバーカップを外そうともがくウンピー。
しかし、ウンピーの顔面はしっかりとラバーカップにめり込まれ、全く外れない。
美咲ベイダーはそのままウンピーを壁に叩きつける。
さすがにダー◯ベイダーを模しているだけあって、やることに容赦がない。
ウンピーは気絶したようだったが、顔面に張り付いたラバーカップが台座に刺さるマスターソードのように天に向けて、
美咲ベイダーはやはりシュコシュコ言いながら、気絶したウンピーを片足で踏みつけ、両手でおもむろにラバーカップの柄を握る。
美咲ベイダー……お前…………まさか?!
「やめろ美咲ちゃん! それだけはやめてあげてくれェェエエエエエエ!」
僕の叫びを他所に――シュコシュコ音で聞こえていないのかもだが――美咲ベイダーは非情にもラバーカップを抜き取った。
ぎゅっぽん!
ラバーカップを引き抜かれたウンピーは穏やかな顔をしていた。全てのしがらみも一緒にぎゅっぽんされたかのように安らかな顔。
安らかな……………………スッピン顔。
スッピン顔ォォ?!
ウンピーのヤマンバメイクはラバーカップが全て持って行ったのだ。
なんというラバーカップさばき! ここまでラバーカップを使いこなす人初めて見た!
ラバーカップに張り付いたウンピーのエグいツケマやアイメイクを見て僕は思わず恐怖し、叫んだ。
「シリキ・ウトゥ〇ドゥの目がぁ!」
「慎ちゃん先輩! それ言っちゃダメなやつシュコ! ネズミのお友達から訴えられちゃうシュコぉ!」
もうシュコーが語尾になっている美咲ベイダーから激しくツッコまれた。存在がボケの人にツッコまれた。なんだこれ。理不尽だ。
てか、ウンピー、お前スッピンの方が可愛いじゃん! もうずっとそれでいろ! 無駄に顔面にうんこ塗りたくるな!
何はともあれ僕の貞操の危機はひとまず脱した。
だが、この時の僕はまだ気づかなかったんだ。
ゾンビというのはどんどん増殖していく、ということに。
そして、変態ゾンビは噛まれたらではなく、僕の性フェロモンによって生み出される、ということに。
僕の貞操の危機はまだまだ終わらなかったのだ……。
つづく
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