第38話 しょれがくしゅりでしゅゥ!

 キーンコーンカーンコーンとなる昼休みの始まりを告げるチャイムを聞きながら、私は廊下に出ようとする。


「あれ? 美咲、どこ行くの? トイレ?」


 クラスメイトが詮索してくる。仮にトイレだとして、それを知って何になるというのだろう……。


「生徒会の仕事だよ」


 私は心とは裏腹に笑顔で答えてから、教室を出た。


「はぁ〜……」


 私は片手にオレンジ色の液体が入った瓶を持って、歩きながら、盛大にため息をついてしまい、周囲の人からチラリと一瞥される。


 この液体は私が作った惚れさせ薬。

 慎ちゃん先輩に色仕掛けで頼まれて、つい引き受けて作ってしまったのだが、今になって私は後悔していた。


 なんで引き受けてしまったのだろう……。

 こんなものを使えば、ただでさえモテモテの慎ちゃん先輩がメス豚ホイホイになってしまう!

 でもまぁ一応作ったには作った。作ってしまった。

 慎ちゃん先輩が喜ぶ顔見たさに、つい。

 慎ちゃん先輩の望んだ香水タイプではないが、ドリンクタイプの、飲むと性フェロモンが体中から爆散されるエロエロ兵器。


 でもやっぱりこれはやめておこう。

 慎ちゃん先輩は悲しむかもしれないけれど、慎ちゃん先輩の貞操には代えられない。


 私はそう決意すると、廊下のゴミ箱に近づき、瓶を持った手をゴミ箱の上方に持って来る。


 そして、手を放そうとした瞬間。




「あ゛ー! 暑い! おっ、それスポドリ? もーらいっ」




 いつの間に隣にいたのか、体育着姿の慎ちゃん先輩は横から瓶を掻っ攫うと、一息にゴクリと飲み干した。


「……ぇ? あ! えぇ?! なんてことしてくれてんですか慎ちゃん先輩?!」


 慎ちゃん先輩はキュポンと瓶から口を放し、『ぷはァ』と息をついてから、格好つけて空の瓶をクルクルと回しながらゴミ箱の上空に投げる。

 そして、空き瓶はゴミ箱のフチに当たって、床に落ちた。

 ゴミ箱と0距離にいて、はずすとは、さすが慎ちゃん先輩である。安定のダメっぷりだ。

 空き瓶が床に転がっているにもかかわらず、慎ちゃん先輩はまったく悪びれた様子もなく、いつものように能天気で脳みそ空っぽな顔をしている。


「なぁ〜に怒ってんだよ美咲ちゃん。今度、ジュース奢ってあげるから。ね? そんなことより、惚れ薬できた?」


 私は戦慄した。

 今飲んだばかりのフェロモン激増薬はもうその効果を発揮しつつあった。

 しかも、運が悪いことに慎ちゃん先輩は体育終わりの汗だく状態だったのだ。

 慎ちゃん先輩の汗と共に爆散される慎ちゃんフェロモン。



「あ…………あ…………あああああああああああっ❤︎」



 私は体がアルコール中毒患者のように大きく震え、熱を帯び、顔が上気する。

 そして、何もされていないのに、お股がキュンキュンと稼働し始め、収縮と弛緩を繰り返す。

 同時に豊潤な女のつゆが泉のごとく溢れ湧き、私のショーツをひたひたに濡らした。

 ただ見つめられただけでこの威力! おそるべし慎ちゃん先輩フェロモン!

 慎ちゃん先輩は不思議そうに私を見つめた後に「まぁ美咲ちゃんがおかしいのはいつものことか……」と納得した。

 こら納得するな! 震えてないから! いつもこんなに発情して震えてないから!


 慎ちゃん先輩は私の気も知らずに続ける。


「今日には完成してるって、言ってたじゃん?」


 私はお股の暴走に耐えながら、答える。


「しょ、しょ、しょ、それがしょれが薬ですゥくしゅりでしゅゥ!」


 呂律がまわらず、噛みまくってしまうが、そんなことを気にしている場合ではない。

 ヤバい! 自分を、自分の中のエロスという魔物を、押さえつけるのだ! さもなくば、慎ちゃん先輩は私にぐちゃぐちゃに犯されてしまう! 私の望む慎ちゃん先輩とのセッ◯スはそんな犯罪味を帯びたものではない!

 頑張れ理性!

 私は自分を鼓舞した。

 必死に自分の中のエロスと闘う私に慎ちゃん先輩はのうのうと言い放つ。


「え? これが惚れ薬なの? ふーん。思ってたのと違うけど……ま、いいか。どう? 美咲ちゃん僕に惚れた?」


 慎ちゃん先輩が下手くそなウインクをバチバチと飛ばしてくる。


 か、可愛いィィィイイイイイ❤︎

 両目つぶっちゃってウインクできてないところがまた可愛すぎるゥゥウウウ!

 過剰フェロモンもあってか、私の下半身がキュンキュン疼いて、ドバドバと局所的なゲリラ豪雨を降らせた。

 そして、慎ちゃん先輩の次の一言が私を恐怖のどん底に叩き落とした。










「よーし、じゃあ効果の程を確かめに行くか」





 慎ちゃん先輩。

 ああ、愛しの慎ちゃん先輩。

 大好きで死ぬほど愛していて尊敬する慎ちゃん先輩。


 でも、今だけは言わせてください。








 お前はバカか?





 その状態で女子軍に突っ込むとか、体中に蜂蜜つけてアマゾンに入るのと同じだからね?!

 そんなに死にたいの? そんなに犯され死にしたいの?


 やばい、慎ちゃん先輩はアンポンタン過ぎて、何も気付いていない!

 私が助けなきゃ!

 私がどうにかしなきゃ!



 ああ、でも、動けない……!

 私の神秘の泉は何もエロティックなことはされていないにもかかわらず、もう限界である。

 ペタンと座り込んだ私の周りは既に池のような量の溜まり蜜が出来上がっている。

 私はかすれる目で、スキップしながら地獄へ向かう慎ちゃん先輩を見送った。




 つづく


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