第37話 ホラー◯ンも裸足で逃げ出す白骨死体


【前書き】

いつもありがとうございます!

本話にも登場する山中美咲ちゃんを描いたイラストを私の近況ノートに載せました!

良かったら見ていただけるも嬉しいです!


それから、今後、1話ごとの文字数が減って、「次話へつづく」にすることが増えるかもしれません。予めご報告しておきます。


今後ともよろしくお願いします!



―――――――――――――――――――




「頼む美咲ちゃん! 僕に惚れ薬を作ってくれ!」


 生徒会活動がない日の生徒会室。

 慎ちゃん先輩が私の前で土下座している。

 正直、見慣れすぎて慎ちゃん先輩の土下座はもはや普通に座っているのと何ら変わらない。


 私に一生のお願いがあるって言うから、ついにプロポーズかと思って来てみたら、これである。

 慎ちゃん先輩を愛して止まない私を前に、こんなお願いをするなんて、怒りを禁じ得ない。

 慎ちゃん先輩の返答次第では、私は監禁も辞さないつもりである。

 私は笑顔を絶やさないよう最善の注意を払いながら、問う。


「そんなもの何に使うんですかっ?」


「ひィィィイイイイイ」


 優しく言ったつもりなのに、何故か慎ちゃん先輩は後ろに後退りながら、情けない声をあげる。可愛い。

 慎ちゃん先輩は私から離れて少し恐怖が薄れたのか、震えながらもなんとか先の質問に答える。



「いや、僕、何気にモテるじゃん? なのに、なんか扱いが雑というか……。吹き飛ばされたり、盾にされたり、爆破されたりするじゃん? それはやっぱり惚れ深度が浅いからだと思うんだよ」


 惚れ深度って何だ。謎の用語を口走る慎ちゃん先輩。

 とはいえ、慎ちゃんが挙げた例の半分くらいが私だったので、なんだか気まずくて、『惚れ深度』については指摘できる雰囲気ではなかった。


 でも、違うの! 愛ゆえなの! 愛ゆえに暴走してしまうの! 愛の暴走機関車なの!

 慎ちゃんは私の焦りに気づきもせず、続きを話す。


「だからさァ、周りに溺愛されて、常に守ってもらえるような空気拡散タイプの惚れ薬が欲しいんだよ。飲ませるタイプじゃなくて、香水タイプのやつ」


 腐っている。完全に精神が腐っている。要は『単にチヤホヤされたい』ということではないか。腐りすぎて、もはや白骨死体化している。でもしゅき❤︎



 私はとりあえず説得を試みる。


「待ってください慎ちゃん先輩! まだ間に合います! 今、踏みとどまれば白骨死体から腐った死体に戻れます!」


「何の話?! 嫌なんだけど! 僕どちらかと言えば腐った死体の方が嫌なんだけど!」


 くっ、簡単には説得されないか。

 でも私は諦めないで粘り強く続ける。


「大丈夫です大丈夫です! 腐ってると言っても納豆的なソレですから! その腐りも含めて『しゅきっ❤︎』ってなる感じですから!」


「嫌だァァァ! ネバネバしてんじゃん! にゅるにゅるしてんじゃん! 白骨死体の方がまだ清潔感あるわ!」


 頑固な慎ちゃん先輩。ネバールくんに謝って欲しい。


「でも、私は慎ちゃん先輩を心の底から愛してますよ? 愛ゆえなんです! 愛ゆえに想い人を爆破してしまうんです!」


「どんな性癖だよ?! 怖すぎるわ!」


 慎ちゃん先輩はドン引きして、さらに後退ろうとし、背中が壁にぶつかる。

 慎ちゃん先輩は逃げられないと悟り、口撃で私を撃退しようと再度口を開く。


「だいたいキミ達攻撃力強すぎない?! 僕いつも軽く吹き飛ばされるんですけど! 壁際まで吹き飛ばされるんですけど! 壁際まで吹き飛ばされてみ? 一瞬ドラゴン◯ールの世界に異世界転移したのかと思うからね?!」


「慎ちゃん先輩が軟弱なだけです」


「やかましいわ!」


 私は少しずつ慎ちゃん先輩の方に歩み寄り、ついに慎ちゃん先輩の目の前に到達した。

 もう監禁しかない。私が慎ちゃん先輩を拘束しようとした瞬間。

 慎ちゃん先輩がボソッと呟く。


「……仕方ない。最後の手段だ」


 慎ちゃん先輩の目の色が変わる。

 あれは覚悟を決めた者の目だ! こうなった者を相手取るのはやっかいだ! 私は警戒度を上げる。


 しかし、慎ちゃん先輩はあっけなく私の警戒網を潜り抜けて来た。

 なんといきなり立ち上がった慎ちゃん先輩は、私を強く抱きしめた。

 ぎゅ〜っと力強くハグされている。

 慎ちゃん先輩の匂いに包まれ、慎ちゃん先輩はか弱い男子なのに、まるで私を包み込んで守ってくれているかのような包容力。

 私は突然の度を越した幸福に身動きが取れず、ただ鼻血だけが静かに垂れる。


「美咲ちゃん。君だけが頼りなんだよ。周りの攻撃性を除去できる程度の惚れ薬でいい。お願い……作って?」


 耳元で慎ちゃん先輩が愛を囁くように、精神の腐ったお願いを囁く。

 耳に慎ちゃんの息がかかり、ゾクゾクする。


 この時点で私に断るという選択肢は、消え去っていた。アホの子に見せかけた策士。慎ちゃん先輩……恐ろしい子……。


「わ、わ、わ、分かりました……」


 私は依頼を請け負った。



「マジで?! ありがとう! 美咲ちゃん大好きっ! じゃァよろしくね!」


 慎ちゃん先輩は速攻でハグを解除し、私を一人生徒会室に置いて、帰宅した。安定の腐った死体、いや、白骨死体である。ホラー◯ンもびっくりの白骨具合である。

 私はパンツが冷たくて気持ち悪かったので、ノーパンで帰宅した。



つづく


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