第36話 最強の刺客 後編

 


「会長ー、この書類ちゃんとつづってくださいよー。どんどん散らかっていくー」


 僕が会長に文句を言うと、会長は頭をかきながら言った。


「ごーめん、ごめん。一回綴ったんだけどさァ。庶務のドリちゃんにやらせようって思い至って、もう一回ファイルから外したの忘れてた」


「一回綴ったなら、はずさないでくださる?!」


 ドリちゃんのツッコみがスルーされ、ドリちゃんがしぶしぶファイル整理をする。


「あ、僕もこのホワイトボードマーカー、ついくせで自分で買ってきちゃったんですけど、よくよく考えればドリちゃん先輩の仕事でした! ちょっと返品してきます」


「わざわざ?! いいですから! 買ったなら買ったでいいですからぁ!」


 ドリちゃん先輩はガタッと椅子を引いて立ち上がる僕の肩を掴んで無理やり座らせた。


「しかし、今日は美咲遅いなァ」と薫先輩が呟く。


「いつもは美咲が1番に来るのにね。『慎ちゃん先輩成分んゥゥウウ❤︎』言いながら」


 今日は美咲ちゃんを除いて、全員が既に集まっていた。


「なんか友達の相談に乗ってあげてるらしいですよ? さっきLINE来ました」


「へぇ、美咲、ああ見えて、意外に友達思いなんだな」


 薫先輩の言う通り、普段なら「そんなことどうでもいいです」とか一蹴しそうなものなのに。

 よっぽど大事な友達なのだろう。

 僕は普段から変態だ変態だと思っていた美咲ちゃんの人情味溢れる行動に少し美咲ちゃんを見直していた。




 その時である。


 ガララっと勢い良く生徒会室の扉が開いた。






 そこには、バスタオル一枚まとったあられもない姿の美咲ちゃんが顔を真っ赤にして立っていた。







 変態ィィイイイイィィイイイイ!!

 見直した瞬間、裏切ってきたよ! 変わることのないただ一つの変態だよ! ありがとうございます!



 ただ美咲ちゃんは、何やら切羽詰まった顔をしている。

 少なくとも、その華奢で艶々で薄ら赤みがかった赤ちゃん肌を見せつけたくて、こんな奇行に走っている訳ではなさそうだ。


 僕が美咲ちゃんのあられもない姿を目に焼き付けようとガン見していると、美咲ちゃんが口を開く。


「はぁはぁはぁ、し、慎ちゃん先輩! 逃げてぇぇえええ――



「――どいて! 慎たん先輩を犯せない!」



 美咲ちゃんが叫び終わるか否かのタイミングで、木刀を持った斎藤 はじめちゃんが、美咲ちゃんを押しのけて、生徒会室に入室する。

 僕は美咲ちゃんのバスタオルが捲れるのを期待して、美咲ちゃんを目で追ったが、生徒会室の外へフレームアウトしてしまった。がっかりである。美咲ちゃん、君にはがっかりだよ!


 入室したハジメちゃんは、なんか顔が上気し、いや、蒸気し、目がイッちゃってる。

 一目で、『あ、これヤバいわ。貞操の危機だわ』と分かる顔をしている。

 え、待って。なんで?



 美咲ちゃんが生徒会室前の廊下から、顔だけ出して、説明する。


「気をつけてください! 今のうららは酔っ払ってます! 気を抜くと、木刀で服を切り刻まれますよ!」


 どういうこと?! え、待って。どういうこと?! 説明するならちゃんと説明して?!

 どうして木刀で服が切れる? 明らかにおかしいだろ! 『達人だから』ってだけで乗り切れると思うな?!


「ははは、バカ言っちゃいけないよォ〜。そんな木刀で制服が切れるわけな――ひぎゃァァアア!」




 ハジメちゃんが木刀を滑らかに振るうと、木製であるはずの獲物から閃光が放たれたかのように錯覚するほど、美しい軌跡を描いた。

 そして、人を小馬鹿にするような顔で前に歩み出た会長は、最後までセリフを言い終えることなく、全裸と化し、体を前屈みに縮めて、おっぱいとお股を手で隠す。



 ちっ! こっちからだと、形の良い小さなお尻しか見えない! こっち向け会長!

 僕はとりあえずスマホのカメラでシャッターをきった。


「ちょォォ?! 慎ちゃん何どさくさに紛れて撮ってんのォォ?!」



 顔だけこちらにむけてわめく会長に美咲ちゃんが丸めたバスタオルを投げ渡す。

 美咲ちゃん、何枚バスタオル常備してんだよ! 余計なことすんなよ!


 てか、ハジメちゃんパネェ! マジで木刀で制服切ってんじゃん! 天翔龍閃より高威力なんじゃね?!


 状態異常『バスタオル巻き』になってしまった会長はリタイアだ。

 僕を守る変態ナイトはあと3人!


「慎ちゃんは私が守るっ!」


 桃山が薫先輩のバッグから、電マを取り出して、構える。


「なんっでお前はいつもいつも私の電マ使うんだ!? お前が電マを敵の体液で汚す度に買い替えてんだからな?!」


 薫先輩が両手を広げて悲痛の表情で訴えかけている。まるで審判に抗議するサッカー選手のようだ。

 しかし、桃山は抗議を無視して、ハジメちゃんに向けて突き進む。


 電マを振りかざし、ハジメちゃんのお股を狙う。


「ああ〜っと! 桃山選手ぅ〜! 大技『処女の窪み 〜きょうの電マを添えて〜』を狙っているようだァァアア!」


 会長が全裸にされてやる事がないからって、実況解説を始める。

 会長。真面目にやってください。僕の貞操の危機です。


 しかし、ハジメちゃんはやはり強かった。

 桃山の電マを持つ手に小手こてをした。


っ!」


 桃山が電マを落とす。



 すかさずハジメちゃんが電マを拾い、桃山のスカート内に素早く差し込み、大技『処女の窪み 〜きょうの電マを添えて〜』を炸裂させた!



「んァァァアアアアアアアっ❤︎」



 盛大に自爆する桃山。

 僕は少し勃起した。




 僕の変態ナイトはあと2人。



「ドリちゃん先輩! アレです! アレを使う時です!」


 美咲ちゃんが出入り口付近からドリちゃん先輩に叫ぶ。


「えぇ?! アレ?! アレやるんですの?! 〜〜〜〜っ! もうぅぅぅ〜! 致し方ないですわ!」



 なんだ? 何か隠し球があるというのか?


 ドリちゃん先輩がどこからか取り出したのは、手に装着するアタッチメントのようなものだった。

 それはドリルの形状をしているが、ただのドリルではない。

 ドン引きである。ドン引きドリルである。

 なぜなら、ドリルの先端にディルドがついているからだ。

 ディルドとは、男性器の形をした大人のおもちゃである。主に女性がオナニーに使うもの。

 ドリちゃんは両手にディルドリルを装着すると、ディルドが超高速で回転しだした。




「――って、なんて物、装着してんだァァアア! 変態! 変態ドリルぅぅうう!」


 僕は無意識のうちに叫んでいた。

 それを受け、ドリちゃんが涙目で反論する。



「だってだってだってェェ! 仕方ないじゃありませんかァ! 美咲が! 美咲が目を輝かせて、『これ、ドリちゃん先輩のために作ったんですっ。喜んでくれると……いいんですけど……』ってためらいがちに渡して来たんですのよ?! 断れます?! 否っ! 私には無理ですゥ!」


 あざとい。

 僕も似たような手法で、睡眠薬入りカップケーキ食わされたことがあるだけに、これ以上ドリちゃんを責められなかった。



 ドリちゃん先輩がディルドリルを振りかぶる。

 超高速回転をするディルドをハジメちゃんのお股にぶっさす気だ。手に装着しているから、先程のような小手は通用しない。

 僕は鬼気迫るドリちゃん先輩の様子を見ていたら、段々とドリちゃん先輩がゴジラの敵怪獣メガロに見えて来た。いや、メガロはあんな卑猥な物を超高速回転させたりはしないが。



「ふふふふふ! 貴女の負けですわ! ディルドリルの快楽に溺れなさいっ!」


 ドリちゃん先輩が勝ちを確信して調子こく。

 イヤイヤなふりして何気にノリノリじゃねーか、あのドリル!


 しかし、そこはハジメちゃん。やはり分かっている。

 ドリちゃん先輩を、『相手にする価値もない存在』と即座に判断を下し、ドリちゃん先輩を無視して通り抜け、僕に向かって直進する。



「無視ですのォォオオオ?! 一番恥ずかしい! 一番恥ずかしいから、無視だけは! 無視だけはやめてくださるゥゥウウ?!」



 ドリちゃん先輩の悲痛な叫びもやはり無視して、ハジメちゃんは猪突猛進、突き進む。



 僕の変態ナイトもいよいよあと一人、薫先輩だけになった。


 薫先輩はどこから持ち出したのか、さやに収まった真剣のような獲物を持っていた。


「……手合わせ…………願おうか」


 薫先輩が不敵に笑う。


 か、カッコいい! これだよ! これがナイトだよ! 電マとかディルドとか、それ性具だから! 武具じゃないから!

 僕は薫先輩の持つ黒く輝く剣をまじまじと見る。



 鞘から抜いたら危ないだろうけど、鞘のままでも十分強そうである。

 先端から艶やかな黒でこしらえられ、つばは金色に輝き、何かの紋様のように中が切り抜かれている。

 そして、重厚な網目のような模様のつか

 カッコいい! 全てが完璧である!








 極め付けは、柄の先端、柄頭のディルド!














 ……………………





 ディルドぉぉぉぉおおおおお!?

 またディルド?! なんでディルド?!

 最高にカッコいいフォルムに、ディルドをブレンドしてんじゃねェェェエエエエア!



「このチンポコ丸のさびにしてくれよう」



 薫先輩は、悪役がナイフを舐めるが如く、チンポコ丸ディルドの刀のディルドを舐める。


「台無しだから! いろいろ台無しだから! チンポコ丸ってなんだよ?! なに戦闘中にディルドでオーラルの練習してん?! バカなの?!」



 そんな僕のツッコミも当然のようにスルーされ、真剣勝負が始まろうとしていた。


 勝負は一瞬であった。

 一瞬、線が走ったと思ったら、ハジメちゃんの木刀はもう振り抜かれていた。

 そして、切断され、宙を舞うディルド。


「チ、チンポコ丸ゥゥウウゥゥウウ!」


 薫先輩が刀を投げ出し、チンポコ丸、否、切り捨てられたディルドを追いかけた。

 それを見た僕のチンポコ丸は恐怖で縮んだ。



 僕の変態ナイトは全滅した。

 ハジメちゃんがヨダレを垂らしながら、ヤバい顔で僕との間合いをつめる。





 ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!

 どうする?! 僕には武器も何もない!

 どう対抗する?!

 こんな弱い僕にできることなんてあるのか?!



 僕はパニックに陥りながらも、迫り来るハジメちゃんを見て、逆に冷静になった。


 いや、ある!

 たった一つだけ、僕にも、弱い僕にも出来ることがある!


 だが、そのためには武器が必要だ。

 何か、何かないか?!

 棒状のものならなんでもいい! 電マでも、ディルドでもなんでもいい!

 辺りを見渡すが、近くには電マもディルドもない。


 くそっ、ここまでか……。

 僕が諦めかけた瞬間、バスタオルを巻いていた会長が手を滑らせて、バスタオルが落ちた。


 会長は「あわわわわ!」と顔を真っ赤にして、急いでバスタオルで再度胸と股を隠す。

 だが、僕はばっちりとそれを瞳におさめた。













 会長の豊かなおっぱいとその先端。















 会長の浅めの黒いジャングルとその深淵。
















 そして僕は武器を見つけた。


















 ははは……、なんて事はない。












 初めからあったんだ。武器はここに……あったんだ……。僕と共に。














 僕は闘気で出た鼻血――そう、これは闘気で出たのだ! 決して不埒な鼻血などではない! ――を乱暴に袖で拭いて、迫り来るハジメちゃんを見据える。










「いいぜ。見せてやる。ハジメちゃんが種を植え、僕たちが育て上げたこの技を!」







 薫先輩が床を這いながら、ハジメちゃんの足首を掴む。

 ハジメちゃんはガクっと一瞬動きを止められ、前に倒れるように頭の高度が下がった。





 ナイスです薫先輩っ!

 やっぱり貴女は紛れもなく僕の変態ナイトですよ……!




 僕はこの絶好のチャンスを逃すまいと、武器を引き、ハジメちゃんに照準を合わせる。








「な?! まさか?! 慎たん先輩?! 嘘嘘嘘?! 嘘ですよねェェ?! やめて……やめてェェェエエエ!!!」







 くらえ……。

 僕の…………。

 僕たちの…………。


 とっておきを!!!






牙突がとつ エロ式!」





 会長の全裸のお陰で硬度MAXになった僕のチンポコ丸がハジメちゃんを穿うがつ!


 だが、ハジメちゃんはやはり百戦錬磨の剛の者である。この状況でもまだ諦めない。

 僕は当然、口を目掛けてチンポコ丸を放ったが、ハジメちゃんは僕のチンポコ丸をおでこで受けようとした!


 口に直接チンポコ丸を放り込まれては、あまりの興奮で鼻血と気絶は免れないが、おでこならギリ鼻血どまりでワンチャンあると考えたのだろう。


 つまり、僕のチンポコ丸とハジメちゃんの反応速度、どちらがより速いかの勝負になる!





「うォォォォオオオオオオオオオ!」





 僕はハジメちゃんの口に僕のチンポコ丸をぶち込むことしか考えていなかった!

 無我の境地である!




「くっ!」


 ハジメちゃんがそれに抗う。








「いっけェェェエエエエエエ!」


 僕の気合いが生徒会室中に響く。
















「…………………………」




「…………………………」





 ドサッ





 ハジメちゃんが大量の鼻血を吹き出しながら、幸せそうな顔で倒れた。

 もはや殺人事件現場にしか見えない血の量である。





 ふぅ……なんとか倒せたか……。

 やはりハジメちゃんは速かった。

 結果、僕の狙いであったハジメちゃんの口には、チンポコ丸をぶち込むことはできなかった。



 だが、おでこでもなかった。


 その中間、鼻だったのだ!

 鼻に僕の牙突エロ式が炸裂したのだ!


 幸運だったのは、会長の全裸がエロ過ぎて、僕が少しカウパー腺液、通称『我慢汁』を放出していたことだ!


 これにより、濃厚な性の匂いにハジメちゃんの脳内にダイレクトアタックをかます結果になったのだ。

 鼻に直接突き付けたのだから、その威力たるや想像に余りある。





 だが、今回はなんとか倒せたが、次回があれば、確実に生徒会が全滅し、僕の貞操は食い尽くされるであろう……。

 この剣道部エースなんなん? 完全にバーサーカーじゃん! キラーマシーンじゃん! オルゴデミーラじゃん!



 ヤバいと定評のある生徒会がことごとくやられるって、どういうことよ?!





 ヤバい! この子ヤバすぎる!


 我が校の剣道部エースの戦闘力マジでヤバい!

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