第34話 ダメ、絶対! 青少年保護育成条例違反
「いや、あがっていいとは言ったが、泊まっていいとは言ってないのだが……」
ほとんど諦めの境地で僕はつぶやいた。
「美咲、醤油取ってー」
「えぇ?! 天ぷらに醤油?! 会長正気ですか?! 塩でしょ普通!」
「はい、天ぷらにわか乙ー」
「うっま! ドリ美! これ美味いな!」
「でしょう? だから言ったではありませんか料理は得意だと。あとドリ美ではありませんわ」
「こらこら、会長と美咲! ケンカしないの! 間をとってケチャップでいいでしょ、もう」
「1番ないわ!」
「遥香先輩、大丈夫ですか? 良い精神科病院、紹介しましょうか? 美咲、心配です」
僕の呟きに誰一人として耳を貸すことはなく、会長の家の執事が持ってきたパジャマを着た生徒会メンバーがワイワイと食卓を囲んでいた。
そして僕の隣から物騒な別の呟きが聞こえる。
「くそくそくそくそ! せっかく慎一お兄ちゃんと二人きりだったのに! 慎一お兄ちゃんのアレもらうつもりだったのに!」
殺気のこもった目で天ぷらを乱暴に齧りながら、ぶつぶつ呟く早苗ちゃん。もはや12才の女の子がしていい顔ではない。
「ふんっ。ガキンチョの分際で慎ちゃんに手を出そうとするのが間違ってるんだよ! そもそもロリ担当は私だけで十分なんだよ!」
会長が海老の天ぷらを咥えながらドヤ顔で言い放つ。
「会長、言ってて悲しくなりませんか?」
なんでこのちびっ子はロリキャラであることに誇りを感じ始めてるの?
「慎ちゃん? 小学生は犯罪だよ? その点、私は合法ロリだから。しかも今日は安全日だから、ダブルの意味で超安心!」
おい誰かこの変態ロリを黙らせろ。この人がいる限り、安心できねー。
ワイワイガヤガヤ、いつもの数倍賑やかな食卓が続いた。
その後は何事もなく、UNOしたり、桃鉄したりで遊び尽くし、午前0時になり、就寝する流れになった。
僕は自室に戻る。
女子は相互監視のため、大部屋客間に布団を敷いて、全員が一緒に寝ることになっている。
先程までの賑やかな空気から一転して、部屋の中が静まりかえっている。
流石にお互いに監視し合っている中、僕を襲いには来られないだろう。
だから、そう。
今日は平和で穏やかな夜に…………
ならなァァアアい!
はははははははははァァ!
飛んで火に入る夏の虫とはこの事だ!
こんなにも美少女が無防備でいるのに僕が大人しくしているとでも?
取ってやる! 取ってやるぞ! おパンツを取ってやるぞォォ!
今宵はおパンツ祭りじゃァァアア!
おパンツの何が良いって、暴走しないことだよな!
おパンツは生徒会メンバーみたいに無茶苦茶して、暴れ回って、好き放題しない。僕を困らせない。
ただそこに静かに佇み、性の芳香を放ち、僕を癒し続けるだけだ。素晴らしい! 人類には過ぎたオーパーツである! いや、オーパンツである!
命をかけるだけの価値はある!
頑張れ慎一! 負けるな慎一! そこにパンツがある限り!
僕は自分を鼓舞して立ち上がった。
そろそろ皆寝静まった頃だろう。
僕は自室を出て、トイレを済ませてから、女子の部屋に向かう。
扉を静かに開き、
入室した瞬間、女子の甘い匂いが鼻腔をくすぐる。
「んん〜、この芳醇な香り。トロピカルな濃厚さでありながら、さわやかで清純な乙女を連想させますね〜ハイ」
はっ! 興奮しすぎて、つい嗅ぎレポしてしまった! 今ので女子を起こしたらマズイ!
僕は慌てて伏せた。
「…………………………」
ふぅ。危なかった! どうやら誰も起きなかったようだ。
というか…………
「誰もいない……? のか?」
シーンと静まり返り、寝息や服が擦れる音も一切しない。
僕が立ち上がった瞬間、部屋の外から声が聞こえてきた。
「いません! 部屋に誰もいません! ターゲット消失!」
「な?! なんで?! 慎ちゃんどこに行ったと言うの?!」
「まさか、すでに早苗に……?!」
「いや、それはあり得ません! 対策は取ったはずです!」
「とにかくもう一回、早苗を確認してみよう!」
声が途絶えると同時に、ドタドタドタと複数の走る足音がこちらに向かってきた。
ヤバいヤバいヤバいヤバい!
このままだと女子部屋に潜入したことがバレる!
僕は咄嗟に1番端っこの布団の上を、華麗に転がり、掛け布団を被さって隠れた。
転がった時に「んぎっ!」と聞こえた気がしたが、気のせいであろう。
『ガチャっ』と扉が開き、一直線に僕の方に全員がかけてきた。
やばばばばばばばァァアア!
なんで?! なんでここだってバレた?!
しかし、会長たちは僕のすぐ隣の布団をぺらっとまくるだけで、僕はギリギリ見つからなかった。
「早苗、拘束、解かれていません! 白です!」
「やはり早苗ではない。でも、それじゃァ慎ちゃんはどこへ……?」
「とりあえずもう一度家中探してみないか?」
「そうだね。総員散開して、捜索を開始して!」
ドタドタドタ
ガチャっ……パタン
ふぅ〜。危なかったァ。
なんとかバレずに済んだ。
バレずに済んだのはいいけど……。
「なんで、早苗ちゃん拘束されてんの? デスノのミサミサみたいになってるやん」
「ん〜! ん〜!」
ガムテープで口を塞がれた早苗ちゃんが何やらうめいて訴えかけている。
あいつら小学生になんてことするんだ……。トラウマものだぞ。
慎重にガムテープを剥がしてあげる。
「ぷはっ! あんのクソババァ共ォォ! ぶっ殺す! まじぶっ殺す!」
おおぅ……。トラウマにはなっていないが、めっちゃブチギレてる! こわい!
「それに引き換え、慎一お兄ちゃんマジ天使! まじプリンス! 私を助けに来てくれたんだよねっ? ありがとう! 愛してる! んぅ〜っ❤︎」
早苗ちゃんが唇を突き出してキスしようとしてくる。
ブチギレ顔から急に猫撫で声になるの怖すぎる。
僕はポケットから芸人トレーディングカードの江頭3:50を取り出し、早苗ちゃんの唇に押し付けた。
「がっぺェェェエエエ?!」
早苗ちゃんは両手が拘束されていながらも、江頭みたいな奇声をあげて、江頭カードを取り払った。
早苗ちゃんのリアクションが異常に良くて、なんか面白い!
「何すんの?! 江頭口に入れないでくれる?! 江頭、筒状にして、口に差し込まないでくれる?!」
「キスするならやっぱ江頭が先かなぁって。人生の先輩だし」
「江頭に忖度しないでいいから!」
「ところで、なんで早苗ちゃんは紐で縛られてんの? レズSMプレイ?」
だとしたら、犯人は薫先輩しかいない。
「違うから! 聞いてよ慎一お兄ちゃん! ひどいんだよ? あたしはただ慎一お兄ちゃんの童貞をもらいに行こうとしただけなのに、なんかいきなりあのオバさん達が紐で縛ってきたの!」
今まで気付かないフリを続けてきたが、もうダメだ。この子、生徒会メンバーと同じにおいがする! 要するにヤバいやつである。
ここは逃げ一択だな。
「じゃあ僕忙しいから! ゆっくり休んでね! おやすみ!」
「ちょォォオオ! 何立ち去ろうとしてんの?! この状況で置いてかないでェェ! 叫ぶよ?! 皆を呼ぶよ?!」
僕が立ち去るよりも早く、早苗ちゃんは逃がさんとばかりに両足で僕の胴を挟み込む。
「ちょ早苗ちゃん?! てか早苗ちゃんズボンは?!」
「寝るときはパンツにTシャツ派っ❤︎」
オォォオオオオオオイ! 当たってるよ! なんか手の甲に柔らかくてちょっと湿ってる何かが当たってるよォォオオオ!
「んんぅっ❤︎ 慎一お兄ちゃん、あんまり動くと、あたし……ん」
オォォオオオオオオイ! 何色っぽい声出してる
12歳ィィイイイイ?!
気のせい? 手の甲に当たってる何かの湿度が上がってるのは気のせい?!
「ばか! 早く離せ! 僕を犯罪者にする気か!」
「前科者でもあたしは気にしないよ?」
「僕が気にするわ!」
前科つくとしても『青少年保護育成条例違反』だけは嫌だわ!
僕が足を取り払おうと暴れるが、ガッチリホールドされ、全く取れる気配がない。ホントに12歳かよ?! すでに僕よりパワフルなんじゃないか?!
すると突然、早苗ちゃんが呟く。
「あ、なんかオシッコしたくなってきちゃった……」
ノォォォオオオおお?! やめて!? 青少年保護育成条例違反だけでも罪深いのに、より高度な変態プレイしようとするのやめて?!
「ちょちょちょ! 待て待て待て! まじ離せ、まじで離せ! 股に僕を挟んだままモジモジ動くな!」
「慎一お兄ちゃんのせいだよ? 変な触り方するから……もうえっち❤︎」
「触っとらんわ! 分かった! 分かったから! 外すから! 拘束はずすから! だから一旦ホールドはずして!」
僕はなんとか早苗ちゃんの説得に成功し、早苗ちゃんのだいしゅきホールドから解放された。
そして、約束は約束なので、早苗ちゃんの拘束も解いてやる。
さて、ではオーパンツ探しを再開するか。
でも流石に早苗ちゃんの前で女子の荷物を漁るわけにはいかない。
僕は早苗ちゃんがトイレに行くのをじっと待つ。
「……………………」
「……………………」
ん?
「……………………………………」
「…………………………慎一お兄ちゃん❤︎」
何を思ったのか紅潮した顔で『ぴとっ』と僕の肩に頭を乗せ、くっついてくる早苗ちゃん。
いや、イチャイチャしてる場合か!
「あのォ、早苗さん? トイレは?」
「ああ、アレ? 嘘だよ」
ちくしょオォォオオオオオオ! 狡猾かよ!
僕は人差し指と中指で早苗ちゃんに鼻フックをかまして、早苗ちゃんを引き離す。
「んぎィァ! ちょ!
パンツが得られないなら、もうこんなリオレ◯スの巣のような場所に用はない! 脱出だ!
とは、言え、この家の中も彷徨う変態が
もうこうなったら、家から脱出して、漫画喫茶とかで夜を明かすしかない!
僕はRPGとかでストーリー上絶対にパーティから外せないキャラのような早苗ちゃんを引き連れ、女子部屋から出た。
僕の家は何気に広いから、上手くやれば誰にも遭遇せずに玄関まで辿り着けるはず!
手を握ろうとしてきたり、おぶさろうとしてきたり、めちゃくちゃ邪魔な早苗ちゃんをいなしつつ、僕は慎重に進んだ。
そして、ついに玄関にたどり着く。
「着いた……! てか早苗ちゃん、重いから首にしがみつくのやめて!」
「レディに重いなんて言っちゃダメだよ!」
僕は早苗ちゃんを無視して、ドアノブを回して、押す。
ガコン
扉は何故か開かない。
早苗ちゃんがつぶやく。
「『今は開かない。反対側から鍵がかけられているようだ』」
「ホラーゲームみたいなナレーションやめて?! え、てかなんで開かないの?!」
ガチャガチャと何度も押すがやはり開かない。
こっちが内側なんですけど?! 鍵全部開いてるんですけどォォ?!
「あのイカれたオバさん達が細工したんじゃない?」
あり得るゥゥウウ! 美咲ちゃんあたりがしたり顔してるのが目に浮かぶゥゥウウ!
人ん家の扉、無断で改造すんなよ!
その時、玄関前の廊下の奥の曲がり角から、ゾンビのように前に突き出した手だけが、現れた。体はまだ壁に隠れて見えない。そして、何やら怪しげな呟きが聞こえる。
「…………して……。もう……こ…………して」
怖ェエエエ! 『殺して』ゆうとるゥゥウウ!
人体実験の末に怪物になってしまった悲しき少女みたいなのがいるゥゥウウ!
謎のゾンビがバッと姿を現すと同時に、今度ははっきりと聞こえた。
「結婚して……。もう……結婚…………してェエエエェエエエ!!!」
血走った目の会長が手を突き出して、叫びながら全力疾走して近づいて来る。
「いや、どちらにしても怖ェエエエわ!」
僕はガチャガチャガチャと狂ったように扉を開けようとするがやっぱり開かない。
ひィィイイイイ! 結婚させられるゥゥウウ!
「結婚なんて、絶対させない!」
早苗ちゃんが僕を庇うように立ち塞がり、会長に向かって、
だが、やはり小学生は小学生。高校3年の熟練した変態には敵わない。
早苗ちゃんは、会長の小さくて細い人差し指と中指で鼻フックされ、叫びながら吹き飛んだ。
「がっぺムカつくゥゥウウ!」
なんで江頭!? 早苗ちゃんに江頭が憑依して離れない! 僕が口に江頭差し込んだせい?! 責任を感じてしまう!
会長が僕の前に立つ。
「結婚…………結婚…………じで……げっごん゛……」
こっわ! 目はとろんとして頬が紅潮していて、顔は可愛いのに、セリフこっわ! 完全にイッちゃってる!
僕が何度目になるか分からないドアノブガチャガチャをしていると、不意に扉が開いた。
僕は考えるよりも早く体が動く。
早く! 早く逃げなきゃ!
扉をくぐろうとして、綺麗な黒髪ミディアムの背の高い女性のおっぱいにぶつかり、弾力で跳ね飛ばされ、尻餅をついた。
会長は突然の来訪者に絶句している。
「……………………結婚……」
いや、絶句してなかった! 何気に結婚は諦めていないご様子! この状況で、すごいな! すごい胆力である。
早苗ちゃんはその人を見て、顔を青くして震えあがる。
「な、なんで……?! 今日は……帰って来ないはず……」
その人は冷たく、しかし怒りに満ちた目で、会長と早苗ちゃんを見下ろす。
殺気が半端ない。僕は生徒会メンバーと早苗ちゃんの破滅を確信した。
正直、安心半分、恐怖半分といったところであったが、とりあえず、これだけは言っておこうと僕は口を開く。
「…………おかえり、姉ちゃん」
「うん。ただいま慎ちゃん。お姉ちゃんの知らぬ間に、ゴキブリがこんなにわいていたのね。1、2、まだいるね。6匹……ってとこかな。今駆除するね。慎ちゃんは寝室行って、もう寝なさい?」
だが、僕にはもうどうしてやることもできない。無力な僕を許してくれ皆。
僕は心の中で生徒会メンバーと早苗ちゃんに合掌してから、自室に向かった。
僕が布団に入った頃、『ひぎゃァァアアァァアア!』という断末魔が聞こえたが、空耳だと思うことにして、僕は眠りについた。
♦︎
翌朝、僕が顔を洗ってリビングに降りると、そこには地獄絵図が広がっていた。
生徒会メンバーと早苗ちゃんが全身黒タイツのモジモジくんスタイルで転がされている。
眉は太眉を描かれ、全員謎の金具で鼻フックされ、縛られている。
女性の尊厳をことごとく踏み躙られた無残な姿であった。
うわー…………哀れ……
「み」
早苗ちゃんが震えながら声を発する。
「み」
太眉の下の大きな目から涙が滲む。
「見ないでェエエエェエエエ!」
可愛らしい高めの声で紡がれる悲痛の叫びが、太眉鼻フックモジモジちゃんの口から放たれた。
後で聞いた話だが、姉ちゃんは早苗ちゃんの策略で、騙されて県外に行かされているところだったが、僕が心配で急遽戻ってきたという。
完全に早苗ちゃんの自業自得なのだが、この悲痛な叫びを聞くと、哀れすぎていたたまれない……。
これに懲りて、少し行動を自重してくれるといいのだが、早苗ちゃんもかなりぶっ飛んだ思考回路してるから、あまり期待できないかもしれん。
姉ちゃんといい、早苗ちゃんといい、なんで僕の身内はこうもヤバ寄りのヤバが多いのだろう……。
僕はまともなつもりだが、その遺伝子を受け継いでいるという事実は揺るがないわけで。
僕の子供にも、ヤバ遺伝子が受け継がれるのかと思うと、同情を禁じ得ない。
そんなまだ見ぬ僕の子孫達に思いを馳せ、暗い気持ちになる朝であった。
須田の血筋がヤバい……。
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