第32話 文化祭の出し物
「もうすぐ文化祭です」
会長が何故か敬語で宣言する。
これは会長が何か提案したい時の兆候だ。僕は警戒を強めた。
「もうすぐって、まだ間に夏休み挟むじゃないですか」
「いやいや、夏休みなんて、あっという間だよ。この夏休みをラストスパートとして文化祭の準備にあてるクラスも多いんだから」
会長は僕の指摘を跳ね除けると、他に口を挟むものがいないか見回して、誰もいないと確認してから続ける。
「それでね――
「――分かりましたわ! 生徒会でも何か出し物をしたいと、会長さんはそうおっしゃりたいのですね」
ドリちゃん先輩が突然挙手して、空気を読まず、会長の提案を先取りした。
あーあ。会長怒りでぷるぷる震えてらァ。ぷるぷる震え過ぎて、輪郭がブレてらァ。僕知らね。
会長は微振動ブレードのようにヴィーンと微細動しているかと、思えば突然微細動を止め、何事もなかったかのように笑顔を浮かべて、再び口を開く。
「――それでね」
あ、なかった事にした。ドリちゃんの横やりをなかったことにした。
ドリちゃんは『え? え?』と涙目で挙動不審になっている。
覚えておけ、ドリちゃん。この生徒会では、答えが分かっても会長に言わせてやらないといけないのだ。
それがこの生徒会での暗黙の了解なのだ。
「急な話で皆、びっくりすると思うんけどね、生徒会でも出し物をやろうと思うんだ!」
「それ
「えぇ?! 出し物ですかァ?! すごォい! 美咲、楽しみ過ぎて、メカいじりが止まらなァい!」
美咲ちゃんはワザとらしいセリフを吐きながらも、会長を一瞥すらせず、謎のメカをいじくっている。
というか、さっきからずっと会長の話をメカいじりの片手間に聞いている。舐め腐った後輩である。
しかし、会長は、
「ふふん! でしょ?」とアゴをあげて、ドヤ顔をする。
いいんだ? 美咲ちゃんのあんな態度でいいんだ? 会長って基本的に何でもそつなくこなすパーフェクトヒューマンだけど、なんでこういう時、目が節穴なのか。やっぱりバカなのだろう。
「慎ちゃん!」
会長が僕を名指しする。
僕は会長をバカだと結論付けたところだったので、ギクリとした。
「違います違います! 誰も会長がパーフェクトバカだなんて思ってません!」
「誰もそんなこと聞いてないんだけど。てか、思ってんだ? パーフェクトバカだって……」と会長が目を細めて僕を睨む。
やっべ、やっちまった。なんとか誤魔化さなければ。
「いやいやいや待ってください! 誤解です! 確かに会長はパーフェクトバカだけど、大丈夫ですって! 可愛いから! 会長、可愛いから大丈夫です!」
「いや、慎一、それ何のフォローにも――
「――え! 可愛い?! 私可愛い?」
ツッコみを入れようとした薫先輩を遮って会長が声を上げた。
会長はテレテレしながら、顔を赤らめても身を捩っている。チョロすぎる。さすがパーフェクトバカ。
周りを見ると会長を除く生徒会一同が皆、無言で頷いて、会長のパーフェクトバカぶりを再確認していた。
「で、僕が何なんですか? 会長」
「あ、そうだった! 慎ちゃん! お願いがあるの!」
「イヤです」
「即答?!」
どうせろくでもないことに決まっている。
文化祭の出し物でやれコスプレしろだとか、やれ接客しろだとか言い出すに決まってる。
そんな面倒なこと、僕は絶対に引き受けないぞ。
「会長、慎ちゃんに何をしてもらうつもりなんですか?」と桃山が尋ねる。
「いや実はね」と会長。
僕は先にクギを刺しておこうと、会長が再び口を開く前に言った。
「僕、コスプレとか接客なんて、しな――
「――慎ちゃんを展示しようと思って」
…………………………ぱーどぅん?
え、待って待って。僕を展示ってどういうこと? 僕の写真を展示ってこと? それならまだ分かる。いや、それもそれでよく考えれば頭おかしいけど、まだ分かる。
けど、この生徒会は頭おかしいどころか、頭のネジがぶっ飛んでる連中だ。まさかってこともある。
僕は確認の意味で聞いた。
「…………僕の写真を展示するって、意味ですよね?」
「ううん。違うよ。慎ちゃんを
即答ォォオオオ! 頭沸いてる回答を即答ォォオオオ!
「あ、それなら私、
薫先輩ィ?! 何フツーに受け入れてんの?! てか、なんで
どこに
「待ってください!」
美咲ちゃんである。
美咲ちゃんが立ち上がって、声を張り上げる。
おぉ! やっとまともな意見が出そうな雰囲気!
「会長! このご時世、プライバシーは守らなくてはダメじゃないですか! 慎ちゃんを展示なんて個人情報保護の観点から問題ありありです!」
いいぞいいぞ! 美咲ちゃんがまともだ! 若干『お前が言うな』とは思ったが、今はそれは置いておこう。もっと言ってやれ美咲ちゃん!
美咲ちゃんは真剣な面持ちで続けた。
「だから、顔がバレない展示にしましょう。
オォォイ! コラ! 美咲コラ!
やっぱりなァァ! やっぱり美咲ちゃんは安定の美咲ちゃんだわ!
今回も出してきたな? お得意の『チンポ』出してきたな? 毎回思うけど、なんで『チンポ』なん? 変態かよ!
しかし、再び異を唱える者がいた。
「いやいや、それはマズイよ」
桃山である。今度は桃山が美咲案を否定する。
「だって慎ちゃんのチンポはポークビッ――ユニーク型だから、一発で慎ちゃんのチンポだってバレちゃうよ?」
「おい。今ポークビッツって言おうとしたよね? 僕の大事なところポークビッツって言おうとしたよね? ユニークスキルみたいな呼び方してもカッコよくならないからね? てか、なんでポークビッツだって知ってんだよ! この変態!」
「安心して慎ちゃん。他の男子にお金払って慎ちゃんのチンポタイプを教えてもらっただけだから」
安心できねェェエ! チンポタイプってなんだよ!
何に金使ってんだよコイツ!
「いや、チンポはやめて?! まじで洒落にならないから! 警察来ちゃうから」
その後、僕の必死の土下座と懇願により、チンポ展示の流れはなんとか断ち切ることに成功した。
「しかし、チンポが使えないとなると困ったな」と薫先輩が顎に手をやり、思案顔で呟く。
なんも困んないから! 他に出来ることいくらでもあるだろ!
「あ! じゃァ、こういうのはどうでしょう」
ドリちゃん先輩が切り出した。
嫌な予感しかしない。この人、大真面目にぶっ飛んだことするから怖い。
「生のチンポは食品衛生法の観点からよろしくありません――」
「いや、食品じゃねぇから。チンポ食品じゃねぇから。食品衛生法うんぬん以前に倫理的にやべぇから」
ドリちゃん先輩は、僕のツッコみに全く動じる事なくスルーして続ける。
「――そこで、偽のチンポを使うのです」
「に、偽のチンポぉお?!」
一同が大仰に驚愕する。
そこ。薫先輩。立ち上がらなくていいから。座ってなさい。
薫先輩が静かに着席するのを確認してから、ドリちゃん先輩は説明を始めた。
「いいですか? 生のチンポは食品衛生法の他にも問題があります。それはポークビッツ問題です」
「うるせーわ。何開き直って堂々とポークビッツ言ってんだよ!」
ドリちゃんはやっぱり僕のツッコみを無視して先を続ける。
「これを解消できるのが、偽チンポ作戦です。先日ひとり隠れんぼで使った慎様勃起人形がありますよね? あれのチンポ版を作るのです。慎様勃起チンポフィギュア1/1スケールを作るのです!」
「なるほど! フィギュアなら食品じゃないから安心だ!」と薫先輩。
いや、もともと食品じゃないからね? 自家発電の後とか、ちょっと臭う時あるかもだけど、別に腐食とかじゃないから。
「それだけじゃないですよ! 勃起サイズを採用すればポークビッツ問題も解決できます!」
美咲ちゃんがそう言いながら、立ち上がって、アンドロイドの腕のようなメカを股間に添えて、擬似チンポをする。
いや、それポークビッツでも勃起チンポでもないから。腕だから。股間に添えないで?
「でも、慎ちゃん勃起チンポフィギュアの展示だけだと、どぉ〜も一辺倒なんだよなァ」
会長はまだ納得いかないようだ。
それはそうだ。チンポフィギュア展示だと展示品はチンポ1品のみ。僕のチンポとうたっている以上、形状を変えてバリエーションを増やすこともできない。
会長はその点を気にしているようだった。
逆にチンポ関連をやめさせるには絶好のタイミング。
僕はこの機を逃さずに攻めた。
「会長! やっぱりチンポ関連は無理ですよ! 普通にお化け屋敷とかにしましょうよ! ね! そうしましょう!」
すると、会長が僕の言葉にピクリと反応した。
「…………慎ちゃん、今……なんて言った?」
「え? だから、チンポフィギュア展示はやめて、普通にお化け屋敷にしようと――
「――それだ!」
どれだ?! 僕は会長に無駄なひらめきを与えてしまったらしい。
僕は『俺またやっちゃいました?』系主人公には絶対ならないと思っていたが、どうやら僕はまたやっちゃったらしい。
会長は興奮した様子で机に両手を強くつき、立ち上がって言う。
「お化け屋敷! アトラクションにしてしまえばいいんだ! その名も『慎ちゃんのチンポ屋敷』」
このちびっ子またとんでもないアトラクションを生み出そうとしている……。
「そうか! それならチンポが壁から突然生えてきたり、チンポが追いかけて来たり、とバリエーションが増やせる!」と薫さんが解説する。
チンポが追いかけて来るってどういう状況?!
いや、壁から突然生えてくるのもヤバいけど!
「でも、慎様のチンポフィギュアですよ? あまりの魅力に先に進まない人とかも出てきそうです」
ドリちゃんが問題点を挙げる。
そうだそうだ! これを機にチンポ屋敷は中止にしろォ!
しかし、その問題点について、桃山が対策案を提示する。
「なら、そういう客には上から白濁した水をかけて先に進ませよう!」
「おい桃山、白濁してる必要あるか? それは絶対に白濁してなきゃならないのか?」
僕の疑問は案の定スルーされた。
「よし。じゃあ決を取るよ。慎ちゃんチンポ屋敷に賛成の人ォ〜?」
5本の腕が上がる。
「可決! じゃァドリちゃん。早速企画書書いて」
「はい、すぐに!」
「じゃあ私は慎ちゃん先輩勃起チンポフィギュアの設計でもしようかな」
「薫先輩、私と一緒にチンポギミック考えませんか?」
「そうだな。それとチンポ屋敷のルートも考えなきゃな」
動き出す生徒会。
こんなアホな企画通るわけない。
そう思っていた。が、忘れてはならない。この学校は教師までアホなのだ。
慎一勃起チンポ屋敷は何故かあっさり許可がおりた。
こうして、生徒会の出し物は『慎一チンポ屋敷』に決定した。
おそらく学園ラブコメ系の話の文化祭の出し物で、『チンポ屋敷』を取り行ったものは皆無であろう。
当たり前だ。こんなに下品でアホなことを大真面目に考えるのは、この生徒会だけだ。
夏休みもチンポ屋敷の準備で忙しくなるだろう。
想像するだけでうんざりする。
僕の夏休みが、チンポ色に染まっていくのを感じた。
『チンポ色の夏休み』
『チンポづくしの夏休み』
『チンポと過ごす夏休み』
ううむ。どう表現してもヤバい。
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