第31話 合コン 後編

 

 僕は酔い潰れた桃山をおぶって、駅に向かって歩いていた。


 すると桃山がピッタリのタイミングで言う。


「もう無理。吐きそう。慎ちゃん、私もう1秒も耐えられない〜」


 芝居がかったセリフを言う桃山。

 何がピッタリのタイミングなのか。

 それは僕の真横にあるお城のような建物、その入り口の目の前を僕が通ったタイミング、ということである。

 そして、案の定、桃山が提案してきた。


「そこのラブホでちょっと休憩させて!」


 こいつ……。

 十中八九、確信犯である。

 だが、もし嘘じゃなかったら電車が大変なことになってしまう。


 僕は迷った。


 迷った末、結局、ラブホの門を潜った。

 外で桃山を捨てて行くのはあんまりだと思ったので、ラブホの中に捨てて行こう、そう考えたのだ。


 体調が悪いと言うくせに、キビキビと部屋を選択する桃山。

 こいつやっぱり仮病か……いや、それよりも――


「なんかお前手慣れてんな? 来たことあんの?」


「ないよ? でもいつ慎ちゃんと来ても良いように徹底的に調べたから、大体のことは分かるよ」


 なんだそれ!

 無駄な努力である。

 いや、今活用されているということは無駄ではないのかもしれないが……。


 桃山は部屋を選択し終えると、再び僕におぶさる。

 いや、あんだけイキイキと部屋選択してんなら、もうおぶる必要ないだろ!


 部屋に入ると、そこにはキングサイズのベッドがデカデカと部屋の大半を占領していた。まさにヤる部屋。ヤり部屋である。


 僕はそっと桃山をベッドに横にさせた。

 桃山は少し苦しそうに息を荒げている。なんだ、やっぱり体調悪いんじゃないか。

 ベッドの桃山が苦しそうに言う。



「慎ちゃん……脱がせて……?」



 ……………………いや、分かってる。分かってるよ? 服全部を、じゃないのは分かってる。完全に分かってる。『シャツを』でしょ? 分かってる分かってる。分かりすぎてる。分かり過ぎてどっかのコピペみたいになってるから。

 暑いからシャツを脱がせて、ラフな格好にさせてって意味でしょ?

 おっけー分かった。分かってた。最初から分かってた。

 でもさぁ、分かった上で、言わせて?





 それでもエロいわ!





 下、キャミでしょ? えっろ! 脇でるじゃん! 露出しちゃうじゃん! えっろえっろ!

 まぁ、やるけどね。




 桃山の白のレース付きのブラウスのボタンを丁寧に外して、脱がせてやる。

 黒のキャミ姿になる桃山。

 桃山のつるつるの脇がチラッと見えた。

 余りのエロさに脇に視線が釘付けになっていると、急にガバッと桃山の腕が僕の頭をホールドする。



「慎ちゃん……大好き……❤︎」


 僕の顔が桃山のおっぱいで包まれた。


 ちょォォ! おっぱい! おっぱいィィイイイ!

 僕の理性は桃山のおっぱいでおっぱいおっぱい、いや違う、いっぱいいっぱいだ!



「てか、お前やっぱり仮病かよ!」


「恋の病だよ?」


「やかましいわ!」


 僕は桃山の脇腹をつついた。


「――んひゃっ?!」


 桃山がくすぐったさに身をよじった隙に、桃山のホールドから抜け出す。


 危ない危ない。桃山のエロ可愛さは危険だ。危うく既成事実を作られるところだった。

 いや、それだけならまだマシだ。桃山のことだ。勢い余って子供まで作りかねん。


 僕は廊下に出る扉のノブに手をかけて、桃山に言った。


「じゃ、桃山も元気そうだし、僕は帰るわ。桃山は一応安静にしておけよ。じゃな」


 桃山は平然と返す。


「慎ちゃん、その扉開かないよ」


 ………………は?!

 なんで?! なんでなんでなんで?! 

 僕はガチャガチャとノブを回すが、一向に扉は開かないよ。

もしやラブホぐるみで僕をはめている?!

 しかし、真相はもっと単純であった。桃山があっさりもネタバラシする。


「そこの機械で精算しないと扉開かないから」


 なんだ。そういうことか。

 僕は機械の画面を見て、驚愕の声をあげる。


「2万?! たっか!」


 そして、おそるおそる自分の財布を開いた。


 582円……。


「残念だったね慎ちゃん。582円じゃここからは出られないよ?」


「いや待て。桃山、なんで僕の残金知ってる?!」


「慎ちゃんのことは何でも知ってるよ?」


 さすがエリートストーカー。ストーキング対象をラブホに監禁するだけのことはある。

 僕は桃山に金を貸してくれと頼もうと、桃山に目を向けると桃山は金庫に財布を入れているところだった。



 ガチャっ






「………………あのォ〜……一応聞くけど、お金貸してくれない?」


「19,000円までならテーブルに置いておいたから好きに使っていいよ」


 それじゃ意味ねェェエエエエ! ギリギリ届かねーんだわ二万円にィィ!


 くっそ! なんか喉渇いてきたわ!

 もうヤケクソだ! 桃山も良いって言ってるし、この19,000円を使おう! ゴチになりまァァす!


 僕は飲み物を買おうと冷蔵庫のような形をした自動販売機を開けた。









 そして、固まる。







 これ、アレだわ。大人のおもちゃの自販機だわ。

 僕は罠にかかったようだ。

 おそるおそる桃山を見ると、桃山はこっちを見てニヤニヤしていた。





「バイブ買うの? 慎ちゃんのえっち❤︎」





 ちっげェェエエエエ!

 これは僕の欲しいものじゃない! いや、これはこれで欲しいが、そうじゃない! 飲み物! 飲み物が欲しいの僕ぅぅうう!



「それ、私に差し込めば飲み物出るよ自動で」



 ちっげェェエエエエ!

 そうじゃねぇーんだわァ! いや、それはそれで魅力的な提案だけれども、やっぱりそうじゃねぇーんだわァァ!

 僕が欲しいのは水分! 愛液以外の水分! 潮でもなければ尿でもない!



 僕は結局ベッドの脇に置いてある見たこともないメーカーのペットボトル水を発見し、それで喉を潤した。

 ちなみに大人のオモチャはいくつか購入させていただきました。

 いや、記念にね。記念に。



 動揺してたら、なんか汗かいたな。、

 そうだ、風呂だ! 風呂にでも入って、疲れを癒そう! 流石に桃山も風呂に侵入してくるなんてことはないだろ!

 僕は念のため、桃山釘を刺しておくことにした。


「僕風呂入るから、桃山絶対に入ってくるなよ! 分かったな!」


 桃山を見て、厳しく言った。

 しかし、桃山は何故か小さくガッツポーズして、ニマニマしている。怪しすぎる。


「おい、本当に分かってんだろーな?」


「分かってる分かってる! 分かり過ぎてる! 分かり過ぎてつらい!」


 そう言いながら、鼻血をツーっと垂らす桃山。

 何気なく風呂の方を見た時、僕にも理由が分かった。





 なんで全面ガラス張りなん……?





 なんと風呂場は全面ガラス張りでベッドから丸見えだった。

 変態かよ! 仮にカップルだとしても、情事の前の清めの儀が丸見えなんて、イヤ過ぎる!



「……………………入らないの?」



「入れるかっ!」



 桃山は分かりやすくガッカリしていた。


 僕は疲れ果てて、ソファに座った。

 桃山がベッドで横になりながら両手で頬杖をついて、微笑みながら僕の方を見ている。




「…………桃山、体調治ったん?」



 僕がそう桃山に尋ねた瞬間、どこからか小さく声が聞こえた。



『ぁんっ❤︎ ぁぁあああっ❤︎ イクっ、イクぅぅう❤︎』



 隣室で致している声である。

 僕と桃山の間に気まずい空気が流れる。

 正確には気まずいと思っているのは僕だけで、桃山は違う。その証拠に桃山はなんか笑みを一層深めている。

 隣室の女が果てる声を聞き遂げてから桃山が、先の僕の質問に答える。



「私はまだイマイチかなぁ。まだ酔いが残ってるみたい。……………………慎ちゃんは元気いっぱいだね」



 おい。やめてもらおうか。僕の股間を見て言うのやめてもらおうか。

 しょうがないだろ? だって果ててるんだよ? エロい声で『イクぅぅううう』言って果ててるんだよ? そら勃つわ。そびえ勃つわ。



 だが、大丈夫。落ち着け。まだ慌てる時間じゃない。

 こういう時こそ平常心。心を鎮めるんだ。

 普段通りの行動を取れば、自然と心も落ち着くものだ。

 この時間、僕はいつも何してる?

 ……そうだ、テレビだ。いつもならドラマなりバラエティなり、テキトーに流し見してる時間だ。




 ふっ、勝った。自分の煩悩に打ち勝った!




 僕はテレビをつけた。




『あああん❤︎ ダメぇぇえ〜えぇ❤︎ あああああああん❤︎』




 ピッ




 即座にテレビを消す。




 僕のあそこが『ニョキッ』ってなった。

 なんかタートルネックから頭だして『1ニョッキ!』ってなった。1人タケノコニョッキゲームである。




 て、オォォォイ! なァァァんでAVやってんだよ! デフォルトでAVやってんじゃねェーよ!




「……………………」




「……………………」




 またも気まずい沈黙が訪れる。

 今は何を話しても滑稽なだけだ。

 なぜなら僕のジョニーが未だに『たけのこ、たけのこ、ニョッキッキ!』をやっているからだ。

 ここは沈黙しかない。耐えるんだ僕!


 僕が目を逸らして、必死に沈黙に耐えていると桃山がポツリと呟いた。



「…………えっちしたら体調治るかも」



「んな訳あるか!」


 僕は勃起しながら即座にツッコんだ。



「冗談冗談! はぁ、ちょっと私も喉渇いちゃった。そこの水、取ってくれる?」


 桃山のほっぺが若干ほてっていた。

 あーあー、調子に乗ってるからそうなるんだよ。

 仕方ねーなぁ。

 僕は桃山にペットボトル水を手渡そうと近付いた。




 次の瞬間。




 ガバッと桃山が僕の両腕を巻き込むように、僕に抱き付いた。


「ちょっ! おい! 桃山?!」


 僕の胸に顔を超高速ですりすりさせている。こっわ。何コイツ! こっわ!

 桃山がスリスリくんくんしつつ、目をハートにさせ、興奮して言う。


「慎ちゃん❤︎ 慎ちゃん❤︎ あぁ慎ちゃんん〜❤︎ いいよね? いいって事だよね? ここまでついて来たってことは、OKってことだよねっ?」



 ついて来てねぇぇーわ! 騙されて監禁されてんだわ! 

 桃山の目がヤバい! 完全に正気を失っている! 完全にヤンデレのそれである!





 だが、まぁしかし、大丈夫だ。

 備えあれば憂いなし。僕は桃山の暴走をあらかじめ、予測し、対策してあったのだ。


 僕はポケットから手錠を2丁取り出すと、桃山の両手に1丁ずつかけて、それぞれベッドのスチール部分に繋いだ。

 こんなこともあろうかと、さっき大人のおもちゃ自販機で買っておいたのだ。

 当然、桃山の金で、である。



「ちょっ! えぇ?! 慎ちゃん…………」




「悪く思うなよ桃山。これは僕の貞操のた――




「――いきなりSMプレイなんてっ! 慎ちゃん変態過ぎるぅっ! でも、大丈夫だよっ。慎ちゃんになら、ムチャクチャにされても…………いいよっ❤︎」



「『いいよっ❤︎』じゃねぇーよ。僕はソファで寝るから、安静に寝とけよ?」


 僕は桃山と反対側を向いて、ソファに横になる。



「ちょ! ぇぇええ?! 放置?! 放置プレイなの?! ちょっとォォ! せめて! せめて放置プレイするなら、ちゃんと電マとかバイブとか股にセットしてからにしてぇぇええ!」



「バカ言ってないで早く寝ろ」



「ええぇぇぇ?! せっかくなのに! せっかくのラブホなのにィィ! 慎ちゃんの鬼ィィイイイ!」




 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■




「慎ちゃんの鬼ィィイイイ!」


 慎ちゃんがソファで横になって、プイッと向こう側を向いてしまう。


 ああぁぁ……。慎ちゃん……。

 せっかくここで私の初めて捧げようと思ったのに……。



 すると、突然、慎ちゃんがガバッと起きて、こちらにテトテト歩み寄ってきた。



「慎ちゃん! 戻ってきてくれたのね! 信じてたよ慎ちゃん! 愛してる!」


「いや、違う違う。良いチャンスだから脇の匂い嗅いでから寝ようと思っただけ」


「…………はい?」


「いや、だからァ。せっかく桃山を脇が閉じられないように拘束してるから、このまま寝るの、なんかもったいないだろ? だから嗅ぐの。分かった?」


「『分かった?』じゃないから! ちょ! まままま待って待って待って! お風呂入ってないから! いっぱい汗かいちゃったか――んひぃ! やめて! お願いやめてぇぇえええ!」


 慎ちゃんが私に乗っかり、脇の匂いをクンカクンカと嗅ぐ。

 慎ちゃんの息があたって……くすぐったいィィ!

 脇をしめようとしたが、手錠でベッドに繋がれ、閉めることができなかった。

 だめだめだめマジで汗臭いから! 慣れない合コンとかして、脇汗かきまくってるから! やめて……だめぇぇぇええええ!





(5分後)





 しばらくクンカクンカに耐えていると、急に慎ちゃんのクンカが止まり、静かになる。




「はぁはぁはぁはぁ…………慎……ちゃん?」





「……………………」




「……………………」

























「………………すぴー」



 寝とるゥゥゥウウウ! 

 慎ちゃん! 可愛いけども! その寝顔は尊いけども! よりにもよって私の脇で寝ないでくれる?! いつまでなの?! この羞恥プレイいつまで耐えればいいの?!



「むにゃむにゃ……んんぅ? 新作キャンディ……おいしそう……」




 ぺろっ




「ひぃぁぁああ?!」




 慎ちゃんが寝ぼけて、私の脇を舐めた。

 あまりのくすぐったさに体が跳ねる。




「……んんぅ?……ソルト味……」




 だァァれの脇がソルト味だァァ!

 仕方ないじゃん! 仕方ないじゃん! お風呂入ってないんだから! 誰だってソルト味になるわ! 



「…………美味しい……。熱中症予防……大事」




 ぺろっ




「んひゃァァァ?! ダメだって! 慎ちゃん! マジで! マジで謝るから! 謝るから起き――ふぃぁあああっ!」




 夢の中で飴を舐めているであろう慎ちゃんは、寝ぼけて私のソルト味キャンディを舐め続けた。

 私はしばらくの間、羞恥とくすぐりのダブルパンチの地獄を味わうのだった。

 私はこの夜、『ラブホは絶対、同意の上で来よう』と固く誓った。




 慎ちゃんのエロ漫画主人公っぷりがヤバい!


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