第25話 アレがない!②
「ない! ないよ! どうしよう! アレがない!」
生徒会室に全員揃って、それぞれ仕事に取り掛かろうと筆記用具やらパソコンやらを用意していたところ、突然、会長が叫んだ。
毎度毎度のことではあるが、問題を起こすのはいつだってこのちびっ子会長なのだ。
「何がないって言うんですか? またコンドームですか?」
「慎一、コンドームはあの一件から、金庫にしまうことになったから、大丈夫だ」
薫先輩が僕を安心させようと力強く頷く。
いや、別にコンドームなんてどうでもいいわ!
「パンツが……私のパンツがないんだよォォ!」
会長が涙目で叫んだ。
全員が僕の方に視線を向ける。会長以外全員がジト目である。
まるで『犯人は分かりきっている』とでも言わんばかりの表情。
「いやいやいや。僕じゃないから!」
「だって、この中で女子のパンツで喜ぶのは慎ちゃんしかいないでしょ?」と桃山がジト目を継続して言う。
いや、確かにそうだが! 女子のパンティもらえたら全力で喜ぶが! でも、盗ったりはしない!
「いや、本当だって! 僕の目を見ろ! これが人のパンティを盗む変態の目に見えるか?! え?!」
僕のこの澄んだ瞳を見てもらえば、きっと分かってくれる。須田慎一はただの善良な一市民だと。
「見えるね」
「見えるな」
「うん、紛うことなき変態」
「慎ちゃん先輩、
「慎様、
僕、信用ねぇぇええー!
美咲ちゃん、僕の目にヘンテコな名前つけるのやめて! 魔眼みたいだけど、全然カッコよくないから!
「というか、会長はそもそもなんでパンティなんてカバンに入れてんですか! おかしいでしょう! これは罠です! 陰謀です! 僕ははめられただけです!」
そこから突き崩す。
パンティを常時カバンに詰めてるなんて、紐パンを詰めていたドM変態の薫先輩くらいのものだ!
これは何かがおかしい!
「いや、今日プールあったからさ。なんか同じパンツ履き直すの嫌で、替えたんだよ」とちょっと恥ずかしそうに会長が説明する。
何もおかしくなかったァァァ!
速攻で論破された! 論破というか、そもそも着眼点がクソだった!
「慎ちゃん先輩。言い逃れはできませんよ? 慎ちゃん先輩は前科もあるんですからね」
「おいこら、人を勝手に前科者にするな!」
僕が何をしたって言うんだ! この清廉潔白な僕になんてことを言うのか!
「だって、慎ちゃん先輩、野球拳の時、ドリちゃん先輩のパンツ胸ポケットにしまってたじゃないですか」
そうでしたァァアアア!
いや、でも待て! まだ言い逃れは可能だ!
「アレはちゃんと満足するまで匂い嗅いだら返しただろう?!」
「満足するまで臭い嗅がないでもらえますぅ?!」
ドリちゃん先輩が顔を赤くして叫んだ。
アレは控えめに言って最高な匂いだったな。
お金払ってでもまたレンタルしたいくらいだ!
「そこまで言うならさァ」と会長が切り出す。
「慎ちゃんのカバンの中、見させてよ」
会長は薄く笑いながら言った。
「いいですよ? その代わり、何も出てこなかったら、僕を疑った罰として全員からパンティを1枚徴収しますからね!」
別にカバンなどいくら見られたって問題ない。
僕にはやましいことなど、何もないのだから。
しかも、これで生徒会メンバーのパンティを5枚もゲットできるのだ!
ははははは! これぞ棚ぼた!
しばらく賢者化に必要な媒介アイテムに困ることはない!
僕はまず自分でカバンを開いて、中を見た。
ほら、何もな――あっれぇぇええええええ?
おかしいな。幻覚かな? 会長のパンティを想像しすぎて、具現化しちゃったかな?
おかしいな。ハンターハ◯ターのク◯ピカは舐めたり齧ったりとにかく鎖で遊んで初めて具現化してたのに。
僕会長のパンティを舐めたり齧ったり遊んだりしてないのに。
そこには薄黄色のひらひらレースがついた可愛らしいパンティがあった。
会長のものだと主張するかのような小さめサイズの上品な肌触りのパンティ。
というか、書いてあるわ。これ『かいちょー』って油性ペンで書いてあるわ。
なんで『かいちょー』なの? せめて名前書けよ。
いや、そうじゃない。なんで会長のパンティが僕のカバンの中にあるのかって話だ!
こんなのが皆に見つかったらヤバい!
死んでしまう! 社会的に死んでしまうよ!
もうすでに『笑ってよがんす』の全国放送で勃起を晒した時点で、社会的立場は瀕死なのだけれど、今回のコレでトドメを刺されてしまう!
僕の焦りも知らずに、会長たちが僕を急かす。
「慎ちゃん、何してんの?」
「何を固まっているんだ?」
「早く見せてくださいよ」
一同が僕の背後に迫る。
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!
ヤバいよヤバいよォォ!
僕の中の出川◯郎が開花する。
――って、言ってる場合か!
僕は生徒会一同に振り向き、カバンを背後に隠す。
「何もない! 何もなかった! 皆のパンティをもらうのも可哀想だから、もうお終いにしよう! ね! そうしよう!」
汗をだくだくかきながらも、なんとかこの場を無事に終わらそうと、必死にまくし立てる。
「何言ってんの慎ちゃん。怪し過ぎだよ」
「慎様、今ならまだ間に合います。自首しましょう?」
「慎ちゃん先輩、変態眼発動してるから、何か隠してるのバレバレですよ」
変態眼発動してねぇぇぇええーわ!
くっ、やはりこの生徒会には誤魔化しは通用しないか……。
こうなったら仕方がない。
アレをやるしかない。
僕は覚悟を決めた。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
ふふふ。計画通り!
実はこのパンティ盗難は私の自作自演!
私のパンティを盗んでしまう程に、慎ちゃんは会長たる私のことを愛していると皆に印象付けるためのイベントなんだよ!
私のパンティを手に入れた変態たる慎ちゃんは当然、パンティの臭いをくんくんと嗅いでしまうだろうけど、そこはギリギリ許容できる!
狂言がバレないように、本当に5時間目のプールの時間まで履いていたパンティを使っているけど、嗅がれるだけなら、ギリッギリ大丈夫!
ちゃんと消臭スプレーしまくったから大丈夫!
本当はめっちゃ恥ずかしいけど、『大丈夫!』って思うことにする。大丈夫!
慎ちゃんはカバンを開けて、固まった。
ふふっ。驚いてる驚いてる。そりゃそうだよね。
自分のカバンに身に覚えのないパンティが入ってるんだもん。それ高かったんだからね? 勝負パンティなんだからね?
…………あれ? なんで慎ちゃん、出川哲◯みたいなワサワサした動きしてんの?
あ。ツッコんだ。誰もいない空間に手の甲、振ってツッコんだ。何やってんだ。
テンパりすぎて謎の動きをする慎ちゃん。可愛い❤︎
私たちは慎ちゃんを追い込んだ。
怪し過ぎるムーブを繰り返す慎ちゃんは、ボロを出しまくり、とうとう言い逃れできないところまで来てしまった。
だが、それがいけなかったのだろう。
私たちは忘れていたのだ。慎ちゃんがとんでもないアホで、とんでもない変態であることを。
私たちがもう実力行使でカバンを奪ってしまおうかと考え出したその時。
慎ちゃんはバッとカバンの方に向き直ると、ガッと手で何かを掴む。
皆は何を掴んだのか分からなかったと思う。
でも私には分かる。
アレはパンティだ! 私の勝負パンティだ!
そして、掴んだ勢いそのままに、慎ちゃんはあろうことか、それを口の中に隠した。
え…………
ちょ…………ぅそ………………
だ……
だめぇぇぇぇえええええええええ!
何してんの?! 何してんの?!
うそでしょ?! なんでパンティ食べてんのォォォォオオオオ?!
それほぼ1日履いてたんだよ?! やめて! お願いやめて! 汚いから!
嗅ぐ程度ならまだ許容できたけど、まさか口に入れるなんて思わないじゃん!
顔が異常に熱い!
目に涙が溜まってるのも自覚していた。
でも、泣いちゃダメだ! ここで泣いたら自作自演がバレてしまう!
「慎一、今何か口に入れなかったか?」
薫が尋ねる。
慎ちゃんがなんとか喋ろうとするが、パンティが詰まっていて、喋れない。
喋ろうとするたびに口からパンティがチラチラ見える。パンチラである。
慎ちゃんやめて! パンチラって本来、口でするものじゃないから!
奇跡的に生徒会メンバーはパンチラには気づいていなかった。
「なんか慎一、もごもごしてないか?」
薫がさらに踏み込む。
やめて薫! そこは開けてはいけないパンドラの箱! いや、パンチラの口!
私がなんとかフォローしなくちゃ!
じゃないと、『慎ちゃんに汚いパンティを食べさせた女』と後ろ指さされる学園生活を送ることになっちゃう!
「の、喉が痛いんじゃない? 慎ちゃん喉痛めてるって言ってたもん! ねぇ? 慎ちゃん?」
慎ちゃんが凄い勢いで首を縦にブンブン振る。
「そうなの? 私薬用ののど飴持ってるよ? はい、どうぞ」
遥香が慎ちゃんにのど飴を手渡す。
ああああああああああああ!
やめてぇぇぇええええ!
飴と一緒にパンティエキスが流れ込むからやめてぇえええ!
私の心の叫びは届くわけなく、慎ちゃんは躊躇いながらも、のど飴を受け取り、袋を開けて、口に入れた。
私は慎ちゃんの手首を掴んで、立たせてから皆に言った。
「私、ちょっと慎ちゃんを保健室に連れて行ってくるね!」
「あ、なら
「――大丈夫! 私もパンツ盗難の件を先生に報告したいし、ついでに行ってくるだけだから! ね! 皆ちょっと待ってて!」
立ち上がろうとしたドリちゃんを制して、私はさっさと慎ちゃんを連れて、廊下に出た。
♦︎
「もう! なんで口に入れてんの?! 信じらんない! 信じらんない!」
私が慎ちゃんの肩をポカポカ叩くと、慎ちゃんは「んがっ! んががっ!」と言って、割と本気で痛がっていた。
そして、おもむろに口から薄黄色のレース付き高級パンティを取り出すと、唾液でベトベトのそれを私に差し出す。
「はい。どうぞ。会長のでしょう? もう! 変ないたずらはやめてくださいよ!」
よく見るとそのパンティは表裏が翻っていた。
ということは、お股に当たっていた部分が慎ちゃんの口内に接触していたことになる。
わざとだ……
絶対わざとだ…………!
変態の慎ちゃんのことだから、わざとに決まってる!
私は恥ずかしさで顔が燃えるように熱くなるのを感じた。
慎ちゃんをキッと睨むと、慎ちゃんはヘラヘラと満足そうな顔をしていた。
慎ちゃんの……
慎ちゃんの……
「慎ちゃんのエッチィィイイイ!」
私はベトベトのパンティを片手に慎ちゃんから逃げるように走り出した。
後ろから慎ちゃんの独り言ちる声が聞こえてきた。
「初めてラブコメヒロインみたいなセリフ聞けた気がする」
なんか感動にふけっていて、慎ちゃんは全然追いかけて来ない。
ふんだ! ふんだ! もういいもん! 慎ちゃんなんてもう知らない!
追いかけなかったことを後で後悔したって遅いんだからね!
もうみんなに言いふらしちゃうから!
先生にも、生徒にも、もちろん生徒会役員にも、言いふらしてやるから!
慎ちゃんの性癖がヤバい! ってね。
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